法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『コミック国防の真実 こんなに強い自衛隊』

今回は読み込んでいないので、簡単な感想でしかないことを最初に注意しておく。
原作および監修の井上和彦氏は、以前に同名の書籍を出しており、そのマンガ化にあたるらしい。
企画と構成は漫画家の本そういちで、作画はアシスタントの福原雅也氏。本そういち氏は、今作と同じ双葉社から、北朝鮮拉致被害者の横田家を描いた『めぐみ』を出したこともある。他の作品でも架空戦記に手を出したり、少しずつ慎重さが求められる路線に向かっていたわけだが……


とにかく、マンガとして薄っぺらい。版型が大きいのに書き込みが少なく、ほとんど背景も省略されている。それでいて、この種のマンガらしく台詞や文章が多いから、画面が白い印象ばかり残るのだ。
作画自体は、マンガ絵としては充分に統一がとれており、コマ割りも悪くないのだから、こんな企画マンガに労力を使わせるのはもったいない。


そして頁をめくっていくと、まず仮想敵国の章で引っかかりをおぼえた。
北朝鮮を仮想敵国とすることは当然だろう。しかし、その次に韓国を仮想敵国として名指しするのは違和感が強い。韓国が友好国と思われている理由として「韓流ブーム」が作中人物の台詞で言及されているのだから、なおさら奇妙だ。
韓国が西側諸国の一員として、冷戦構造下において日本と協力関係にあり、それは現在も継続している。どちらも今にいたるまで米軍が駐留し、韓国が単独で日本を攻撃することは、杞憂に近い。
もちろん、関係が緊密な国家であろうとも仮想敵国と考えること自体は、極めて重要な態度ではある。しかし北朝鮮と韓国を特筆して名指しし、次の章では中国と戦った場合のシミュレーションをするばかりでは、むしろ仮想敵国を考慮する態度として不足が多すぎる。何しろ米国はもちろん、ロシアすら仮想敵国として特筆されていなかったのだ。


そして作中の講演会において、殉職した自衛隊員が靖国神社に合祀されていない等の主張があった後、満を持して田母神氏が登場。かんべんしてほしいと思いつつ、田母神問題を避けて現在の自衛隊を語るよりは誠実かもしれないとも思う。
ここで読者視点を担当する作中人物は、「危険人物」と呼ばれているわりに田母神氏は優しそうと評する。「危険人物」のような評価は、自身が“敵”から重要視されていることをアピールするため、むしろ田母神氏自身が多用しているようなものなのだが。


田母神登場あたりで、あまりに馬鹿馬鹿しくなったので読むのをやめてしまった。余裕があれば続きの感想を書くかもしれないが、とりあえず今回は引っかかった場面の紹介にとどめておく。
とりあえず残念に思ったのは、本そういち氏はもう少し頭がいいと考えていたのに、そうではなかったらしいということ。企画や構成に名前を出すのなら、せめて田母神批判に力を入れてほしかった。現実の北朝鮮拉致問題に関わったのだから、最も距離を取るべき一人だ。もしかしたら、読者にはうかがえない編集者等との力関係があるのかもしれない、と願わずにはいられない。