……ふう、びっくりした。題名にもなっている月蝕島へ主人公達がつくまで、半分近くの頁数をかけているのだから。
シリーズ作品をなかなか完結させないまま多数放置していることで有名な、田中芳樹の新シリーズ。一応は物語として完結しているので、続きを待たされる苦しみはない。
アンデルセンとディケンズを中心とした歴史豆知識が全編に散りばめられ、素朴な読書の楽しみが味わえた。特にアンデルセンとディケンズはそれぞれ個性的で魅力的な正義感の持ち主で、二人の活躍*1だけで健全でいて説教臭くないジュブナイルを読む爽快感がある。主人公の青年はクリミア戦争に出征して心的外傷を受けており、軽い物語にふいに深い陰影を刻む。
しかし最初に書いたように構成が甘く、かなり薄口の物語で、ジュブナイル小説全体でも起伏が小さい方だろう。
良くも悪くも肩の力が抜けた作品、といった印象を受けた。
*1:いささか漫才のような状態になっているが。