法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『トロピカル~ジュ!プリキュア』第36話 来たよ! 人魚の国・グランオーシャン!

伝説のプリキュアの視点で魔女と戦う、そんな夢を夏海は見た。そんな時、夏海たちは人魚の女王からグラン・オーシャンに招待される。奪われたやる気がプリキュアの活躍で回復して、通信もできるようになったという。きらびやかな深海の街を夏海たちは楽しむが……


演出は今作初参加の佐々木憲世。初めて生物を怪物化したことで強力になった敵と、キュアパパイアのビーム攻撃やキュアコーラルの防御など、攻防がはげしく入れかわるアクションが楽しい。
美馬健司と藤原未来夫の共同作画監督。ローテーションのなかでも頭身が高めな絵柄のふたりが、いつもより不穏な雰囲気にあっていた。冒頭の夢のアクション作画が短いながら良好なことも目を引く。
止め絵が目立つもののアイテム探しをかねた中盤のグラン・オーシャン観光も楽しいし、第22話*1でローラがアイテムを発見できた理由を説明して設定を固めたところも良かった。


そして女王が夏海たちと対比されることで、シリーズ伝統のでかさ*2と実感できたことが意外な効果をあげていく。長らく登場しておらず、ローラと同一画面に映ることも少なかったが、今回の前半で巨人のような印象づけをおこなったからこそ後半の威圧感に説得力がある。
結局のところ女王はヌメリーが魔法で演じていた幻影だったのだが、事態収拾を優先する恐ろしさは『スター☆トゥインクルプリキュア』のスタープリンセスという前例があり*3、『ウルトラマン』や『仮面ライダー』の初代のような偽者の記号もないので完全に騙されてしまった。復興したグランオーシャン自体がプリキュアを誘いこむ罠だったあたり、なかなかの絶望感が出ていて素晴らしい。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:hokke-ookami.hatenablog.com

*3:今回も記憶をすいだす装置がグランオーシャンに最初からあったという、怪しげな説明があったが。 hokke-ookami.hatenablog.com

『ドラえもん』無人境ドリンク/葉っぱ探偵のび太

無人境ドリンク」は、周囲に怒られつづけたのび太が、ひとりで生きたいと思うようになる。そんなのび太に、他人と出会えなくなる秘密道具をドラえもんがわたす……
初期傑作「どくさいスイッチ」をセルフリメイクしたような後期原作を、たしか2005年以降で初アニメ化。善聡一郎コンテに篠塚滉平作画監督で、全体的に作画が良好。静止した背景美術のなかにのび太ひとりたたずむ孤立感もよく表現されている。
本編は最初から最後まで原作に忠実。ただ、穴に落ちてしずちゃんに出会えなくなる経緯にドローンの宅配とぶつかりそうになるところは疑問。現代的な描写としておもしろいが、たとえ機械であっても孤独をおぼえるニュアンスが薄れた。


「葉っぱ探偵のび太」は2017年の再放送。当時は好印象なアニメオリジナルストーリーだった。
hokke-ookami.hatenablog.com
ひさしぶりに見ると、秘密道具デザインが複雑すぎるのが良くない。たとえば葉っぱに穴をあけてメガネのようにするハサミやヒモのような道具であれば、もっと手作り感があったはず。

『ゲット・アウト』

カメラマンの黒人青年クリスが、恋人の白人ローズに田舎の両親を紹介される。両親は裕福な白人だが、オバマ大統領を支持するリベラルだという。
ローズ家で黒人が下働きしていることにクリスは引っかかるが、やがて別の違和感をおぼえていく。そしてローズ母から催眠療法を受けたクリスは……


オリジナルホラーとしてスマッシュヒットした2017年の米国映画。これが初監督作品になるジョーダン・ピールはもともとコメディアンという。

ネタバレ厳禁な作品だが、どこかで物語の根幹となるアイデアを目にしてしまい、どうしても目的などに見当がついた状態で視聴した*1
そのため残念なことに、何が起きているのかわからない不安感はもてなかったし、真相が明らかになった時の爽快感もなかった。伏線のていねいさや、誤った真相への誘導といった語り口のたくみさは理解できたが、何も知らずに見ても真相に虚構なりの説得力を感じられたかはわからない。


