法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』PROLOGUE

幼い少女スレッタは、技術開発する両親とともに宇宙で生活をしていた。両親を愛し愛され、母を機械化技術で救った研究者カルドも祖母のようにしたうスレッタ。しかしスレッタが誕生日をむかえようとした時、研究所は世界から切り捨てられる……


先行配信もされた今回は、シリーズ構成の大河内一楼が脚本。『∀ガンダム』から脚本業を初めて、初期代表作の『OVERMANキングゲイナー』『プラネテス』は好評をはくしたものの、近年は一作ごとの毀誉褒貶がはげしい。
キャラクター作画監督は現代アニメらしく多いのに、今回は後半まであまり動かないとはいえ精緻なメカニック作画監督がふたりという体制が珍しい。そのメカニック描写は緻密だが、ほぼ過去作品の延長で、装甲表面に光がはしる数少ない個性も、特に目新しくはない。おそらくテーマにあわせて人体を思わせるメカデザインも、ガンダムシリーズでは珍しいものの、SFロボットとしてはさほど新鮮ではない。


物語については、これから放送される本編が期待外れに終わったとしても、この物語ひとつを提示してもらえただけでも良かった、と思える内容だった。
たとえば欠損した肉体を機械でおぎない、「ガンダム」に接続する研究という根幹設定。『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の終了まぎわに『機動戦士ガンダム サンダーボルト』を見た時の感想と同じく、人体の機械化がビジュアルとして明確で、かつ生活のなかでも印象づけをしっかりおこなっている。
『機動戦士ガンダム サンダーボルト』 - 法華狼の日記

兵器に人間を接続する設定を、ずっと絵としてわかりやすく描いていることが素晴らしい。背中に目立たない突起があったり、少しずつ動けなくなるだけの阿頼耶識とは比べものにならない。

義手や義足の延長として巨大ロボットが開発されるところは『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』でもある。他の要素も、あくまで部分部分はシリーズの過去作品と大差ないか、もしくは逆転にすぎない。しかし、どれも30分枠で印象に残るよう最低限の演出で強調して、30分枠の前日譚としてまとめていた。
主人公側の研究団体は女性が多く、人種や体型も多様で、中心として牽引する研究者も老女。対して研究を抑圧しようとする側は中高年の男性ばかりで、女性は秘書が無言で補佐するカットがあるくらい。映像作品は、これくらい記号的な対比でも良い。
AIで自動化しても罪は人間しか背負えないという敵側の主張も、ただ『新機動戦記ガンダムW』を逆転させたようで、両親を喜ばせようとAIに学習させる主人公の無邪気ぶりの対比で、ちゃんと現代的な印象になっている。
母をしたうように無邪気な子供がそのまま戦場に出るところは漫画『機動戦士ガンダムF90FF』のようでもある。状況をよく理解できず誕生日を楽しむスレッタと美しい光で悲劇性が強調される結末も、戦争ドラマとして古典的によくできていた。