法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『宇宙戦艦ヤマト2199 追憶の航海』

2014年に公開された長編総集編。もともと『宇宙戦艦ヤマト2199』自体が各編を劇場公開し、後にTV放映したシリーズなので、新味があることを期待していた。

地球出発までのドラマとイスカンダルからの帰還を大きく削除して*1イスカンダルへ向かう途中が中心となるよう編集。地球への帰還を描いた完全新作長編の『星巡る方舟』への期待感を煽るつくり。
もっと視点を偏らせた作品かと予想していたし、そうした案をスタッフも出していたことが舞台挨拶などで語られていたが、実際は素直に約2時間にダイジェスト。新規カットやリテイクはあるが、シーンそのものの追加がないので、あまり印象が変わらない。帰還時のコスモリバースをめぐる描写が、蘇生的に見えて好みではなかったTV版*2とは違っているように、TV版にわずかにあったツッコミどころはていねいにつぶされていたとは思うが。
艦内の日常を補完するようなEDの新規イラストは楽しかったが、あくまでファンサービスの範疇。良くも悪くも手軽にふりかえって楽しませることに徹した総集編だった。

*1:ついでに女性の性的なサービスカットも相当に減っていて、たとえばイスカンダルでの水着がない。

*2:『宇宙戦艦ヤマト2199』第26話 青い星の記憶 - 法華狼の日記

『スター☆トゥインクルプリキュア』第34話 つながるキモチ☆えれなとサボテン星人!

星空連合からサボローという名前の視察員がやってくるので、星奈たちは出迎えることとなった。やってきたサボテン型の異星人は音声でコミュニケーションがとれなかったが、天宮がボディランゲージで意思疎通に成功する。しかし実家の花を贈ったところ……


今作の小林雄次脚本回では初めて感心できたかもしれない。周囲よりも大人にふるまい難題をやりすごす天宮が、もともとボーダーラインに立つ人間として、いつも以上に苦労を背負うドラマとして印象深かった。
異星人のプルンスですら音声でコミュニケーションがとれないなら、肉体的にまったく異なる地球人のボディランゲージも通用しなさそうだが、そこさえ目をつぶればファーストコンタクトSFとしてよく構成されている。ゲストキャラクターと最後まで言語的なコミュニケーションはおこなわなかったことも、低年齢向けアニメとして挑戦的だ*1


星空連合から調査に来たはずなのにコミュニケーションができないという導入に、実は偶然に来訪した別人という真相を用意。そこまでは古典的なパターンの応用だが、そこから無私の友情をはぐくむ物語につなげた。
宇宙的な連合に認めてもらうためでなければ、もちろん大規模なイベントを招致するためでもない、偶然におとずれた対等な相手への「おもてなし」。それを美しく描いたこと自体に意味がある。
植物型の異星人だから花を切り売りする文化に怒ったのかと思いきや、サボテン型異星人が自身の肉体に咲いた花を贈るラストで、どこまで何を怒っていたのか不明瞭になったが、それも逆にSFとして良かった。

*1:もちろんEテレで放映される短編のように、言語的に未発達な段階の視聴者に向けては、台詞や字幕を用いないアニメは数多あるだろう。しかし「プリキュア」で想定される視聴年齢層は、それよりは少し上のはずだ。

反論する形式でhokusyu氏の根拠を提示してしまったcider_kondo氏

発端は、あいちトリエンナーレ2019への交付金が出されなくなったことを憂う海法紀光氏のツイート。

それに対して、海法紀光氏も脚本家として加担した「そうしたもの」の帰結ではないかとid:hokusyu氏がツイートした。

おそらくは『魔法少女特殊戦あすか』第2話の件だと思うが、私は原作もふくめて未見なので、ここでは踏みこまない。


問題なのは、hokusyu氏のツイートにはてなブックマークが集まり、なかでもid:cider_kondo氏による下記のコメントが人気になっていること*1
[B! 表現・思想] 北守 on Twitter: "三浦瑠麗のスリーパーセル妄想に即したような脚本書いて、あんたも朝鮮半島ヘイトに加担したでしょうが。この事件はそうしたものの帰結ですよ。 https://t.co/Nvyv0Qz2pZ"