とりあえず物語の構造としては、遠く離れた地で異なる論理に恐怖するホラー映画の定番。その旅先が一見すると古き良き豊かな田舎なところが作品の個性であり、その風景が黒人の搾取で成立していることが現実を誇張した風刺になっている。
虚構でしかありえないホラー展開をささえる日常描写も、よくリアリティが出せている。初めて行った恋人の実家で値踏みされる居心地の悪さも、珍しい人として人々に披露される見世物感覚も、ホラーの助走にとどまらない不快感があった。そうして居場所がない普遍的な感覚になぞらえるように、表面的には偏見を捨てた社会の構造的な圧迫感を実感させる。
主人公が写真家という設定もきちんと活用して、日常場面で周囲から距離をとって観察する口実につかわれたり、ホラー映画らしく真相に近づく小道具としても利用される。もちろん視覚を物質化する技術だからこそ、外見によって差別される人種問題をあつかった物語にもよくなじむ。
暗闇で遠くから何者かがまっすぐ向かってくるホラー演出も、ちょっと定番からずらした使いかたをしていて楽しい。笑わせるパロディというわけではなく、物語の流れにそった描写として自然に入れて、それで新鮮味が出ている。
あえて当初の構想から変えたらしい結末も、さりげない会話の流れで設定を印象づけられていたから、視覚的な描写ひとつで状況が理解できて切れ味がいい。社会派テーマを強烈に感じさせつつ、娯楽的なホラーとしてまとまりが良く、たしかに傑作だとは思えた。

*1:プロデューサーが監督をつとめたメインスタッフの最新作『アンテベラム』の評価が高いらしく、よりネタバレ厳禁な内容らしいので、今度こそ先入観なく機会をつくって視聴したい。予告情報を見ると、『風と共に去りぬ』で踏み台にされた黒人たちの視点ということが後半で判明するような作品かと予想したが、よりホラー映画らしい設定らしいのでそれはないか。 www.youtube.com

与党自民党の政治家を「万死に値する」と批判すること自体に、何の問題があるのだろう?

れいわ新撰組代表の政治家として、山本太郎氏が麻生太郎氏へ強く批判したことが話題になっていた。
れいわ山本太郎代表が麻生太郎氏を猛批判「万死に値する人間。政治家をやめた方がいい」(スポーツ報知) - Yahoo!ニュース

「温暖化のおかげで北海道のコメがうまくなった」などと発言した麻生氏について、山本氏は「もうほんっとに、この衆院選において落選していただくというのが一番正しい花道だったと思うのですけど…そのチャンスを逃してしまった。これまで数々暴言吐かれてますので不問だとはならないと思いますね」と痛烈批判。

最後には、「もうすでに万死に値する人間であるとしかいいようがない。政治の世界から一刻も早く身を引くべき人間である」と強い口調で糾弾した。

いうまでもなく「万死に値する」という表現は慣用句だ。引用されている発言を見ても望まれているのは政治生命を失うことであって、人命を失うことを望んでいるようには読めない。


しかし慣用句をそのまま人の死を望む過激な発言のように読解した反発も多く、はてなブックマークでもスターを集めて人気コメントに表示されたものがある。
[B! 山本太郎] れいわ山本太郎代表が麻生太郎氏を猛批判「万死に値する人間。政治家をやめた方がいい」(スポーツ報知) - Yahoo!ニュース

id:dreamzico 「万死に値する」って「死ね」を婉曲に言ってるだけだよね。このご時世にそれはマズいんちゃうの? 「慣用句だからセーフ理論」は現代では無理筋。「ねじ山がつぶれてる」も相当なヘイト表現で人格攻撃でしかない。

