法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 Season17』第12話 怖い家

義父母の遺した家へ夫と引っ越した女性に、さまざまな恐怖がふりかかる。謎の物音に不審な人影。庭にある桜を描いた、意味ありげな桜の絵。
仏壇の蝋燭がともり、洗濯物には赤い手形。女性に強くリフォームをすすめる隣人女性も登場。興味をもった杉下が調べていくと、仏壇に謎の位牌が見つかる……


山本むつみ脚本で、古典的な怪奇映画をオマージュしたような恐怖譚が描かれる。
見ながら連想したのが『ドラえもん』の「ミュンヒハウゼン城へようこそ」*1だ。同じように引っ越しによって怪奇現象に見舞われつつ、映画などでは人間が意図をもって脅していることがよくあると劇中で言及される。
このドラマもやはり意図をもって人間が脅すパターンだと思ったので、がんばっている恐怖演出もパロディのように感じて、あまり怖くなかった。後半で桜の木をめぐって冠城が有名な物語に言及するように、スタッフも意識してオマージュしているのだろう。

*1:かつて渡辺歩監督が劇場版の原作にしようと考えていたが、藤子プロの意向で違う原作の『緑の巨人伝』となった。後に渡辺歩コンテでTVSPアニメ化されたが、ホラー要素を削ってスラップスティックギャグ化し、まったく原作と異なるテイストになってしまっていた。『大みそかドラえもん さらばネズミ年!来年はモ〜30周年だよスペシャル』ゆうれい城へひっこし/野比家が無重力/ネズミが去るまであと4時間 - 法華狼の日記

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『戦慄の七日間』

第二次世界大戦の記憶も新しいイギリスのロンドン。首相以下、政府関係者があわただしく動いて、ひとりの原子力科学者の行方を探していた。
その科学者が首相に送った手紙によると、イギリスが核兵器を手放さなければ、持ち出した原爆を一週間後にロンドンで爆発させるという……


反核テーマを発端としてサスペンスを展開する1950年のイギリス映画。日本では第五福竜丸事件と同じ1954年3月に公開されたという。

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いかにも社会的なメッセージ性を期待させる発端だが、劇中では科学者の主張は狂気におちいったためと理解され、さほど重く受け止められない。
どちらかといえば何度となく台詞で言及されるダンケルク撤退のように、人々が疎開することでロンドンが静止していくパニック性が重視された作品だ。
念のため、科学者が教会で祈りをささげる場面などもあり、けして反核メッセージを否定しているわけではない。そのようなメッセージをおりこんだこと自体が先駆的ともいえる。
しかし科学者のうったえは敵国にとどかない*1という反論ですまされ、物語はロンドンが危機を脱したところで終わる。良くも悪くも軽妙なサスペンスとして見るのがいいだろう。


現代に観て興味深いのは、美男美女で引っぱる物語ではないこと。序盤こそ科学者を追う男と科学者の娘が主人公のようだが、活躍といえるのは中盤の追跡劇と、終盤の事態収拾くらい。
物語の本筋は、官憲から身を隠そうとする老科学者と、その意図を知らず手助けしてしまった老女優の、ユーモラスなサスペンスにある。
今も自分が名女優と思いこんで煙草をふかす自立した老女の目をごまかしながら、老科学者はおとろえた肉体にむちうつように目的をとげようとする。


現代ならばパルクールを使いそうな追跡劇や脱出劇は古いアクション演出なりに悪くないし、老女優の言動が意図せぬ結果につながっていく展開もよくできている。
映像表現も、車窓を流れるテロップに始まり、老科学者の手配写真が街全体に貼られる面白味や、大規模な群衆の疎開*2無人となったロンドンの静止した情景*3、ビッグベンをカットバックしたタイムリミット演出まで、全体に見どころが多い。
さらにメッセージ性がある重苦しい場面があれば、もっと歴史を超えて言及される映画になったかもしれないが、これはこれで娯楽として完成している。

*1:単純に聞く耳を持たないというより、敵の権力者が情報を遮断して、メッセージが敵国民までとどかないという理屈。

*2:おそらく資料映像をモンタージュして疎開に見せかけているのだと思うが。

*3:動物だけが動いている寂しさがいい。

映画の邦題や宣伝のダサさについて、マニア層よりライト層に売りたいという主張はわかるが、両方に受けた事例があることを否認するのはダメでは

邦題や宣伝の方向性について、匿名のプロデューサーからコメントをとった記事があった。
「ダサい邦題」「タレントでPR」、熱心な映画ファンが“無視”される事情 稲田豊史の「コンテンツビジネス疑問氷解」|ビジネス+IT
ざっくりいえば、マニアは少数だし何をしても最終的に見にくるから、ライトな一般層にリーチするためわかりやすさを優先するというもの。
単純にマニア層よりライト層の数が多いだけでなく、マニア層の評価による宣伝も期待できないと、このプロデューサーは主張している。


