法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

ツイッター本社は知らないが、買収前のツイッター日本法人が左派だったというのは偽史では?

「鉄のカニ🌈@crab_of_steel」氏による下記ツイートが賛否両論をあつめ、評価だけでなく事実認識でも議論になっている。


オタクくんたちサヨクへの当て擦りの為に俺たちのイーロンやってたけど、元々Twitter日本法人ってイーロン以前からネトウヨのスクツでTwitter本社なんとかしろって散々言われてたのに全くなんの処分もされてなかったから、Twitterが左翼偏向のキラキラ社員に牛耳られてたって話ほぼ全部が妄想よね。
政治ツイートが左翼ぽくなるのは強く反対する人間は声を上げるからで、そういう人の割合が多いからでしかない、反対しない人はいちいち声に出さないでしょう。やることといえば馬鹿の一つ覚えの反対の反対だけだし。


 まず、買収時に「俺たちのイーロン」あつかいの一因となった比較写真は、日本法人のものではなかった。結城洋志氏が指摘するように適切な比較だったかも疑問がある。


「今」の画像の出所は https://twitter.com/elonmusk/status/1593899029531803649 で開発関係のチーム、「前」の画像の出所は https://twitter.com/juliezsteele/status/1588419360388833280 で社内コミュニケーションのチーム(今回の買収で解散した)とのこと。
職務内容が違うものを印象だけでごっちゃにして語るのは、あまり妥当でないような気がしている。


 現実に日本法人の思想傾向をうかがわせる動きとしては、日本青年会議所と2020年にパートナーシップ協定をむすんだことがある。
「全体主義的な危うさ」Twitterと青年会議所に批判殺到、専門家は「メディアリテラシー」をどう見る?

Twitter Japanが2月10日、情報・メディアリテラシーについて、若手経営者らでつくる組織「日本青年会議所(JC)」とパートナーシップ協定を結んだと発表したことが、波紋を呼んでいる。

 その日本会議所によるメディアリテラシー確立のためのアカウントは、津田大介氏を「発狂」と評したり、高須克弥氏を肯定的にリツイートしていた。
 あくまで一個人とはいえ、よりによって法務担当者がきわめて保守的な思想の人物だったことも話題になっていた。
[B!] https://twitter.com/arshad_esq/
 2018年に日本法人の代表取締役がバイラルサイトのnetgeek*1を愛好していたらしいことも指摘されている。右派の証拠ではなくても、左派ではない傍証になるだろう。


TwitterJapan社CEOの笹本裕さん
政治ネタではないとはいえnetgeek関連垢の記事をたびたびリツイートしている所を見るとあのサイトの愛読者なんでしょうかね。
あのネットギークの。


 また、右派が嫌悪するハッシュタグ運動についても、冒頭で引用した「鉄のカニ🌈@crab_of_steel」氏が指摘するように、わざわざ現状に異を唱える行動が左派に偏るのは原理的に自然だ。
 その運動は世界的にさまざまなSNSでおこなわれており、ツイッター日本法人が特別に関与していたとは考えづらい。トレンドを必ず表示する機能があるかぎり、メッセージを広げるために利用されることは当然だ。

 右派も現状へ異議をとなえる時はハッシュタグ運動をおこなっていた。たとえば「拉致被害者全員奪還」*2はイーロン買収以前からくりかえされ、もちろんトレンドにのるよう工夫されていた。


今年最後の「らち被害者だっかんツイデモ」です!

どなたでも参加できます!
参加の仕方は↓のPOPの通り。

タグだけの引用RTはスパムになっちゃったり、カウントされないから一言そえてね!

今日もたくさんの人の参加をお待ちしてまーす!

#拉致被害者全員奪還
#特定失踪者全員奪還

 またハッシュタグ運動に陰謀を見いだす意見をリツイートした人物が、立憲民主党を批判するハッシュタグ運動をはじめたこともあった。
かつて「Fact Check 福島」をたちあげた林智裕氏の、政治への抗議をめぐるtwitterにおける恣意性 - 法華狼の日記

ハッシュタグをつかって政治へ抗議する流れを受けて、国会論戦における立憲民主党福山哲郎氏へ抗議する動きもあった。

 もちろん、さまざまな広告表現が批判されることと同じくらいには、自分が好まない言葉が表示されることを批判することも自由だろう*3。その表示が強制的であるべきかも議論の余地があるだろう。
 しかし好みではない言葉を他人が多用することに対して、他人が言葉を多用すること自体を強制的に止めることは難しい。表現の自由を重視するならば、トレンドに好まない言葉が表示されることくらいは甘受せざるをえまい。
 好まない思想というだけで社員が解雇されることを歓迎して本当に良かったのだろうか。たとえばツイッター女性差別をくりかえしていた人物が雇用をとりけされたことを問題視*4していた人々はどこにいったのだろうか。


 そもそも過去に抗議をおこなった複数の人物の証言から、ツイッターの日本法人に権限などはほとんどなかったとも考えられていた。なぜ対象を日本法人に限定する批判が少なくないのだろうか。


TwitterJapanなどと名乗っておりますが、曰くTwitterのアカウント凍結、規制、及びそれらの解除をはじめ一切の管理運営に関与しておらず権限も有していない、日本語翻訳さえ米国本社で行っているそうで、正直何のために一等地のハイグレードなビルにオフィスを構えているのかよくわからない事務所です

 イーロン・マスクが自身の解雇を喧伝したのも日本法人ではなく、本社の広報スタッフだった。そして広報スタッフが部署ごと消えた結果として、メディアが問いあわせても一律で「💩」の絵文字を返すようになったのではなかったか。
 ツイートやアカウントにまつわる判断が本当に偏向していたとして、そのようなスタッフを解雇するまではいいとしても、判断するためのスタッフや苦情をうけつけるスタッフは新たに補充しなければなるまい。匿名掲示板ですらスパム投稿をふせぐためにリソースがさかれている。
 過去のツイッターが偏向していたという主張は左右どちらからも聞くが、それ以外のスパムなどのアカウント凍結の判断は充分だったという主張は聞かない。もし一部のスタッフの偏向を止めることが目的なら、本当に必要だったのはスタッフの増員だったのではないか。

*1:何度かエントリで批判したが、明らかに右派的な傾向がある。 hokke-ookami.hatenablog.com

*2:しかしこの運動が拉致した体制や、それを変えうる現地の市民に注目され、その考えを変えさせるには障壁が多すぎる。「アラブの春」が代表するように、ハッシュタグ運動などのSNS運動は、その言語をもちいる集団内部にしかとどかせづらい。

*3:トレンドという機能の原理上、批判的であっても言及が増えればトレンドの上位になりかねない問題もあり、解消は複雑になるが。

*4:過去に言及するエントリで言明したように、懲戒や解雇の妥当性をあらそうことは労働者の当然の権利とは考えている。それぞれの情報が明らかにされて印象は変わったが、原理的な考えは変えていない。hokke-ookami.hatenablog.com