法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『わんだふるぷりきゅあ!』第10話 ユキの中の思い出

 猫屋敷まゆは母から新商品のアイデア出しをたのまれ、授業も散歩も上の空。しかし犬飼いろはたちと出会って、泥だらけのこむぎを見て、飼い猫のユキと初めて会った時を思い起こす……


 香村純子脚本。フォーマットが強固なスーパー戦隊で何度もメインライターをつとめてきた経験があるためか、番組の残り時間が少なくなってもプリキュア変身ノルマをこなし、ちゃんとアライグマの生態を反映したおもしろい失敗とアクションを展開した。住宅街の自販機や歩道の柵をガルガルが破壊したり、その情景を窓から見おろす構図が最近のシリーズでは珍しい。
 ただ、まゆがまだプリキュアに変身しないとはいえ、ドラマ部分とアクション部分の関連が弱い。思い出の山奥や雪に関係する動物か、いっそのこと人になつく前のユキを思わせる猫のガルガルを出すべきではなかったか。
 そもそも新商品の開発とユキとの出会いのドラマも、デザインの方向性を猫に決めるくらいしか関連していない。それぞれ共感性羞恥におそわれる空回りコメディと、情感あふれる幼いころの思い出のドラマとして悪くないのだが、どちらか一方に時間をさいて注力し、ひとつの物語として完成させてほしかった。作品のさまざまな楽しみをちりばめ、30分枠を飽きさせない「番組」としては今回の構成も正解だとは思うのだが……

漫画家の石黒正数氏は嫌われている人物の穏当なツイートにいいねしたことを批判されているわけではなく、複数のいいねと自身のツイートでうかがえる見解を批判されているのでは?

 はてなブックマークで下記のようなコメントがあり、そこそこ多くのはてなスターをあつめていた。
[B! 増田] 暇空は元々は借金玉の取り巻きの一人だった 年齢は暇空の方が上だが、敬語..

id:yujimi-daifuku-2222 嫌われている人物にいいねをしたなら、その後粘着批判を受けても仕方ないという論法を首肯するなら、その論法はそのままシリーズキモいおじさんなどとやっている人にも跳ね返る。/まさにミラーリングと言うやつよね

 嫌われていることと問題があることは同じではない。差別が蔓延している社会において差別に抗議する少数派は多数派に嫌われるだろうが、だからといって差別者と抗議者を同等にあつかうべきではないだろう*1


 そもそもyujimi-daifuku-2222氏のブックマーク対象は暇な空白氏のインターネットにおける来歴について説明する怪文書のような匿名ダイアリーで、上記コメントとの関係はよくわからない。
 おそらく発端となっている下記の匿名ダイアリー*2を意識したコメントなのだろう。
リベラル左翼はマジでヤバい(確信)
 yujimi-daifuku-2222氏はこちらには下記のようなコメントをつけて、ブックマーク対象との関連は理解できるが、しかしその主張はよくわからない。
[B! 増田] リベラル左翼はマジでヤバい(確信)

id:yujimi-daifuku-2222 つまり某仁藤氏を支持する人は、シリーズキモいおじさんというヘイトや犯罪と地続き発言の責任も負うという事で良いのだろうか。/まさか連帯責任論をぶつ人が、自分を例外には置かないでしょうが念の為。

 しかし「シリーズキモいおじさん」がヘイトや犯罪と地続きだと仮定しても、仁藤夢乃氏をなんらかのかたちで支持するだけでは、石黒氏のいいねとは同列ではない。「シリーズキモいおじさん」に関連するツイートにだけ複数いいねをして、ようやく同列になるだろう。


 また、同じ匿名ダイアリーへのはてなブックマークで、fut573氏は下記のようなコメントをしていた。

id:fut573 杉田水脈のいいねの裁判の高裁判決は他所の言動と合わせて文脈を読むとそのいいねは"名誉感情を害する意図があった"と認定できるって話なので。少なくてもセットになる言動と組み合わせないと駄目なのでは?

