法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ハートキャッチプリキュア!』第49話 みんなの心をひとつに!私は最強のプリキュア!!

前回から続けてメインスタッフの長峯達也、栗山緑、馬越嘉彦が、それぞれ演出、脚本、作画監督を担当。
特に作画が細部まで手が入れられており、緻密かつ見所が多い。前回と同じ作画監督でありながら、主人公のキュアブロッサムが少し面長で描かれ、肉体的な成長で内面の成長も表現しているところは、作画が演出領域にも深く関わっていて興味深かった。巨大化したデューンが地球を殴った拳が、地上目線でゆっくり天上へ戻っていくカットも出色。ともすればバカバカしくなりそうな絵面を、きちんと作中世界における現実の危機と示すだけの圧迫感をもって作画していた*1
物語も激しいアクションから後日談のキャラクタードラマまで時間いっぱい描かれ、かつ要所のギャグで肩の力を抜く。独立した話として見ても、娯楽として充分に楽しめるような作り。
アクションでは、「調子に乗って」*2作られた「おしりパンチ」シリーズで、最後の最後に「こぶしパンチ」と逆手に取った大ネタで笑わせてもらった。それと同時に、その最強最大の姿ではなたれた最後の技が、思いを乗せて柔らかく叩くだけというところ、「女の子だって暴れたい」という企画書から始まったプリキュアシリーズの一つの到達点であったとも思う。
キャラクタードラマにおいても、いったんデューンを倒したと思わせたところでCMをはさみ、一気に時間を進めて後日談を描き、回想しながら何があったのかを主人公の視点で語っていくという、短い放映時間で後日談と戦いの終結を同時進行で描く技法が決まっていた。
地球を救う戦いという壮大な過去にとらわれることの危険性を、笑いを通していましめつつ、しかし一年間を通した経験は重要なものだったという結論も誠実だ。プリキュアが特別すぎる存在でないからこそ、結末で描かれた次世代への継承にも説得力が出る。花咲つぼみの夢が宇宙へ出て植物を育てるという意外さも、宇宙コロニーで植物を育てるという発想が心に刻まれている世代の科学少年として、個人的に好印象だった。
ただ、後日談のドラマがプリキュア内部で完結してしまい、敵キャラクターと次世代キャラクター以外は出番が全くといっていいほどなかったことは残念だった。このことは後述する。


最終回なので、全体の感想も書いておく。
一年間という長期を通して物語も映像も高い完成度を維持し続け、今年度で最も印象深い作品の一つとなった。
特に良かったのが、各話ゲストキャラクターが内面を語ること、その心情を利用する敵に対して主人公が正面から批判すること、その内面が花言葉として表現されること、そうした流れが初期から完成されていたところ。短い放映時間で素早く重い問題へ接近しながら、プリキュアの爽快なアクションで画面へ興味を引き続け、描かれた内面は人間同士のドラマで解決に導いていく。そうして難しい社会問題に向き合いながら、時代錯誤な主張がほとんど見当たらず、多様性を尊重して人間の弱さに向き合う誠実さも好印象だった。
メインスタッフに外部とのコネクションが多いこともあって、多くの著名なアニメーターが集まり、作画が充実。それに良い意味で引きずられるように、普段は絵柄の癖が不評な河野宏之作画監督も基礎力の高さを見せた。
同時期に東映アニメーションが新作をほとんど手がけていなかったこともあり、力ある演出家も多数参加。アクション演出が古かったベテランもアニメーターに助けられたこともあって楽しませてくれたし、若手演出家の冒険や実直さも楽しめた。特にシリーズ前作で初演出をつとめた黒田成美は、長峯修正があるにしても、今作によって才能が開花したと感じた*3


