法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『きさらぎ駅』

 ひとりの女子大生が卒業論文のため、十数年前に怪現象から生きのこった女性に話を聞く。それはインターネットで流れる有名な無人駅の怪談だった。女性の証言を聞きとった女子大生は、その怪現象の法則を推測して実地にむかう……


 2ちゃんねるに投稿された実況形式の怪談をベースにした、2022年の日本映画。イオンエンターテイメント配給の1時間半に満たない低予算ホラーだが、構成に工夫がある。

 アイデアの内容はまったく異なるが、味わいは『カメラを止めるな!*1に近い。前半を利用した後半のアイデアは上映時にホラー愛好コミュニティで見かけていたので、驚くことができなかったことは残念だったが、それでもホラー映画には珍しい停滞しない展開のおかげでストレスがほとんどたまらない。
 くわえて『カメラを止めるな!』が不評な前半もかなり努力していたのと同じように、この映画の前半もけして悪くはない。VFXこそデジタルで安っぽいが、普通の田舎町を異界として表現するため人の気配を消し去って、さらに生存者の証言を表現するにあたって一人称視点を徹底的に採用。全体を俯瞰できないがゆえ視界のはしからいきなりあらわれる怪異にはわかっていても驚かされる。全編一人称のアクション映画『ハードコア』*2VFXでは劣るが、アクションが少ないので画面酔いしない。
 そうして前半に実話怪談パートをつめこんでテンポ良く消化し、後半で主人公は新たな恐怖に直面する。ここからホラーではなくカタルシスに満ちたブラックコメディとなる楽しさ。しかも前半を主観視点のように描写したことが後半に明かされる設定の驚きを増す。予想できなくはないが、これは主観映像ならではの印象をつかったトリックだし、それでいて主人公が証言を主観視点で回想する後半の描写から考えるとフェアだ。