 しかしid:hokusyu氏がツイートしているように、実際は石黒氏はいいねにとどめてはいなかった。


石黒氏は「会計が雑」という点でのColabo叩きに関しては、「いいね」ではなく自分の言葉ではっきりと「理解」を示しており、請求が事実上全て退けられた監査結果が出て以降も「だいぶひどい状態」という認識を示しています。この点において不正会計デマの影響を多分に受けているといえます。

 石黒氏のツイッターにおける行動が杉田氏と同等の名誉棄損として認められるとは思わないが、いいねしたツイートと同調していることまでは推測できるのではないだろうか。


 ちなみに石黒氏がいいねしたひとつが、元官僚としてN国党に協力したりAbemaでコメンテーターをつとめていた宇佐美典也氏の下記ツイートだ。


Colaboがここまで嫌われてるのは他人が周りに大して迷惑かけずに大事にしてた世界を難癖つけて壊そうとして、
その上自分が責められる側になったら被害者仕草したからで、自業自得としか言いようないんだよな。

 これこそまさに「嫌われている人物にいいねをしたなら、その後粘着批判を受けても仕方ないという論法」と呼ぶべき内容ではないだろうか。

*1:yujimi-daifuku-2222氏はこちらのコメント欄でも表現の妥当性を論じる基準を「気に入らない、不快」に矮小化する手法をつかっていた。ハラスメントが演劇や映画界で告発されつづけていることに対して、「特撮とかアニメ」を切断処理する意見が賛同されていて驚く - 法華狼の日記

*2:石黒氏が暇な空白氏にカンパやアカウントのフォローをしていたというデマは問題だとして、いいねをしていたという事実に争いはない。それなのに、この匿名ダイアリーはいいねした事実をもとにした論評を一足飛びにデマや誹謗中傷としてあつかっている。引用している発言が誹謗中傷と主張したいのならいいねをしたことに妥当性があると反論するべきだろうし、たとえ反論が正しくても事実にあらそいがなければデマとしてあつかうことは難しい。

『怪奇探偵リジー&クリスタル』山本弘著

 20世紀初頭のロサンゼルス。その一角に居をかまえる私立探偵と助手の女性コンビは、まともな人間ではなかった。オカルト的な意味で。そして立ちむかう事件もまた、人間の社会から外れたものだった……


 2015年に出版され、後に文庫化された幻想怪奇連作短編。レトロSFやレトロ特撮への愛好が前面に出つつ、作者にしては人間描写はライトでクセのない娯楽作品になっている。

 作者は過去作品で何度かレズビアンバイセクシャルを登場させているが、今回の女性コンビはそういう関係ではない。かといって『ダーティペア』のように男好き描写が強烈なわけでもなく淡白なので、逆に百合っぽい解釈もしやすい。
 1話目は幻想怪奇な設定を活用した特殊設定ミステリ*1として標準的で悪くない。しかし以降はミステリ的な推理や意外な真相よりも、舞台となった時代と場所を意識した特撮趣味やB級ホラーへと1話ごとにジャンルを変えていく。
 各話ごとにネタはまとまっているのでジャンルが変わっても読みやすいし、舞台設定にすぎないはずの女性コンビの来歴もしっかりSFホラーとして物語にくみこんで小説としてまとまっているが、2話以降も謎解きミステリとしての枠組みを守るほうが好みではあった。

*1:生ける屍や超能力などの現実には存在しない設定を厳密なルールとして組みこんで、合理的な謎賭けと謎解きを展開しようとするミステリジャンル。こちらのミステリ作家による座談会でも言及されているように、TRPG設定をつかった短編小説アンソロジー山本弘が提供した『ゴーレムは証言せず』も代表的な作品のひとつ。 令和探偵小説の進化と深化 「特殊設定ミステリ座談会」|令和探偵小説の進化と進化 「特殊設定ミステリー座談会」! 前編|tree

スティーブン・スピルバーグ監督が南カリフォルニア大学でのスピーチで、イスラエルの被害にふれるなかでガザ虐殺にも初めて言及したらしい

 まだ日本語の記事にはなっていないようだが、3月25日にCNNが報じて、スピーチ全体も掲載している。
Steven Spielberg: ‘The echoes of history are unmistakable in our current climate’ | CNN
 言及は下記の部分で*1、あくまでイスラエルの被害を重視した流れで「無実の女性と子供」にかぎった一言ではある。