不思議なことに、検索エンジン最適化についての言及がない。そのあたりを全く意識していないかのような邦題が韓国映画につけられがちな謎は解けなかった。
『弁護人』 - 法華狼の日記
『アシュラ』 - 法華狼の日記
上記の他にも、原題から直訳された映画『お嬢さん』は一般名詞でもあり、同名の日本映画もあることだし、原作の邦題と同じ『荊の城』というタイトルにするべきだと感じたものだ。
仮説としては、韓流ブーム初期にシンプルな邦題の映画『シュリ』がヒットした前例があり、かつ現在の韓国映画はミニシアター系が多いため、わかりやすさを犠牲にできると考えられるが……


さて、プロデューサーの主張をつたえた記事へのコメントは否定が多いが、理解を示すコメントもいくつかある。
その個別の当否はさておいて、下記のコメント*1だけは事実認識に首をかしげざるをえなかった。
はてなブックマーク - 「ダサい邦題」「タレントでPR」、熱心な映画ファンが“無視”される事情 稲田豊史の「コンテンツビジネス疑問氷解」|ビジネス+IT

id:machinematine 映画ファン好みのシンプルでオシャレなデザインのポスターだったけど、「ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険」はそこまでヒットしなかった。結局、この手の話に文句言ってるのはノイジーマイノリティなのよ。

ポスターが評判になっただけでなく、デザイン化されたキービジュアルも印象深かった作品だ。
「映画ドラえもん」新ポスターが超カッコよくて大人もぐっとくる 起用の理由は?
私も第一報のティザーサイトの時点で、その珍しさに強い印象を受けた。
2017年の『映画ドラえもん』の公式サイトが公開&『クレヨンしんちゃん』のオリジナルエピソードがAmazonプライムで独選配信 - 法華狼の日記

情景としては、巨大な氷山を豆粒のような登場人物が見あげるティザービジュアルが確認できるのみ。

ここまで力強く、キャラクターに頼っていないティーザーは珍しいですね。
スクロールさせて全貌がようやくわかるという点で、WEB向けデザインとしてもよくできている。

俳優でもないタレントをゲスト声優に使っていたが、それはシリーズの恒例であり、この作品だけの宣伝ではない。むしろ本編では動物的なキャラクターで鳴き声を出させるにとどめて、比較的に違和感を抑えていた。
宣伝の一環としてスケーターがダンスするイメージソングを作ったが、それは本編には用いられなかった。


そして「そこまでヒットしなかった」というが、実際は2006年のリニューアル以降で、最高興収を更新した。
その記録は次年度の作品『のび太の宝島』がさらに興収記録を更新したニュースにおいて言及されている。
『映画ドラえもん のび太の宝島』興行収入44.4億円突破 | アニメイトタイムズ

★『映画ドラえもん』新シリーズ(※)で、昨年に続き興行収入歴代1位を更新!
★2016年公開『新・のび太の日本誕生』以来、3作連続の40億超え
★これまでの新シリーズ最高興行収入記録
映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険(2017年3月4日公開)
44.3億円

念のため、もっとライトな一般層に向けた宣伝をすればさらに興収がのびたという仮説がなりたたなくもない。
しかし事実として、マニアもライトも両立する作品はありうるし、あったことは認めるべきだろう。

*1:はてなスターをつけたアカウントも列挙すると、id:iwwid:whkrid:sbedit1234id:asakura-t

『HUGっと!プリキュア』第48話 なんでもできる!なんでもなれる!フレフレわたし!

