法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』葉っぱ探偵のび太/二十一世紀のおとのさま

なぜか前半がCMで2分割。特に尺が長いわけでもないのに。


「葉っぱ探偵のび太」は、友人3人のトラブルの犯人がドラえもんと疑われ、のび太は冤罪を解こうと奮闘する。しかし秘密道具で監視すると、疑わしくなっていく……
福島直浩脚本によるアニメオリジナルストーリー。いくらドラ焼きのためでもドラえもんが盗むはずはない*1と主張したのび太だが、帰宅するとハッパをキメているような姿のドラえもんがあった……という導入は笑えた。
そのドラえもんがつけていたオリジナル秘密道具「グラスハッパーセット」は、植物視点が楽しめるVRグラスのような機械。植物に視覚や聴覚があるというトンデモネタを引いたり、観賞用に用意された葉っぱと違って捜査のためには葉っぱを採取する必要があったり、設定のSFっぽさや少し努力が必要なところは、過去の福島回*2に比べると秘密道具らしさがあった。ただ、やや機能が複雑すぎるという難点は残っている。
アニメとしては、植物をとおしてさまざまな景色を楽しむ場面はよくできていたし、本筋にもどってもドラえもんが危なっかしい行動をとりつづけるサスペンスと、その途中で真犯人を示唆する伏線を入れる手際も悪くない。


「二十一世紀のおとのさま」は、つまらないことで殿様から斬首されることとなった百姓を助けにタイムトラベル。しかし入れかわりに殿様がタイムマシンに乗ってしまい……
ひとり異世界へやってきて、未知の苦労や幸福を味わい知見を広げる中期原作*3の再アニメ化。相内美生脚本、釘宮洋コンテ演出、田中薫作画監督で、じっくりゲストキャラクターのドラマを描いた。
ストーリー展開は原作に忠実だが、2007年にアニメ化した時よりもディテールを追加。自動販売機などの文明を知らない姿をとおして、殿様が現代に来たことのギャップを増していた。良好な作画も違う文明文化に来たのだというディテールを支える。権力の源泉を失った世界で末端の苦労を認識することがメインテーマなので、異世界の技術や文化を正面から賞賛するわけではないが。
また、原作では悪行の一事例にすぎなかった食事描写を、さまざまな料理描写を追加して、その価値を知っていく。最初に粗末にされる食事も、ちゃんと料理に見えるよう色トレスで作画され、まずいと文句をいう殿様への印象が悪くなる。過去に戻ってからも料理の価値を説く場面を追加。2007年版でも父子にさしだされた食事をじっくり味わう描写を追加していたが、さらに強力に物語をつらぬくテーマとしてアレンジした。
ただ、工事作業現場の描写はあまり良くなかった。まず、力仕事ができない殿様は、原作と同じく「へっぴり腰」と叱られるのだが、直立して腰を曲げない体勢をしている。ちゃんと原作では尻をつきだして、腰を痛めそうな体勢で描かれていたのに。演出家や作画担当者がへっぴり腰という言葉の意味を知らなかったのだろうか。また、助けた関係性で労働を強要しているように見える今回より、複数の労働者に殿様が混じっている2007年版が、より父子の無償の善意が感じられて良かったと思った。

*1:のび太はけっこう普段の復讐としてジャイアンスネ夫のおやつを盗んでいるが。

*2:『ドラえもん』バイバイン/むりやりアスレチックスクール - 法華狼の日記

*3:発表時期の関係で、原作のサブタイトルは「二十世紀のおとのさま」。