法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『機動戦士ガンダム サンダーボルト』

宇宙移民がジオン公国を名乗って地球連邦から独立しようとした一年戦争の初期、地球側だった宇宙コロニー「ムーア」が破壊された。
その残骸がただよい放電をくりかえす宙域で、超長距離から狙撃してくるジオン軍を、地球連邦軍ムーア同胞団は攻めあぐねていた……


第2シーズンが配信開始されたことで、バンダイチャンネル等で無料配信された第1シーズン全4話を視聴。各話の本編は約16分ほどで、OVAにしても短め。
『機動戦士ガンダム サンダーボルト』
原作は、『MOONLIGHT MILE』で知られる太田垣康男による、『機動戦士ガンダム』の外伝漫画。それを『革命機ヴァルヴレイヴ』の松尾衡監督脚本で、サンライズが制作した。
とにかく画面に情報量を足していくような作りで、なおかつ物語としてのまとまりもいい。さまざまな独自設定や多くの登場人物を出しながら、ひとつの戦場を舞台にしているから、見ていて混乱することがない。ジャズを鳴らしながら傲慢にガンダムを操るイオと、カントリー調のポップスを愛しながら思いを押し殺しているダリルの、ダブル主人公の対比関係も魅力的。
メカアクション作品としては、アニメーションは直線的で魅力に欠けるものの、物語に必要なギミックを充実させ*1、作品のコンセプトを逸脱せずに支えたことに感心した。廃墟となった宇宙という対比物のない戦場だけなので巨大感を表現しづらいところ、くりかえし整備シーンを入れて整備士や操縦士と同じ画面に兵器を入れ、そのサイズを実感させる。戦場でもさまざまなシチュエーションで人間と兵器をからませて、メカアクションとキャラクタードラマの連続性を確保していた。


さらに誤解をおそれずにいえば、放映中のTVアニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』で良いと感じた独自部分の多くを、ずっと巧妙かつ濃密に提示していた。
念のため、モビルアーマー設定や大人に騙された地球支部など、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』にしかない良さも多々ある。しかし、もし発表順に視聴していれば、どうしても比較しつづけて残念に感じることが多かったろう。


まず、WEB配信OVAという媒体のおかげにしても、線の多いアニメデザインで再現された太田垣康男の人物デザインは、アニメデザインで線が少なくなって平凡な印象になってしまった伊藤悠の人物デザインより映像作品として魅力的。
『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』第23話 最後の嘘/第24話 未来の報酬/第25話 鉄華団 - 法華狼の日記

伊藤悠自身の絵はうまいのに、その原案をアニメ用に整理すると、さして独自性のないデザインになってしまった。やたら目が大きくて睫毛も長く、原案にあっただろう生々しさより松本零士がごとき古臭さすら感じた。たぶん描線レベルでアニメ作画に落としこまないと魅力を再現しづらい絵柄なのだろう。

太田垣康男のタッチはデッサンのためではなく、線の密度をコントロールするために用いられている印象がある。だからこそ、機械的にアニメ用にデザインに落としこみやすいのかもしれない。
アニメデザインを担当した高谷浩利の、もともとメカアニメーターであるがゆえのシャープな線も、リアルで生々しくも人形のように冷たい印象をつくりだし、作品の世界観に合致している。


次に、戦死も敵味方の軽重なく等分に描いて、重要人物でも長々と見せることはせず、無常な戦場の酷薄さを演出する。それでいて、ひとりひとりの死に様に変化をつけて、生き様が違うことを間接的に示しつつ、映像作品として単調になることを避けている。
子供が戦場に出てくる痛々しさも、主人公の重荷となる脇役として登場させることで、ぶれなく描写できていた。まだ身体ができあがっていない子供の体型や動作をアニメーションで表現しきった作画技術にも感心した。それでいて、勝敗を決定づけるのは技量ではなく物量だという世界観もしっかり示している*2
そんな非人道的な戦場で、ぎりぎりまで良心をたもちつづけようとする人々を、その無力さによる破綻へいたらしめつつ、けして冷笑はしない倫理観も好ましい。同時に、作品が戦争を娯楽として消費していることに変わりはないという自覚的な描写もきちんとある。


何より、兵器に人間を接続する設定を、ずっと絵としてわかりやすく描いていることが素晴らしい。背中に目立たない突起があったり、少しずつ動けなくなるだけの阿頼耶識とは比べものにならない。
『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』第38話 天使を狩る者 - 法華狼の日記

1クール目から2クール目にかけての対価として、右目のハイライトがないことと右手を見せないことだけで表現していたのは、やはりビジュアル演出として弱かった。せめて瞳は色を変えてオッドアイにするくらいでないとロングショットでは気づけない。

義手や義足のジオン軍部隊というフリークスなビジュアルだけで凄いし、その肉体の欠けた部位の違いで登場人物を見わけやすいのも良い。戦争で傷つきながら、最新の義手や義足で戦場に戻る現代的な問題をSF設定で物語におりこめている。阿頼耶識と同じく、手術で人工的に傷つける展開まで描かれる。

*1:ただ物語以外で、連邦軍モビルスーツが武器弾薬を交換するためのサブアームを持っている設定には、『機動戦士ガンダム0083』のGP03にサブアームがある設定のミッシングリンクを埋めるような印象もある。ジオン軍にはサブアームをもつ兵器が少なくないが、連邦軍は人型を歪ませる兵器が少なくて、GP03は色々な意味でオーパーツのような印象がある設定だった。

*2:最終回の意外性ある決着まで、物量が重要という世界観を逸脱していないことに感心した。