法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『HUGっと!プリキュア』第42話 エールの交換!これが私の応援だ!!

スケーターとして限界をむかえつつある若宮アンリ。それでも挑戦をつづけようとした時、決定的な出来事がふりかかる。そんな若宮にクライアス社が囁いて……


4話連続となる坪田文シリーズ構成の脚本回。第8話*1で登場して以来、さまざまなプリキュアの対として位置づけられてきた少年が*2、不安の果ての挫折と飛躍にいたる。
今回にいたるまで作品の内側と外側でていねいな助走がつづけられており、予告映像でほぼ明らかにしていたこともあって、予想をくつがえす驚きの展開というわけではない。
どちらかといえば、過去回だけでなく過去作からつづけられた試みが、ここまでの達成にいたったという充足感があった。
『HUGっと!プリキュア』第19話 ワクワク!憧れのランウェイデビュー!? - 法華狼の日記

ジェンダー越境の肯定は、シリーズ旧作でも何度かあった。普段が男装なキュアサンシャインもいれば、普段も変身後もユニセックスなキュアショコラもいた。

今回は、女児向け先行作品『しゅごキャラ!』や『プリパラ!』がジェンダー越境を力強さで支えていたことに対して、弱くても主人公でなくても枠組みを越えられるという固有のメッセージが感じられた。

若宮アンリは美青年だが、性自認ははっきり男性であるし、声変わりもしている。固定観念の打破と考えると『プリパラ』でいえば少女と見まごうデザインのレオナ・ウェストより、巨体の鍋島ちゃん子の試みが近いだろうか。
そこで今回は、コンテに菱田正和が8話以来の登板をしている。男児向けアニメで活躍した後、女児向けアニメ『プリティーリズム』シリーズ……うち1作品は坪田文がシリーズ構成……を連続して監督し、後番組の『プリパラ』にも参加した演出家だ。
スタッフ構成から見ても、けして今回は誰かひとりの思いつきの展開ではあるまい。さまざまな場所でさまざまな作家が試みていたひとつが、全国区の人気シリーズで花開いたのだ。


超然とした若宮アンリを、他者への否定から入る性格と指摘したのも、初登場時の周囲との衝突をちゃんと物語に組みこんでいて感心した。そのことで他者を応援しようとする主人公の対になり、ちゃんとサブタイトルにある野乃はなのドラマにもなっている。最終的には若宮もまたショーマンとして周囲を応援する立場へ自身を位置づけていく。
異世界転生しそうな挫折は使い古された手法で好きではないが*3プリキュアやクライアス社がいる世界観のリアリティには合っているし、その運命を予期したように敵が動いているので、物語としては許せる。
すでにアニメ雑誌などでスタッフが語っていた「キュアエール」に隠された名前のしかけもいい。周囲と比べて持たざる者である主人公が、ちゃんとプリキュアの一員なのだと実感される。


実のところ、もっとスペシャルな印象のエピソードになるかと思いきや、意外と通常のエピソードと変わらない印象だった。
挫折した若宮を重苦しく描くならば山内重保の演出で見たかったし、若宮アンリの飛躍を華麗に描くなら第8話と同じ松浦仁美の作監で見たかった。
しかしその気取らなさが、これがいずれ当然になってしかるべきという物語のメッセージと合致している……そんな印象もあるのだった。

*1:『HUGっと!プリキュア』第8話 ほまれ脱退!?スケート王子が急接近! - 法華狼の日記

*2:今回に直接つながる要素が多いのは第33話か。『HUGっと!プリキュア』第33話 要注意!クライアス社の採用活動!? - 法華狼の日記

*3:もともと足の事故をかかえていたなら、その延長で起こりうる出来事で挫折させてほしかった。良くも悪くも『プリティーリズム』が大映ドラマ的と評されていたことを思い出す。