法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『機動戦士ガンダム00』におけるGN粒子とソレスタルビーイングの立ち位置について

ステルス性能を機体に持たせるGN粒子*1と、電波障害を引き起こすミノフスキー粒子*2の共通性はよく語られるところ。電子機器に異常を引き起こしたり*3、ビーム兵器に応用されているという設定も同じ。
相違点として、ミノフスキー粒子が全勢力に対して平等に効果を上げていることに対し、GN粒子はガンダム側に都合よく作用している点がいわれる。ミノフスキー粒子は基本的に全勢力の通信を阻害したが、GN粒子は各勢力の通信を阻害しつつ*4ガンダム側のみ通信可能*5としている。設定の矛盾という話ではなく、物語上の効果という視点での相違点だ。


しかし、最初の『機動戦士ガンダム』を思い返してみると、実はミノフスキー粒子もGN粒子と同じような物語上の効果を持っていた。
アニメ本編で描かれる物語より前、それは戦争の初期。宇宙移民の一勢力がジオン公国を名乗り、地球に対して独立戦争をしかけた。
その際、ミノフスキー粒子を研究していたジオン公国は電波障害を利用した戦術を行い、モビルスーツを投入することで有利に戦況を進めることができた。構図としては、GN粒子を研究して対処し、ガンダムを投入して戦術的優位にあるソレスタルビーイングと全く同じだ。
さらに、ジオンの名がつけられた登場人物ジオン・ズム・ダイクンは、アニメ本編では当初から故人となっている。ソレスタルビーイングの創設者と見られる人物も、やはり本編より200年前に存在しており、故人である可能性が高い。
相違点としては、ジオン公国ガンダムを敵としていたのに対し、ソレスタルビーイングは逆にガンダムを用いていること。もっとも、逆転の構図自体は『ガンダム』シリーズで何度もくりかえされてきた。『新機動戦記ガンダムW』も宇宙独立を求める側がガンダムを使用している。
より大きな違いとして、ジオン公国は独立自治という具体的で小さな要求をかかげていたのに対し、ソレスタルビーイングは戦争行為の根絶という形而上的かつ大きな目的をかかげていることがある。観念的、宗教的な動機で戦争が行われる『ガンダム』作品はあるが、当初から理想のみを押し出して戦うのは『機動戦士ガンダム00』が初めてだろう。
空想的な動機は主人公挫折の前振りというだけでなく、独立や民族自決が必ずしも理想と思われない現代日本らしい変化、というところもあるのではないか。現に『機動戦士ガンダム00』第2話では、独立を求める側と独立を否定する側の双方をガンダムが攻撃しているくらいだ。
DEATH NOTE』主人公が見せる誇大妄想的な理想、あるいは『コードギアス反逆のルルーシュ』主人公の復讐だけに生きる矮小さ。個人と世界を繋ぐ“社会”を欠落させた序盤から、徐々に世界観を広げていくポストセカイ系とでも呼ぶべき作品群……などと書くともっともらしいが、まだ物語は始まったばかりなので何ともいいにくい。


ちなみに最初の『機動戦士ガンダム』では、ジオン公国を牛耳るザビ家によってジオン・ズム・ダイクンが謀殺されたのであり、宇宙移民独立という理想もねじまげられていることも判明する。そんな背景を持ちつつ、末端の将兵は理想に殉じたり、個人的な欲望にしたがって戦っていた。
機動戦士ガンダム00』も、戦争根絶という理想は正しいとしながらも、ソレスタルビーイングの行動は別個の思惑によりねじまげられたもの、というあたりに落ち着くかもしれない。

*1:機動戦士ガンダム00』でソレスタルビーイングという1勢力が技術的に独占している架空粒子。

*2:ガンダム』シリーズで、最初の『機動戦士ガンダム』から世界観を共通する作品に登場する、架空の粒子。電波障害を引き起こしてレーダーやミサイル等自律兵器を無効にし、有視界で戦闘が行われるようになった結果、モビルスーツという巨大ロボットが兵器として利用されることになったという設定。作品ファンやスタッフからビームや動力炉、飛行能力にも応用されているという逸話が非公式に作られ、後に公式設定となった。

*3:ただしGN粒子の効果は弱く、ミノフスキー粒子の設定は後づけ。

*4:ただし、ガンダムに近づかなければ一定の通信は可能な様子。

*5:一定時間ごとにGN粒子の発生量を減少させて通信している、などの可能性が考えられる。