他にも、直接的に死を望むような発言と読解し、政治家としての資格を問うコメントが散見される。

id:Dursan 「万死に値する」という言葉を軽々しく使う政治家こそが万死に値する。

id:shinichikudoh 「万死に値する」は「何度も死刑になるほど罪が重い」って意味だから「死ね」とは違うって意味が分からない。それなら「死ね」だって「死刑になるほど罪が重い」って意味でしかない。どっちも要は自殺強要だと思う。

id:kuracom やめたほうがいいと常々思ってるけど、仮にも政治家が万死に値するという言葉を使うな。福島を蔑ろにした貴様こそ、その言葉が相応しい。

id:unkkk 万死に値する=死ねでは足りず何度も死ねという意味 婉曲ではなく死ねを更に強調している言葉 こんな者が衆議院議員になるべきではない 擁護している輩は中傷癖が付いていてこれが中傷という事すら分からないのか

もちろん慣用句と指摘するコメントも多数あり、自民党側が使用した事例も指摘されている。

id:www6 これは良い言葉狩り?ちなみにざっとググっただけでも国会で人を名指しにして「万死」発言をした議員が見つかるよ。自民党高村正彦中川秀直。相手はともに菅直人だ。

id:tekitou-manga しょーもないトーンポリシングに乗っかるな /自民保坂「久間発言は万死に値する」 産経「菅直人、鳩山等は万死に値する」河井元法相「私は万死に値する」稲田朋美 「万死に値する河野談話」 自民特権用語か?


事実としてid:GiGir氏が指摘するように、国会議事録を検索すれば「万死に値する」という表現はさまざまな政党の議員がもちいている。

最新は2021年5月、自民党議員の西田昌司氏による法制局への批判だ。
国会会議録検索システム

法制局というのは単に字面を見ているだけの話、そういうふうに思われているからこういう事故が起きるんですよ。そうじゃなくて、自分たちの置かれている立場、国会議員に付されたこの立法権、この国会の立法権を補佐する重要な仕事であり、その当事者は我々国民の代表である議員なんですよ。その議員に報告をせずに、情報をそのまま遮断してしまったというのは、本当に万死に値しますよ。

政党政治において必然的な野党による官僚の追及は嫌われがちだが、このように与党議員が官僚を強く攻撃する事例もあるのだ。
他に何人かの政治家がつかうなかでも西田氏は多用しているようで、2020年11月にも財政出動を求めるときにつかっている。
国会会議録検索システム

今日は麻生大臣来られていませんけれど、この間の麻生大臣、財務省のこの財政政策は、本当にこれは、申し訳ないですけど、万死に値すると思っています。

このように財務省とまとめるかたちで自民党の議員もまた麻生氏へつかっているのだ。山本氏が麻生氏へつかったこと自体を非難できるわけがない。


もちろん西田氏のような一部を除いては、追及する側の野党発言が原理的に目立つが、それゆえ民主党政権においては自民党議員が多用していた。
たとえば鳩山由紀夫政権における沖縄米軍基地問題について、中曽根弘文氏や山本一太氏がつかっている。
国会会議録検索システム

鳩山元総理のあの一言で普天間基地問題が迷走し、沖縄に大きな混乱を引き起こし、国際的な信用を失うとともに、地域への安全保障上の問題が生じていることを考えますと、鳩山元総理の発言は万死に値するものであり、責任は極めて重いものであります。

国会会議録検索システム

鳩山元総理は、普天間基地移設問題については、私は万死に値すると思いますよ。

今回の山本太郎氏に対して、福島原発事故における発言をもちだす意見もあるが、ならば自民党中川秀直氏の発言はどうだろうか。
国会会議録検索システム

これまで二カ月半、あたかもメルトダウンがなかったように誤った対応を続けて、子供たちや多くの人々を被曝の危険にさらし続け、大気や海洋を汚染し続けている、これは本当に罪万死に値することです。

総理、あなたは、国民の生命を危機にさらしている、そういう責任感を持たなきゃいけないと思いますよ。大気を、海洋を汚染している、この福島原発問題を国際問題に発展させ続けている、そういう認識を持って、私はもう罪万死に値すると思いますね。

