廃墟でおこなわれているゾンビ映画の撮影風景。それを映しつづけるカメラに少しずつ異変が入りこむ。そしてついに本物のゾンビが現れたかと思いきや……
金曜ロードSHOW!で3月8日に完全ノーカットで放送された作品を録画で視聴。ワンカット撮影をCMで寸断しなかった判断が素晴らしかった。
超話題作「カメラを止めるな!」放送日決定!3月8日(金)テレビ初放送!完全ノーカット!|金曜ロードシネマクラブ|日本テレビ
製作費300万円と超低予算のインディーズ映画として、都内のミニシアター2館で上映がスタート。そこからSNSなどで瞬く間に口コミが拡がり、さらに芸能人や著名人からも大絶賛の嵐を受け、興行収入は30億円を突破、累計350館以上で上映されるなど社会現象を巻き起こし、異例の大ヒットを記録しました。
番組冒頭に監督や出演者が登場。序盤のワンカット長回し撮影をアピールしつつ、その後に新展開があることが予告される。そうでなくても、大ヒットした話題作であるため、ほぼ作品コンセプトに見当がついた状態で視聴した。
しかし作品コンセプトに見当をつけた上でなお、ちゃんと映画として楽しめる作品だった。番組冒頭で出演者が前半ワンカットを我慢して見てほしいと視聴者へたのんでいて、ところどころ実際につたなさを感じたりはしたが、劇中劇のホラー映画としての完成度からして悪くない。
ゾンビ映画というジャンルそのものを作りあげた巨匠によるフェイクドキュメンタリー*1をはじめ、これまでいろいろなPOVホラーを見てきたが、劇中劇『ONE CUT OF THE DEAD』の完成度は上位に入る。
劇中台詞のとおり舞台となる廃墟には雰囲気があるし、廃墟から森へ逃げたり小屋に隠れたりと、ワンシーンなりに情景が変化に富んでいる。人体切断などの特殊メイクも、きちんと実物大のそれを複数用意して、低予算とは感じさせない。ワンカット撮影そのものも、カメラが階段を昇り降りしたりして単調な構図になることをさけている。
尺が短いおかげでゾンビの襲撃が多くてダレないし、劇中劇中劇の男女のやりとりが劇中劇の男女のやりとりで反復されるという構成も美しい。
そして、それなりに劇中劇がよくできているからこそ、つたない部分が印象的に浮かびあがり、その種明かしを再現していく後半に納得感があった。
特にワンカット長回し撮影で問題になりがちな、カメラが誰の視点かという謎解きが良かった。
主観視点であれば、先述のフェイクドキュメンタリーのように撮影者を特異な性格にしなければ、異変に際して撮影を続ける動機が説明できない。客観視点であれば、カメラワークの制限によって撮影者の存在が浮かびあがり、作り物であることを感じやすくなってしまう。
そんな原理的な矛盾に加えて、この映画では劇中人物がカメラを意識している描写があるのに、カメラが存在しないかのようにゾンビがふるまう。
そんな矛盾を、バカバカしい舞台裏で説明していく。しかも主人公たる映画監督の作家としての信念に重なることで、感動的なドラマにも結びつく。
その謎解きの全てが、タイトルにもなった「カメラを止めるな!」という劇中台詞に集約される構造も美しい。
*1:ゾンビ映画の撮影から実際のゾンビ襲撃が始まる導入は似ているが、展開や趣向はまったくの別物。『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』 - 法華狼の日記