We can rage against the heinous acts committed by the terrorist of October 7 and also decry the killing of innocent women and children in Gaza. This makes us a unique force for good in the world and is why we are here today to celebrate the work of the Shoah Foundation, which is more crucial now than it even was in 1994.
私たちは、10月7日のテロリストによって犯された凶悪な行為に対して激怒することができ、またガザでの無実の女性と子供の殺害を非難することもできます。これが私たちを世界で唯一の善のための力にしているのであり、それが私たちが今日ここに来て、1994 年当時よりも今ではさらに重要になっているショア財団の活動を祝うためにここに集まっている理由です。

 ずいぶん遅いし、まだ足りないし、それでも待っていた。最初に予想した「中立」的に平和をもとめる内容にとどまっているが、それでも現状では意味がある。
スティーブン・スピルバーグ監督が、ハマスの蛮行のみ批判する声明を出したという報道に悩んでいる - 法華狼の日記

 もともとショアー財団はユダヤ人の被害記録に限定せず、CNNが言及しているカンボジアルワンダの他、アルメニアの虐殺なども対象にしている。そこにパレスチナをくわえない理由がどこにある。

 ユダヤ人の被害記録のために設立したショアー財団が評価された状況での発言という重みもあるし、スピーチ全体を見ればユダヤ差別を問題視した場面でアラブ差別にも言及したりしている。


 さらに少し前のことだが、絶賛*2したホロコースト映画『関心領域』のジョナサン・グレイザー監督がアカデミー賞のスピーチでガザ虐殺を正面から批判*3したことについて、否定するオープンレター*4にも参加しなかったらしい。


More than 450 Jewish creatives, executives and Hollywood professionals have signed an open letter denouncing Jonathan Glazer’s “The Zone of Interest” Oscar speech.
Jonathan Glazer's Zone of Interest Oscar Speech Denounced in Letter

 ここまでの沈黙や一方的な言及、そして現在の立場を思えば、もちろん現状でもスピルバーグへの批判はありうるだろう。
 それでも原則としての平和をうったえる発言には意味があるし、社会の側が意味をもたせなくてはならない。

*1:日本語訳は、google翻訳を手なおしせずにつかった。

*2:スピルバーグがベスト・ホロコースト映画と大激賛!『関心領域』 – VOID

*3:アカデミー国際長編映画賞「関心領域」の英監督、ガザでの戦争について声明 受賞スピーチで - BBCニュース

*4:ちなみにリンクされたページの下部にある署名者の末尾によると、更新前は偽名がひとりふくまれていたらしい。その良し悪しはさておき、オープンレターで厳格に本人確認をおこなうことは世界的にも一般的ではないようだ。 不正署名されたオープンレターと不正署名したリコールを同列で考えるのは、いくつもの意味で間違っている - 法華狼の日記

まずウソそのもので楽しませて、それをウソとして終わらせることも楽しませるエイプリルフールって、一般的なフィクションより二重に難しいところがあるよね

 たとえば不治の病に特効薬ができたというウソを考えてみる。
 それをあくなき医学の挑戦により達成した理想として描いた医療漫画なら許されると思う人が多いかもしれない。

 この場合、特効薬はウソでも良いと作者が考えているわけではなく、やがて現実化すべき未来として提示されている。

 もちろん、どれほど真面目に描写したフィクションでも、素材にされた当事者から反発されることはありうる。


 次に、製薬会社が特効薬ができたというプレスリリースを出して、エイプリルフールとして撤回したらどうだろう。特効薬ができたといったん期待させ、ウソと明かして落胆させることのどこに楽しさがあるだろうか。
 それならばプレスリリースの時点で明らかにウソとわかる記述をしていればどうか。その場合は、切実な問題を冗談の素材にすることへの強い反発が最初に生まれかねない。


 また、エイプリルフールという機会を利用して社会的なメッセージを出す事例もある。しかしその場合はウソで終わらせないという意志をどこかで明確に表明しなければメッセージとして成立しない。
 この場合は、エイプリルフールという冗談に真面目なメッセージをもちこむこと自体が反発されるかもしれないが、その可能性は良くも悪くもメッセージを出す側もあらかじめおりこんでいることだろう。


 いずれにしても、ただ切実な問題でウソをついてはいけないというよりも、切実な問題で反発されないウソをつくことは難しいし、反発されてでもウソをつくなら覚悟と意義がいるということではないだろうか。