法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「異世界転生・転移もの」を合わせた通称だけなら、「異世界転生」で充分ではないか?という提案

少し前、「小説家になろう」の代表のようにイメージされるジャンルカテゴライズについて、id:kazenotori氏が下記エントリを書かれていた*1
「異世界転生・転移もの」の略称というか通称を考える - WINDBIRD

異世界転生とは「現実世界で死んで異世界に生まれ変わる物語類型」、異世界転移とは「現実世界から異世界に移動する物語類型」のこととする。

「勇者として異世界に召喚されるもの」や「現実世界と異世界が接続されて行ったり来たりするもの」などもそこに含めることとする。

つまり現実世界とは遠くへだたれた異世界が存在する設定で、もともと現実世界にいた主人公が異世界に移動することからはじまる物語類型の考察だ。
もちろんそうした類型がかたまっていくことで、それを逆手にとった創作がおこなわれるのも世の常だ*2。そうしたジャンルカテゴライズは模倣と逸脱のグラデーションな境界線でおこなわれることは前提である。
そもそも転生と転移という狭義のカテゴライズも、不本意な死の補償としてもとの姿のまま転移をおこなう作品群を思えば、はっきり区分できないグラデーションがあるといえる。


そうしていくつかの通称を提案する上記エントリに対して、私は下記のような提案をコメントした。

固有の作品名のナルニア型とならんで、けっこう本気の提案としてダンバイン型なんてどうでしょうか。
本編は基本的に召喚型でありつつ、後半から異世界と現世を往来する展開もあり、外伝には転生主人公も登場する。つまり異世界と現世を主人公が移動するパターンの全てをシリーズとして押さえている。
そして日本の作品だからこそ、日本のブームを象徴する名称といえる……かもしれません。

海と陸の間にあるとされる異世界バイストン・ウェルと、現実の地上界を往来しながらつむがれるファンタジー作品群。
通常の手段では行けない文明も文化も異なる異世界がある設定が基礎にあり、そこへ地上人が行く過程はエピソードによって異なる。
だからこそ、多くのジャンルを包摂しつつ異世界と現実世界の対置を重視するファンタジーの象徴として適切ではないかと思ったわけだ。


もうひとつ、後から思い出したこととして、下記のようにもコメントした。

そういえば、貴種流離譚のような類型呼称のひとつに、異郷訪問譚という類型もあります。
https://researchmap.jp/jopu0j5t4-1928848/

訪問者は異郷を訪問する。その後、訪問者が再び故郷に戻ってくる物語もあるが、戻ってこないものもある。

地獄めぐりや天国めぐりをする物語が典型的ですね。
ただ、ここでいうようにわざわざ転生や召喚する異世界と比べて、すぐ隣の世界というか、歩いて移動できそうな不思議な距離感が、ちょっとイメージにそぐわないのかもしれません。
(神話の地獄めぐりは徒歩で向かうようなイメージがありますよね)


しかし、狭義のジャンル間でもグラデーションがあることを考えているうちに、広義の「異世界転生」という通称に、狭義の「転生」と「転移」をふくめても良いのではないか?と思うようになった。
異世界で産まれなおして幼少期から育っていく物語は、メディアミックス展開で念入りに描かれることは少ない。それゆえ「異世界転生」という呼称を、そのような狭義にとどめる見解は広まっていない印象がある。
そして、そもそも「転生」の語義は、生まれ変わるという意味だけではない。辞書を引けば、そのまま現実世界から異世界へ身をおきなおす物語すべてに適用できる語義がふくまれている。
転生(テンショウ)とは - コトバンク

生まれ変わること。転じて、環境や生活を一変させること。てんせい。「輪廻(りんね)転生」

この転じた語義を意識すると、「異世界転生」という通称は「転生」や「召喚」のイメージにもよくあった言葉とわかるし、むしろ「転生」を生まれ変わる作品のみに使うことの難しさを感じさせる。
かつて『ぼくの地球を守って』のような現実世界で過去から生まれ変わるような作品群を「転生物」と呼んでいたことが、「転生」の意味をせまく感じさせてしまったのかもしれない*3


いずれにせよ「異世界転生」が「転生」も「転移」も「召喚」もふくめた通称として問題がないとはいえるだろう*4。先述のように、生まれ変わる場合のみに使われていた狭義の「異世界転生」の通称こそが問題になる。
そこで転生よりも語義がせまく、イメージしやすい言葉として、「異世界輪廻」という通称はどうだろうか? もともと「転生」とセットで使われていた言葉であり、狭義と広義でかんちがいする要素も少ない。
もちろん言葉とは使う人々の意思疎通のためにあるのであって、思いつきで新たに提案しても定着した言葉にとってかわることは難しいが、厳密なジャンルわけをしたい時などに便利かもしれない、とここで提案しておく。

