加藤紘一議員の正論 - 法華狼の日記の続き。
本題に入る前に、アニメ制作界隈で起きている情報流出事件について話そう。ある程度まで固有名詞を隠した解説と指摘として、今敏監督の文章を紹介する。
http://konstone.s-kon.net/modules/notebook/?p=275
今監督の批判はおおむね正しいと思うが、必ずしも素直に謝れる状況ではないとも感じる。
アニメ制作会社による似たような情報流出事件は、少し前にもあったばかり。状況の経過もほとんど同じ。異なるのは、会社の存在感が少しばかり大きいこと*1、そして仕事と関係の薄い男女関係等が書かれていることだ*2。
住所や電話番号が書かれただけの名簿が流出したなら、今監督が指摘するように、事実と認めて素直に謝罪するのが最善だろう。しかし今回は、もし名簿に書かれてあることが事実と認めれば、扇情的な補足情報も信頼性があるということになりかねない。
男女関係情報が事実であれ名簿作者の憶測であれ、社員が名簿を作っていることを認めての謝罪は難しいかもしれない。素人考えでは、もし社員が名簿を作っていて、扇情的な情報が事実とすれば、一般に対しては知らぬ存ぜぬを押し通し、裏でアニメーター本人に謝罪するしかないと思う。
さて、北朝鮮に譲歩するべきという加藤議員に対し、説明がつたないという意見がある。
はてなブックマーク - 痛いニュース(ノ∀`) : 自民・加藤紘一「拉致被害者5人は北朝鮮に戻すべきだった」 - ライブドアブログ
2008年07月09日 simatomoki 木から落ちたサル いや、「一時帰国」なんていう、いろいろマズった外交政策について批判したいのはわかるけど、なんて舌足らずで無警戒な発言。現時点のポジションどうこうの前に、もう魂や規範が政治家じゃなくなってる
しかし、相手の顔を立てる交渉をしようという時に、意図の全てをおおやけにすることは難しい。相手に最初の譲歩をするべきではなかった、などネットで発言できないのが普通だろう。ネット情報や一般報道は全世界的に公開されているものと考えるべきだ。
本気で情報戦をする者は、間違っても「情報戦」と自ら口にしたりはしない。たとえば身代金誘拐が起こった時、電話口の犯人に聞こえる状況で「逆探知したいのでゆっくり話す」と説明したりしない。たとえ意図が相手にあからさまでも、互いに知らぬふりをするものだろう。
発言を全世界的に公開していることへの無自覚さは、毎日新聞の海外コンテンツが扇情的と批判されている騒動にも通じるところがある。
毎日新聞が扇情的と主張するサイトに、アダルト向け広告やアダルト商品リンク、時にはアダルト向けコンテンツが存在する*3。http://urasoku.blog106.fc2.com/blog-entry-438.htmlの近くにhttp://urasoku.blog106.fc2.com/blog-entry-431.htmlというエントリが上げられていたりするのだ。さらには防衛庁を擁護しようとして、歴史修正主義への親和性を自ら明らかにした漫画家もいる*4。SNS等の閉鎖的な形態ならばまだしも、扇情的な内容を公開しながら他者の扇情性を批判しても説得力はない。
そもそも毎日新聞が扇情的な情報を探したのではなく、あくまで紹介しているだけだ。もちろん、情報を翻訳したり集積することで新たな意味が生まれることはある。しかし問題のコンテンツは、一般に公開された他媒体から引用した情報と示し、短期間で削除する形態だったので、外国人から見ても強い意味を持っていたとは考えにくい。むしろmujin氏が指摘している例*5のように、批判対象を曲解したような主張が散見される。これでは批判側の内面で肥大化した争点ということがあからさまだ。
つまるところ、発言がどのように見られるか、全く無自覚なのだ。せまい範囲で感覚を共有するばかりで、外に向いた批判になりえていない。
もう一度、加藤議員の発言に話を戻そう。
主流から脱落した政治家の放言という可能性も、全くないとはいえない。何の政治的な力がない指摘だったなら、加藤議員こそ内容が正論であっても発言すべきでなかったといえるかもしれない。
しかし、蓮池透氏も似た見解を先んじて雑誌『世界』に発表しているのだから、強攻策一辺倒だった北朝鮮外交を見直そうという大きな動きがあると考えたい。
あくまで希望的観測ではあるが、最終的に解決へ一歩前進するならば、せめてもの幸いと思う*6。
*1:今回のアニメ会社は、いくつもの劇場アニメや、誰でも名前を知っているようなTVアニメを製作の一員として手がけている。
*2:前回の名簿も仕事の巧拙を評価する欄があったが、今回ほど人間的な評価には繋がらない。
*3:このような騒動の起点となった、まとめサイト一般に対して、騒動とは別個にy_arim氏がエントリを上げている。http://d.hatena.ne.jp/y_arim/20080709/1215607264
*4:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20080624/1214352762
*5:http://d.hatena.ne.jp/mujin/20080630/p1
*6:その時になってようやく、被害者を交渉材料として扱う保守的な思考を、理想主義の立場から批判できるようにもなるかもしれない。左派を自認する者からすると、保守派の政治手法を左派が擁護するような現状は歪すぎると感じる。