法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』#1 鉄と血と

ひとときの平和を謳歌する地球を遠くあおぎみて、火星では戦乱の火種がくすぶりつづけていた。
ある日、民間警備会社で訓練をつづける少年兵オーガスの前に、火星都市クリュセを独立させようとしている令嬢バーンスタインがあらわれる。バーンスタインを警護することになった民間警備会社だが、反乱の芽をつみとろうと攻撃してきた武装組織になすすべなく、上層部は逃げ出してしまった。
とりのこされた少年兵たちは、基地の動力源に転用していた旧兵器を持ちだすのだが……


長井龍雪監督、岡田麿里シリーズ構成による『ガンダム』最新作。第1話はそれぞれ脚本とコンテ演出も担当している。公式サイトのデザインは、どこにどのコンテンツがあるかわかりやすく、テキストのコピーもやりやすい。
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
キャラクターは漫画家の伊藤悠による原案を千葉道徳がクリンナップするという、おなじみの手法。シルエットがわかりやすくデザインされているが、クリンナップするアニメーターが『ガンダム00』『ガンダムAGE』のクリンナップも手がけていたためか、意外と過去シリーズと差別化されていない。
メカは3DCGをほとんど用いず、手描き作画にブラシなどでグラデーション処理をほどこしている。手間ひまかけて動かしているのは感動する。しかしハイライトの描き方がメタリックなのはモビルスーツだけにして、モビルワーカーは泥臭くして対比してほしかったところ。


物語については、良くも悪くも典型的な「ガンダム」イメージの集積に感じられた。脚本を映像化するにあたって、ふくらましが足りない感もあった。
初回で導入設定の説明からメインロボットの活躍まで描けているまではいい。かつてロボットアニメの初回についてまとめたエントリで、個人的に求めたことを達成している。
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しかし説明に追われて散漫なところがあり、作品コンセプトの目新しさも出せていない。それを提示する第1話としては、同じ火星独立テーマなら『Z.O.E Dolores, i』が、抑圧された状況からガンダムで脱出する作品ならば『機動戦士ガンダム00 セカンドシーズン』*1が、それぞれすぐれていた。


まず、前半の描写はほとんどいらない。多くの登場人物が会話しての設定説明がつづくのがよくないし、設定で過去シリーズに似ている部分ばかり印象に残った。さすがに富野由悠季監督の台詞回しほどの癖はないが、登場人物の心情によりそった説明ではないので語り口に熱がなく、印象としては平凡な「ガンダム」にすぎない。この作品の特色と予想される、捨てられた少年兵の漂流劇というモチーフが、終盤まで目立たない。
とりあえず初回の視点は、オーガスバーンスタインにしぼってほしかった。たとえば、兵器を操縦するため背骨に手術される場面から旧兵器を動力源にしている情景まで、民間警備会社の内部だけを舞台にして描けば、“外”へ出たいという少年兵の渇望もわかりやすくなったろう。民間警備会社の上層部も、もっと少年兵たちとのからみを描けば、よくあるキャラクターを超えた印象を残せた。外部の状況やバーンスタインが攻撃される経緯は、会社内で流れるニュースや、バーンスタインのもちこんだ情報でも、初回の説明としては充分なはず。
令嬢の握手を少年兵が遠慮する場面も、せっかくの設定を活用できていない。その場面だけ説明もなく少年兵の手が汚れているので、テーマのための作為とわかりやすい。文章ならば握手でないと読者はわかりづらいだろうが、映像ならば背中の手術にまつわる描写にすれば、ずっと設定が強調できただろう。たとえば背中を保護する薬物で手が汚れる場面を入れるとか、いっそ握手でなく背中をささえようとする描写にするとか。
メカ戦闘については、作戦の説明もわかりやすく、アクションの高揚も充分にあった。あえて注文をつけるとしても、足元にころがるモビルワーカーモビルスーツをカット割りせずサイズ比を見せてほしかったのと、ガンダムが地中からあらわれる場面で重量感を表現するスローモーなカットも入れてほしかったという、ほとんど好みの範囲くらい。