法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒season15』第12話 臭い飯

とある廃倉庫で白骨死体が発見される。殺害かどうかもはっきりしなかったが、近くから大手米穀販売会社タキガワの食品偽装を告発する証拠が見つかり、骨髄のDNA型から身元も判明した。
タキガワの社長が犯人視されるなか、タキガワの広告塔だった女性オーナーシェフや、死者の周辺にいた累犯受刑者がからんできて、事態は複雑さを増していく……


社会復帰と食品偽装という、ふたつの社会派テーマを融合させた物語。立場が弱い元受刑者だからこそ、隔離して偽装作業させられるという思いつきに、実に嫌なリアリティがある。
若手らしく技巧をこらして陰影を濃くした杉山泰一演出の画面。不可能状況をシンプルなトリック*1で成立させる池上純哉脚本の技巧。状況全体をコントロールする累犯受刑者を演じた笹野高史の存在感。スタッフのこめた力がドラマに反映され、粗い部分がありつつも満足できた。
最終的に元受刑者がひとつの犯罪をおかした真相があばかれるが、弱い立場ゆえの限られた選択肢として共感できる。それをいつものように叱責する杉下も、序盤で元受刑者への偏見を批判したり社会復帰の重要性を語ったりしていたから、冷酷な理想論とは思いつつも理解はできる。冠城の活躍も、女性オーナーシェフとの接点に終わらず、元法務官僚として協力雇用主制度をつくった一員として社会派テーマとも関連してくる。
ただ、女性オーナーシェフとタキガワ社長の不倫は、いくらアリバイの証明のためだとしても、今回のテーマからすると余剰になってしまったように感じる。他に必要な描写が多すぎて、冠城の失恋ドラマとしては薄くなってしまった。そもそも不倫するような間柄では、アリバイの証言者として不十分だろう。あくまで現地視察に同行したという説明で良かったのではないか。

*1:特殊な共犯という意味では、元日SPの前半を抽出したようなものともいえる。コンセプトの明確化という意味で、感想エントリで求めたものを見られた気分。『相棒season15』第10話 帰還 - 法華狼の日記