仲間たちに支えられ、キュアエールは単身でジョージ・クライのもとへ向かう。そしてふたりはたがいの思いをぶつけあうように対峙して……


坪田文シリーズ構成の脚本に、座古明史シリーズディレクターの演出、川村敏江キャラクターデザインの単独作画監督で、事実上の最終回。
プリキュアシリーズは、最後に敵首領を赦して救う、あるいは対立する存在として認めることが増えてきた。しかし、ここまで敵首領のはげしい攻撃を受け流すような、本当に癒し*1で応じる決戦は初めてだと思えた。『ハートキャッチプリキュア!』第49話*2の「こぶしパンチ」の、さらなる先を見た思い。
それでいてジョージの一撃一撃の描写に力が入っていることで、アクションエンタメとしても最低限に充実しているし、それに立ちむかい自他を鼓舞するキュアエールの信念も伝わってくる。
そして「なんでもできる!なんでもなれる!」という作品のメッセージを、作品における特別な存在に誰もがなった光景で力強く示す。話題になったキュアアンフィニへの変身は、やはり特別な存在が生まれたということではなく、いずれ当然になってしかるべきというメッセージだったわけだ。
『HUGっと!プリキュア』第42話 エールの交換!これが私の応援だ!! - 法華狼の日記
そこで人々がおこなうことは応援にとどまるが*3、対するキュアエールも向けられた応援を返すようにふるまう。
どこまでも主人公でありつつ敵を切りすてることに拒否感をもち、各話において応援的な立場でありつづけた野乃はなという少女。それゆえの物語だった。

*1:すなわちプリキュアの「CURE」。

*2:『ハートキャッチプリキュア!』第49話 みんなの心をひとつに!私は最強のプリキュア!! - 法華狼の日記

*3:シリーズを立ちあげた監督が以前にアニメ化にかかわった『ドラゴンボール』を想起させられる部分があるし、プリキュアシリーズでは映画版で観客参加コンテンツとして定番になった演出に近い。

山形浩生氏が統計の捏造の困難性だけをもって経済指標の信頼性を絶対視していたことのメモ

発端は、なぜ全幅の信頼をおけるのかとリフレ派への疑問をつぶやいた柳下毅一郎氏のツイートだった。それを山形氏が全否定するように反応した。

アベノミクスで経済がよくなってるとおっしゃるリフレ派の方々は、なぜ財務省の出す経済指標は捏造されてないと信じられるのだろうか。

呆れたよ、柳下。どの統計が捏造だと思ってるか知らないが、統計は多くの場合類似のものが複数あって、しかも相関するはずのものも多く、一部を操作したらつじつまあわなくなることが多いからだよ。自分の実感だの目の届く範囲がいかに小さくあてにならないかも忘れた、夜郎自大な全能感に陥るとはね。

困難性をもって捏造されていないことの根拠になるのであれば、たぶん日本の公文書が改竄されることもなかったろう。


その後、統計が疑わしいという報道と関連づけるツイートに対して、異論が出るのも当然だという反論をおこなっていた。

内閣府の統計の信憑性についてのニュースに関連して、山形浩生氏がいじることはありえないと断言していたのを思い出してクリップ。

統計は、小学生のお天気日記とはちがうので、多様なデータの集計方法に様々なやり方があるのです。当然異論も出ます。いろんな人や機関がデータを見て、そのあり方をこのように検討しているということ自体、統計をそうそう勝手に捏造するのはむずかしいという証拠でもあるんですよ。

しかし異論が出るのが当然であれば、もともとの柳下氏の疑問の裏づけにならないだろうか。


そして先日から、厚生労働省が不適切な調査をおこなっていたことが明らかになったと報道されている。
「国際的に日本の統計に信頼が損なわれるおそれ」雇用保険や労災保険で過少支給も | 注目の発言集 | NHK政治マガジン

雇用問題に詳しい嶋崎量弁護士は「国の統計調査が本来と異なる手法で行われていたことは極めて重大な問題だ。国の発表データは雇用保険の失業給付や労災保険にも影響し、景気判断の指標などにも使われる。また、民間でも春闘で労使が賃金を決める際、参考データとして使われていて、国際的に日本の国の統計に対して信頼が損なわれるおそれがある。あってはならないことなので原因を究明し、再発防止に取り組んでほしい」と話しています。

このような不適切な処理が組織的におこなわれていたという報道もある。
雇用保険、数十億円超を過少給付 勤労統計問題の影響で - 共同通信 | This Kiji

また厚労省の担当者が2004年に本来とは異なる調査手法に変更した後、担当者間で15年間引き継がれてきた可能性があることも判明した。調査手法を正しく装うため、データ改変ソフトも作成しており、厚労省の組織的な関与の有無も焦点の一つだ。

なるほど、捏造が困難であるということは、その捏造は大規模におこなわれ広く責が問われるものだろう。そしてその悪影響の範囲もささいなものではなくなる。
そういう意味では、統計捏造の困難性を主張した山形浩生氏の見解が正しければ正しいほど状況はひどいのだ、と覚悟しておく必要がありそうだ。