米国で南軍を支持する地域において、黒人たちが奴隷としてしいたげられ、女性たちが凌辱されていた。一方、それとは異なる時期の米国で、社会学者として活躍する黒人女性の周囲に不可思議な出来事が起きはじめる……
『ゲット・アウト』と同じプロデューサーによる、2020年の米国映画。監督は、これが初長編作となるジェラルド・ブッシュとクリストファー・レンツのコンビ。
米国南部の黒人奴隷を描いた歴史映画パートが冒頭から予想外につづく。
特に最初の長回しがすさまじく長く、画面を通りすぎる人々の多さを印象づける。この歴史映画パートを延長するだけでも見ごたえある作品になりえただろう。
事実、この設定ならば最初から全体像を明かしてもホラーとして成立する。意外なことに『ゲット・アウト』よりも現実と地続きな世界観で、それゆえの恐怖が視聴後まで残った。
しかし物語はホラーとしてもミステリとしてもネタバレ厳禁な展開を見せていく……
もちろん物語のパターンが出つくした現代において、この映画の設定も構造も見おぼえがあるし、シンプルに説明することは可能だ。
むしろこの設定と構造なら、もっと謎めいた展開をつづけることも可能だったろう。タイムスリップなどと誤認させつづけることは難しくないはずだし、何が夢かわからない虚実の混沌とした不条理劇と思わせることもできたはず。たとえば黒人女性が知的活動で社会から絶賛される現代パートを、過去パートの虐げられた黒人女性が幻視した未来図として位置づけ、救済されないまま終わるホラーのように見せる展開などが考えられる。
しかし尺で見ると後半のなかばとはいえ、意外と早く全体の構図を明かす描写が入る。たしかにこの設定だと主人公視点では真相がほぼ明らかなため、主人公への共感を優先するなら真相全体を明かすタイミングは他にない*1。実際、主人公の視点に同調することで黒人が抑圧された苦しみと解放の歓びを観客として追体験することができた。
ともかくホラー映画のいくつかのパターンを組みあわせたジャンル作品として楽しかった*2。ヨガで体づくりできるくらい富裕層であることが助かった要因だったり、主人公の親友の描きかたに危なっかしさを感じたりもしたが、それもふくめて全体的に娯楽作品におさめていて見やすい。
充分に楽しめたのは、『ゲット・アウト』の感想エントリ*3で注記したように予告は見ていたが、致命的な情報は知らないまま視聴できたおかげもある。ちなみに鑑賞後に予告映像を見返すと、ほとんど真相そのままの内容なことに驚かされた。もっとも、いくつか本編とは違う演出がつけくわえられており、それゆえ予想をはずされたのかもしれない。