プリキュア』シリーズとして見ても、現時点の最高到達点だと思う。
そもそも格闘戦する少女達というモチーフは、あまり作画に力を入れない東映アニメーション制作では荷が重そうに感じてきた。特にシリーズが始まった『ふたりはプリキュア』『ふたりはプリキュア Max Heart』はスケジュールの破綻が目に明らかで、キャラクターデザインの稲上晃は本編の作画監督を行うこともなく、アクションで一部のアニメーターによる活躍が目を引く程度だった。西尾大介シリーズディレクターの演出も、中盤か終盤にわずかあるだけ。物語も意味不明だったり投げっぱなした描写が多くて、全体を通した展開のうねりがなかった。企画コンセプトとキャラクターの魅力だけで押し切り人気をえることができた作品だったと思っている。
もちろん過去シリーズが全く無駄であったという話ではない。『ハートキャッチプリキュア!』のメインスタッフは多くが過去シリーズの初期から参加していたし、同じ番組枠の『おジャ魔女どれみ』シリーズでもメインスタッフをつとめていた者ばかり。ローテーションのスタッフも、過去シリーズで育った若手や過去に参加していたベテランが多い。EDの3DCGキャラクターによるダンスすら、前作の『フレッシュプリキュア!』EDで同様の映像を完成度高く作ることができていたからこそ。
「女の子だって暴れたい」という企画コンセプトを明快に見せた*4ふたりはプリキュア』『ふたりはプリキュア Max Heart』の後、シリーズディレクターを交代してスケジュールを立て直し*5敵との和解もふみこんで描いた『ふたりはプリキュア Splash Star』、敵の行動動機を明確化しつつプリキュア同士の交流も重視した『Yes!プリキュア5』『Yes! プリキュア5 Go Go!』、外部からキャラクターデザイナーや声優を呼びながら中盤で力つきた*6フレッシュプリキュア!』……そうした試行錯誤をへたからこそ、『ハートキャッチプリキュア!』の完成度がある。


ただし、全く不満がないわけではない。各話の敵がよく物語に組み込めていたことと反比例するように、全体を通した敵とは粗雑な対立関係が目立った。日常的な社会の悩みが素晴らしく描けたかわりに、古典的な絶対悪が描けていない。
特に終盤は話数からして不充分だったのだろうか、プリキュアと敵幹部の因縁が薄かったので最終決戦の言葉に説得力が低かったこと*7、敵幹部の退場が時期を逸していたこと、サバーク博士やダークプリキュアのフォローが最終回になされなかったこと、デューンの由来や動機が明確に描かれなかったこと*8。全体を通した敵との戦いは映像へ力が入っていた分、逆に雰囲気や迫力で話の弱さが補われていると感じやすかった。公式で予告されて待ちくたびれたころに新プリキュアが登場するタイミングも、過去シリーズの悪癖を受けついでいる。
各話と全体の物語をそれぞれ完成度高くすることが、シリーズ今後の課題だろう。次回作にも今から期待しておきたい。

*1:レイアウトはもちろん、近景をセル画で処理していたことが地味に効果的だったと記憶しているが、よりによって録画が失敗したので断言できない。終盤の映像は何度も見返したくなる力を持っていたので、いずれにせよ映像ソフトは購入するつもりだが。

*2:http://togetter.com/li/87722

*3:特に学園祭ライブ回が印象的。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20101017/1287433325

*4:惑星スケールの巨大な敵を、巨大な女王が肉体言語で迎えうつというプリキュアのコンセプトを強烈な絵として見せる描写も、すでにこの作品の最終回で描かれている。

*5:連名も多かったものの、稲上晃作画監督回が複数あった。

*6:シリーズディレクターに途中で若手の座古明史がくわわっている。

*7:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20110109/1294592059最終回を見た後では、やはりクモジャキーの相手はキュアサンシャインがふさわしかったと思うし、ファッション部の部長をしているキュアマリンコブラージャが戦うべきだったと思う。むしろ中盤でコブラージャがキュアサンシャインへの執着を持ったことが悪かったのか。

*8:そのため終盤のドラマではキュアブロッサムよりキュアムーンライトの印象が残った。デューンとの最終決戦を「ちょっくら」と表現したキュアマリンの台詞もあり、アクションは激しくてもドラマが弱いことは制作側も自覚していると感じたので、最終回を見終わった今は悪くないと思うが。