*1:引用時、太字強調を排して、私のコメントの転載は引用符を引用枠へ変更した。

*2:私自身、これまであまり試みられていない構造の異世界転移をひとつ思いついてプロットを書きためている。さすがに検索すれば近い例がいくつか見つかりはするが、組みあわせる別ジャンルとの比重が思いつきとは異なるものばかり。完成までもっていくのが難しいのか、読者受けがよくないのかもしれない。

*3:あえていえば、「転生」を生まれ変わり以外の意味で使うことが誤用だという主張は、辞書的な説明ではそれこそ誤用になる。誤用ではないのに誤用とされてきた「汚名挽回」のようなパターンかもしれない、と疑っているが、くわしく調べていないのでわからない。

*4:ただし定期的に現実世界に戻る「往来」をふくめることは難しい。

『相棒 Season17』第17話 倫敦からの刺客

杉下のイギリス時代の相棒ながら、法をふみこえた独自の正義の執行者たる南井。彼に心酔した何者かが、日本へと向かった。
重罰を逃れた犯罪者が次々に殺害されていくなか、イギリスからの旅行客がツアーガイドに連れられて花の里へやってくる……


南井が初登場したエピソード *1と同じく、徳永富彦が脚本を担当。
ゲストキャラクターが少ないのでミスディレクションは足りない感があったが、一般的な刑事ドラマとしては挑戦的なことをやったこと自体を評価したいし、その伏線のはりかたには感心した。けっこう序盤に旅行客が南井の心酔者と示す描写をしたことが、後々まで効いている。
連続殺人と何の関係があるのかわからない排水トラブルや、花の里で杉下がかかわる英語のトラブルといった細部をはじめ、天候や尾行といった刑事ドラマとして平凡な描写まで、事件の構図を解明する手がかりとなっている。
殺された犯罪者のひとりをとおして事件全体の背景をあらかじめ説明しておくというテクニックも、複雑な設定を1時間ドラマにおさめることに効果をあげていた。


監督は橋本一で、そこそこ画面が重厚で、古ぼけた写真を使った演出もいい。
トリックもキャラクターも人工的なストーリーでありながら、その基礎とした社会問題のリアリティと齟齬を感じさせない。
アイデンティティを奪われた過去が、異常な犯罪者を生みだしたという映像作品としての説得力は充分にあった。

若手アニメーターの年収についてNHKが報道

日本アニメーター演出協会JAniCAによる新たなレポート*1にもとづいている。
日本の若手アニメーター 年収低く厳しい労働環境続く | NHKニュース

全体の平均年収はおよそ441万円で、前回、5年前に行った調査と比べ100万円余り増加しました。

これは全産業の平均年収と比較しても9万円ほど上回っています。

しかし、20歳から24歳に限ると、平均年収はおよそ155万円で全産業の平均年収を100万円余り下回りました。

レポートを読むと、回答したアニメ関係者の平均年齢がそのまま上がっており*2、全体の年収の増加も高齢化によるものという可能性を感じてしまう。
逆に、2015年の調査と比べると、若手アニメーターの年収が実際に増加しているらしい印象はある。
若手アニメ制作者が年収110万円という調査報告は、過重労働や搾取が業界全体にみられることとは、また別個の問題らしい - 法華狼の日記

NHK記事が注目されたが、動画時代の若手の年収問題と、全体の低賃金問題*1について、うまく区別できていなかった。
はてなブックマーク - アニメ若手制作者 平均年収は110万円余 NHKニュース

とはいえアニメーターとひとくちにいっても、職種や立場によって年収から環境まで大きく異なる。ここは全体の平均で単純に比べるのではなく、やはり職種別の中央値*3で報じてほしい。
また、同じように手書きアニメを制作している外国との比較なども知りたいところ。中国や韓国の物価や環境が日本と変わらなくなりつつある昨今、日本の下請けをしている会社の環境は日本で元請けをしている会社より良かったりするとも聞くのだが、それが事実ならどのように成立しているのだろうか……