その程度で「帰結」と言われるんだったら、大誤報を「政治課題となるよう企図」したタイミングで報道したhttps://www.asahi.com/shimbun/3rd/2014122337.html 朝日新聞とか、責任重大過ぎて死ぬんじゃねーの?(素朴な疑問

cider_kondo氏が紹介しているのは、従軍慰安婦問題の朝日検証に対する、第三者委員会の報告をつたえる朝日新聞の訂正ページだ。
朝日新聞社インフォメーション | 記事を訂正、おわびしご説明します 慰安婦報道、第三者委報告書 朝日新聞社
明らかにおかしいのは、ページ内で「政治課題となるよう企図」と第三者委が評価している記事は、同時に「記事には誤った事実が記載されておらず」とも評価されていること。

(1)について、第三者委の報告書は「(首相訪韓直前のタイミングを狙った)実態があったか否かは、もはや確認できない」としたうえで、前文の表現などから「訪韓の時期を意識し、慰安婦問題が政治課題となるよう企図して記事としたことは明らか」と指摘しました。(2)については、「記事には誤った事実が記載されておらず、記事自体に強制連行の事実が含まれているわけではないから、朝日新聞が本記事によって慰安婦の強制連行に軍が関与していたという報道をしたかのように評価するのは適切でない」としています。

他の記事もふくめれば、他のメディアと比べて少ないながら朝日新聞にも誤報があったと評価するのはいいだろう。しかし「大誤報」などという評価は、他の記事をふくめても第三者委そのものからは出ていた記憶がない。
歴史学会の共同声明を見れば、朝日新聞が撤回したような一部記事は「政治課題」と関連していないことがわかるし、むしろcider_kondo氏やその賛同者のような主張が表現や学問の自由を抑圧したとも論じられている。
「慰安婦」問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明 - 東京歴史科学研究会

日本軍が「慰安婦」の強制連行に関与したことを認めた日本政府の見解表明(河野談話)は、当該記事やそのもととなった吉田清治による証言を根拠になされたものではない。

一部マスメディアによる、「誤報」をことさらに強調した報道によって、「慰安婦」問題と関わる大学教員とその所属機関に、辞職や講義の中止を求める脅迫などの不当な攻撃が及んでいる。これは学問の自由に対する侵害であり、断じて認めるわけにはいかない。


もちろん、朝日新聞が「大誤報」したという虚偽はcider_kondo氏ひとりが流布しているわけではない。だからこそ、cider_kondo氏が海法紀光氏を擁護しようとコメントしたのならば、すぐにでも訂正してほしい。
戦時性加害の表象が弾圧された事件に対して、もし加害に加担するような虚偽を流布すれば、表現者と弾圧者のどちらを助けることに帰結するのか……少し素朴に考えるだけでわかるはずだ。

*1:はてなスターを集め、現時点で最上位に表示されている。スターをつけているはてなアカウントを列挙すると、id:Outfielderid:Parakerususuid:whkrid:babelapid:kalmalogyid:hmasah8id:timetrainid:mz88av40id:hazardprofileid:zionsid:sakamoto_tarouid:Ivan_Ivanobitchid:kirifuuid:bteiid:reiwa00id:oktnzm

マッドハウスにつづいてSTUDIO4℃の制作進行もブラック企業ユニオンに加入したとの情報

会社としての体制に問題があることは、視聴者の立場でも良くない話をいくつも目にしてきたので*1、残念ながら意外性はない。
【スタジオ4℃(1)】映画『海獣の子供』『鉄コン筋クリート』のアニメ制作会社「スタジオ4℃」で残業代未払い・労働環境改善を巡って団体交渉|総合サポートユニオン|note
労基署に訴えても動いてもらえず、やむなくユニオンに加入したとの経緯から、アニメ業界にとどまらない日本社会の問題ということもうかがえる。

