法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『宇宙戦艦ヤマト2199』第26話 青い星の記憶

汚染された地球を復活させるため、コスモリバースシステムを搭載して帰還を急ぐヤマト。
地球との通信が回復して状況の深刻さを知らされ、さらにシステムへの不安を残しつつも、おだやかに時が流れていく。
しかし艦内の各所で、死んだはずの古代守らしき影が目撃されていた……


出渕裕総監督が脚本を手がける最終回。
死者が霊的な存在になるSF設定をとおして、死が不可逆であることを逆説的に表現する。旧作シリーズで無理やり復活させられていた沖田艦長を、きちんと穏やかに死なせつつ、いかようにも完全新作映画へと繋げられる。
だからこそ、いったん森雪を死なせるような展開にするべきではなかったと思う。これまで戦死者が何人もいたのに、大きな対価をはらったとしても、主人公に近しい人間1人だけを救う展開が好きになれない。
ユリーシャを保護していたカプセルで生命活動を維持するというアイデアは悪くないからこそ、それだけで充分だった。植物人間のままでもほぼ同じ物語が展開できたはずだ。それでなくても、せめて肉体的な生存だけは維持されつづけているという設定にしてほしかった。記憶が保存されるというコスモリバースの設定から延長して、保存された記憶が転写されたとでも説明すれば、それなりに納得がいったかもしれない。


絵コンテは京田知己。監督作品の『交響詩篇エウレカセブン』では、七色星団にオマージュをささげた七色雲海という舞台でひとつのクライマックスを描いており、主人公たちの母艦である月光号は松本零士メカにオマージュをささげたモニターデザインをしていた演出家だ。
それほど思い入れがある原作のリブート最終回に登板したのだから、力を入れた絵コンテを切りそうだと予想したのだが……いかにもスポット登板した時の京田監督らしく、他の話から浮かないような演出に抑えていた。大きなアクションのない、ややホラータッチの物語をそつなく映像化したと思うが、やはり最終回なのだから尖った表現もどこかにほしかったかな。


最終回なので全体の感想も書いておくと、とにかくリブート作品としての完成度が高かったことにつきる。西粼義展と松本零士というアクの強い原作スタッフとの距離感も絶妙だった。
意欲的でありつつ、いびつさが目立った古いTVアニメを、現代の視聴に耐える説得力と描写密度で新作映像化。多くの疑問点をつぶしつつ、とりこぼされていた設定を加えなおして、新たな魅力もつけくわえていた。原作では打ち切りゆえにあわただしくなっていた帰還も、戦闘のない穏やかな航海として描くことで、わずか1話分でも長い時間を体感させる。
人を救いも傷つけもする科学技術の両面を、「波動エンジン」という設定に集約したところも素晴らしかった。敵の攻撃によって地球が放射能汚染されているという、原作では使いきれなかった設定を思い切って捨てたことで、逆に主人公たちも背負っている問題として何度も直面していく*1
もちろん映像面でも文句はほぼない。序盤に3DCGの軽い挙動やディテールの薄さが気にかかったくらいで、物語が進むにつれて3DCGならではのカメラワークと重量感が両立していった。手描き作画も素晴らしく、あまり期待していなかったメカアクションでも楽しめた。

*1:この展開のため、イスカンダル到達以降に波動砲を使うことが技術面だけでなく倫理面でも難しくなった。完全新作映画は最終回より前の物語を描くのかもしれない。