*1:http://www.janica.jp/survey/sympo2019_handout.pdf

*2:PDFファイル5頁。

*3:一応、レポートでは外れ値をのぞいているようなので、レポート内なら平均で説明することも理解できるのだが。

『世界まる見え!テレビ特捜部』戦慄の瞬間2時間SP

サスペンス性の高い雑多なドキュメンタリーの寄せ集めだが、投稿や監視カメラの映像もふくめて刺激的ではあり、TV番組としてダレなかったのは良い。


「フランス警察:ランス編」は、ノートルダム大聖堂もあるフランスの古都。しかし道路標示に麻薬の売買情報が書き込まれたり、中学生同士が抗争をしたりと治安が悪い。例によって警察力と監視カメラ*1の肯定ばかりで、
「イギリス特殊救護隊 HART」は、特別に選抜された救急救命隊をレポート。塩酸漏れを起こした工場へふみこみ、内部に空気を入れてふくらんだ防護服で、塩酸の流れ出るハッチを封印しようと奮闘する姿を見せていく。流水のように塩酸が流れ、発生したガスが視界をおおい、一夜明けると周辺住民が体調不良をうったえる。
下手なディザスター映画を超える光景だが、ひな壇のタレントが映画は現実に勝てないかのようなコメントをしたのは疑問。どこまでも事実を再現しながら、誇張や編集で新たな光をあてる実録映画の素晴らしさを思えば、けしてクリエイターが敗北をおぼえる必要はないだろう。
「危険なお仕事:エチオピア編」は、大地一面に広がる塩を掘削したり、百年前の列車をだましだまし運行する光景を紹介。前者は灼熱の世界で皮膚をただれさせながら仕事をつづける姿が胸にせまる。後者は多様な人間模様が興味深く、列車事故で片足を切断されたため運賃が無料になった少女が印象深く、なにかグランドホテル形式の映画にでもできそうな題材だと感じた。
「奇跡の生還:恐怖のダイビング」は、ニュージーランドでロブスターをとろうとしていた男の漂流劇。潜水服でひとり流されていたシリアスな事件だが、ロブスターを食べるタイミングなどが奇妙にコメディチックで、観客を笑わせていた。あまりに状況を嘆きすぎると、滑稽に見えてしまうものだ。

*1:「ボディーカムコップ」では、カメラの違う使い方も見せた。白人男性と黒人一家のもめごとで、警察が通報した一家ではなく男性に話を聞いたのはいいとして、うったえる黒人女性らを罵倒して次々に逮捕していった光景を、一家の子供たちがケータイで撮影していた映像が複数あり、それが証拠となって警官は10日間の停職処分となったという。

『スター☆トゥインクルプリキュア』第4話 チャオ!きらめく笑顔☆キュアソレイユ誕生!

観星中学校へ登校する星奈にララがついていくと、以前に街で出会った天宮えれなが元気よく登校してきた。
天宮は「観星中の太陽」と呼ばれる人気者で、いつも周囲に彼女を敬愛する人々がつどっている。
そして下校した星奈とララは、早々に帰宅して家業を手伝う天宮と、その弟妹に出会う……


赤田信人と共同とはいえ、高橋晃キャラクターデザインが作画監督スタジオダブアニメーターの速筆ぶりにあらためて驚かされる。作品立ちあげの序盤なので大量の設定画を描かなければいけないはずなのに、単独作監の第2話から間を置かずに登板とは。
脚本も、村山功シリーズ構成の4連続目。ララが自校の生徒ではないらしいことに天宮が気づく描写のように、今作はアニメで省きがちな細やかな描写が多い傾向を感じているが、脚本の作風なのか他のスタッフの意向なのか、どちらにしても好ましく思っている。


物語の本筋は天宮えれなの新プリキュアへの変身だが、とにかく天宮の新しさが好印象。
誰もが尊敬する心技体すべてそろった超人だが、敵の攻撃を初めて見た時は恐れをなして、しかし勇気をふりしぼるように生身のまま立ちむかい、その精神の力強さを見せてからプリキュアへと変身する……
過去作のプリキュアのいくつかの側面に近いところはあるが、総合することで全く違った味わいに変わっている。日常と戦闘がともに完璧か気弱かというパターンが多く、日常が気弱で戦闘が完璧という組みあわせも成長途上のキャラクターでは珍しくないが、日常の完璧さと戦闘の気弱さという組みあわせは記憶では初めてだ。弟妹のなかでもっとも年長な少年がゲームばかりしている描写も、全体として良い子が多いプリキュアの世界観では珍しい。
もちろんメインのプリキュアがオリーブ色の肌をしているデザインも、女児向けアニメとしては冒険だろう。ブラジルの帰国子女という設定を放送前に見かけたが*1、憧れの外国としてくりかえしパリを劇場版の舞台にして*2、他の海外旅行や外国人も欧米にかたよりぎみだったシリーズで、あえて南米からメインプリキュアを起用した意義は大きい。

*1:明確な公式情報は検索したかぎりでは見つからなかったが。

*2:ちゃんと物語としての必然性はあったとは思うが。『映画ハートキャッチプリキュア!花の都でファッションショー…ですか!?』 - 法華狼の日記