Aさんは労働基準監督署に申告しましたが、労基署の監督官も会社の主張に従ってしまい、「タイムカードの期間に労働していたという証拠を提出してほしい」と2年間全日程の労働実態の証拠の提出を労働者に求めるというおよそ実現の困難な回答をしてきました。
これらの対応を受けて、Aさんは人気アニメ制作会社マッドハウスとの団体交渉が報道されていたブラック企業ユニオンに今回加入したのです。

一点だけ救いがあるとすれば、先に戦おうとした人物がいて、きちんと報道されたことが、今回の動きにつながったこと。その人物が戦う決意をしたのも、報道があってのことだった。
ブラック企業ユニオンにくわわったマッドハウスの制作進行に、文春がくわしくインタビューしていた - 法華狼の日記

過去の死が助けになったという話ではない。問題がきちんと表面化して報道されたことが、時間がかかりつつも次の世代に良い影響を与えられたのではないか、という話だ。

すぐ目に見える成果が出なくても、戦うことは無駄ではない。そう信じたいものだ。

二酸化炭素の排出量で百歩逃げてる日本人が、五十歩逃げてるスウェーデン人を非難するの?

グレタ・トゥーンベリ氏を揶揄するツイートをまとめたTogetterを見かけた。
もうはっきり言いますけど、スウェーデンの白人が涙を流して私たちの未来を奪うのかと叫びながら、途上国の人民の未来を奪っていく構図、めっちゃいい話じゃないですか。 - Togetter
タイトルに用いられているのはBeriya氏による下記のツイートだ。

別件のMValdegamas氏*1の表現を引くならば「本物のクズ」と呼ぶべきなのだろうか。

Beriya氏は表現の自由が暴力的に攻撃された事件で、被害者を嘲弄して楽しんでいた人物なので、一種の一貫性は感じるが。
爆破予告に対して運動団体が反応したことを「音の出るおもちゃ」あつかいするツイートを見かけて、気持ちが落ちこんでいる。 - 法華狼の日記


まず不思議なのが、なぜ「先進国」の「白人」という単純なくくりで、「途上国」の「未来」と対立させるのだろうか?ということ。
たとえば海面上昇により国土の水没にさらされているモルディブは途上国ではないという認識なのだろうか?
毎小ニュース:国際 地球温暖化の最前線 モルディブ(その1) - 毎日新聞
ひとりあたりで比べても二酸化炭素を多く排出している日本は、スウェーデンの未来を奪っているとBeriya氏は主張するのだろうか?
日本>CO2 二酸化炭素排出量(BP統計) - GLOBAL NOTE
スウェーデン>CO2 二酸化炭素排出量(BP統計) - GLOBAL NOTE
念のため、上記は化石燃料による二酸化炭素排出量の資料なので、実態とは必ずしも一致しないし、別の地球環境の争点とは衝突する側面もある*2
それでも日本に比べてスウェーデンには改善しようとする動きがうかがえるとはいえるだろう。その日本人がなぜスウェーデン人を「白人」と揶揄できるのか。


そもそも、この話題において年長者が年少者にかける言葉として、上記のような揶揄をおこなうこと自体、恥というものを知っているのかと疑わざるをえない。
念のため、子供の主体性を疑うべきという話ではない。このような社会を作りあげた先達として、おそらくBeriya氏を初めとした人々は、グレタ氏よりは重い責任を負っているのではないか?という話だ。
もちろんグレタ氏も社会を構成する一員として次の世代に対して責任を負っているだろう。しかしそこは少なくともツイッターで揶揄をする人々よりは行動で示していることは間違いない。

*1:はてなアカウントはb:id:Donoso

*2:東日本大震災の結果とはいえ原子力発電の比率が大きく下がった日本に対し、いまだスウェーデンは電力の約半分を原子力発電に依存していること等。