法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『異世界召喚は二度目です』が意外と(作画以外は)悪くない

 原作の内容などはまったく知らないまま、2023年4月から放映されたTVアニメだけ視聴した。

 予告を見た印象としては、集団で異世界召喚されるジャンルで、主人公だけは二度目の召還なので異世界の知見や能力で優越する。そういうパターンの物語だろうと思っていた。
 同年に同じANiMAZiNG!!!枠で前後に放映された『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』も『ポーション頼みで生き延びます!』も感心しない内容だったし、どの作品の映像も予算不足を感じていた。
とにかく異世界へ日本が安易に優越するだけのTVアニメ『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』が見ていてつらかった…… - 法華狼の日記
『ポーション頼みで生き延びます!』で主人公が戦争に子供を参加させてしまう描写がつらい…… - 法華狼の日記


 ちょっと違うぞと思ったのは第5話で、主人公と同時に異世界にやってきた少女の視点でアバンタイトルから最後までを描き切った。主人公の描写は地球での性格を見せるための過去を描いたアバンタイトルや、異世界住人の仲間としての証言だけ。
 他の異世界召還アニメは敵を倒すことで主張をとおしがち。そのなかで、この作品は当初から二度目の召喚でチートを超えるチートを主人公にもたせたかに思わせて、達成した平和が崩れることを防ぐため奔走する、後始末のようなドラマを展開していく。そして同時に召喚されたクラスメートのなかでも比較的に強いが、敵を殺すことには拒否感をもつ少女が覚悟を問われて、殺さないという覚悟をつらぬく。異世界人も主人公の仲間ひとりは敵を倒すことを、身近な者のかわりに傷つけることだと自覚して語る。
 残念ながらアニメとしては安普請だし、つまらないギャグも多いが、良い意味で現代日本の倫理観や死生観を異世界にもちこもうと努力している。もちろん異世界にもそれぞれの勢力にそれぞれの思惑があり、戦いがつづいて相互の不信感を育てながら平和をもとめる感情を描いている。


 さらに第6話もドラゴンがくりかえし襲ってきては村人が消えた謎を、本格ミステリのような構図の逆転と意外な犯人で楽しませてくれた。途中で回想が入るとはいえ、主人公まわりで『駅馬車』的なシチュエーションをやりきったコンセプトも楽しいし、その移動に手間ひまがかかる世界と示すシチュエーション自体が謎解きの基盤にもなっている。
 さすがに推理は厳密ではないし、ミステリ仕立てと気づけば逆に犯人の見当はつけやすいが、この種類の異世界ファンタジーとして悪人であってほしくない位置づけのキャラクターなので、真相に気づいてもドラマとして成立する。魔法がある世界ならではのハウダニットの手がかりを主人公たちが事件の存在を知る前の日常会話に自然におりまぜていることに感心する。さらに主題歌を流して特殊EDで感動的に終わらせたかに見せて、後味悪く終えたところもサスペンスのようで楽しめた。


 第9話もラスボス的な立場のキャラクターと主人公の過去を描いて、物語の全体像に待たされただけの面白味がある内容だった。
 ラスボスもまた操られているような描写までは平凡すぎたが、そこで増幅されたラスボスの心情が異世界から故郷にもどりたいという、なろう系で軽視されがちな動機を起点にしていることが面白かった。その動機は異世界の人々を軽視することだと読みかえて主人公の動機を強化したところも納得感があったし、異世界召喚ジャンル全体への見方も変わってくる。それでいてラスボスの心情を全否定しなかったところも好感をもてる。


 これらが原作の良さなのか、メディアミックスで追加された良さなのかは確認できていないが、どれも主人公が二度目の召還者という起点から必然的に描かれたドラマになっていることは間違いない。