民主党政権における事故直後は、自民党議員も原発事故による汚染を追求できていたのだ。


議事録を見れば自嘲気味に万死をつかう場合もあるし、他人の批判を肯定的に引用したときに万死も引いた発言もある。

id:kisugix 安倍の事だったらハテサは絶賛だったろうに相手を間違えたな。普段から死ね死ねいってるものな

これは国会の場でつかわれたわけではないが、当時に広く報道されたことで国会でも話題になっている逸話がある。
国会会議録検索システム

安倍晋三官房副長官、前内閣においても今日もそうだ、さっきも来ていましたけれども、安倍副長官がはっきりと公に、総理が決定したことについて外務省の一局長のために国がおかしくなったのは前代未聞だ、万死に値する罪である、万死に値する話だと。これは四月二十一日に各紙で、幾つかの新聞で報道されていますよ。こういうことを現職の官房副長官が指摘されたわけなんですよ。私はこれは大変なことだと思いますよ。あなたが就任される前ですが。

政治家の判断を最後は仰ぐ、そのためにはやはり官僚機構は正確な情報を上げなくちゃならぬでしょう。それを捏造して、いわばデマを流す、政治家に対して。これはやはり、まさに安倍官房副長官が万死に値する話だと言ったのは当然ですよ、これが事実ならば。安倍さんは、私も親しいんだけれども、なかなかクレバーな、回転のいい、しっかりした男ですから、私は、根拠なしで万死に値する話だなんて言うはずないと思いますよ。

自民党米田建三氏が、前提が事実であれば安倍氏の表現も当然だと評価している。どうやら李登輝氏のビザ発給について外務省を批判していたらしいが、これについては記憶になかったし、当時の報道も見つけられなかった。


いずれにしても、「平成天皇*1以上に政党をとわず使用しあっており、政治家としての資格を問われるべき表現とは思えない。
もちろん好まないことも自由であるし、今後はつかわないよう社会へうったえることも自由ではあるが。

『相棒 Season20』第5話 光射す

古ぼけたアパートの一室で、後頭部を殴打された若者が首つり状態の死体として発見された。部屋は目張りで密封され、扉も窓も内側から鍵がかけられていたことから密室殺人と思われる。
しかし死亡と同時期に別れた恋人が合鍵を玄関先に置いており、密室ではなかったと判明。とはいえ警官の娘が監禁されているという噂話や、隣室の引きこもり中年男性など、謎めいた状況はつづく……


これまで悪くないエピソード*1を手がけてきた池上純哉が脚本。今回も社会派テーマをおりまぜつつ、複雑な思惑がからみあうプロットでミステリとしても見どころがある。
今回も首つり死体が生まれて現場が工作された経緯が意外と複雑で、次回予告でアピールしていた密室殺人としての面白味こそ弱かったが、謎解きの歯ごたえがけっこうある。常識的には不可能な真犯人の行動を、それをやりとげた人間としての力強さと位置づけ、ドラマへ昇華したことに凄味を感じた。飼育していた亀を管理するためと思われた監視カメラの位置づけなど、先入観がひっくりかえるミステリらしい驚きに満ちていた。
密室に隠されていた真相も見事に映像化されているので説得力はある。特命係でなくても鑑識の捜査で発見されるのではという疑問はおぼえたが*2、それ以前の捜査で見つからなかったことは理解できる。正式な令状を持たず、警官が個人として子供をさがすため家探しした時点なら気づかなくてもおかしくない。
引きこもりの息子が物語の要所で存在感を発揮しつつ、実はメインプロットと平行線をたどって重要人物ではないところも意外で良かった。ヒーローになれないからこその引きこもりというキャラクターは印象的だし、結末で全身をあらわした風貌も他人事とは思えなくて胸にせまった。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:そもそも、鑑識が発見したことを特命係が知らされる順序でも、無理なく同じ展開にできたと思う。