法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

呉座勇一氏を支援している労働組合委員長のブログエントリを読むと、女性差別の認識は危ういものを感じる

呉座氏を団体交渉で支援している新世紀ユニオンの、3月31日の下記エントリがはてなブックマークを集めていた。
脅迫・圧力に屈し違法解雇を行った人間文化研究機構・日文研! - 委員長の日記

違法解雇の発端は歴史学者のG先生のカギ付きアカウントの(ツイッターでの)「つぶやき」で、相手の名前を出さずに皮肉っていたことでした。これを実名で公表したのは「被害者」側でした。自分で差別発言だと実名を出し、社会化した場合、普通慰謝料は請求できません。

まず、この書き出しでいきなり首をかしげた。記憶では被害者は慰謝料を請求していなかったはずだが、いったい何を主張したいのだろうか。
また、少なくとも呉座氏は被害者のハンドルネームを表記して誹謗中傷をくりかえしていた。それを「相手の名前を出さず」といえるだろうか。


とはいえ、懲戒や内定取消の違法性を争うことは当然の権利であるし*1、そこで労働組合にたよることも悪いはずがない。
しかし、おそらく「女性差別的な文化を脱するために」*2というオープンレター*3の関係者を批判するくだりで、また首をかしげるしかなかった*4

また2月19日のブログ記事「解雇は差別発言を口実にしたパワハラではないか?」でパワハラの被害者がG先生の方であり、オープンレターの人たちの運動の間違いを指摘しました。2月5日のブログ記事「男女差別の運動について」もオープンレターの人たちに誤った運動を止めてもらいたいために書いたものでした。


そこで2月5日のエントリを読んで、社会一般の女性差別の原因を妊娠しか考えない主張に首をかしげたし、あまりにも労働以外の女性差別を軽視しすぎていると思わざるをえなかった。
男女差別の運動について - 委員長の日記

資本主義の経営者が育児休暇で休む社員のために、社会保険料を負担するのは嫌だ、と妊娠と同時に退職を迫ることになります。こうした社会では当然少子化が社会問題となります。
 だから真に男女平等の運動を闘うには、社会主義社会を作るために闘うべきであり、社会主義社会にして、家事・育児・介護などを社会化するほか男女平等にする方法がありません。ところが世間にはSNS上でのつぶやきに「男女差別の思想がある」というだけで、(それは男社会の反映に過ぎないのに)差別発言だと攻撃し、いかさま同様の署名運動をおこない、それが正義の運動であるかのように、かん違いしている人たちがいます。しかもその運動が「解雇しないと殺す」という違法な強要と重なれば、これは愚劣極まる運動というほかありません。(「重なれば」という言葉は、署名運動を行った人たちが脅迫したと断定してはいません。=念のため)

差別を「というだけ」「反映に過ぎない」と矮小化したり、そこで誹謗中傷した呉座氏を批判することを「攻撃」と表現することは妥当だろうか。誹謗中傷を認めた呉座氏の謝罪を無にする文章ではないだろうか。
新世紀ユニオンは、社会の反映であれば差別を批判してはならないと主張したいのだろうか。だとしても、それはオープンレターを「誤った運動」として止める根拠になるとは思えない。「女性差別的な文化を脱するために」を読めば、まさに批判の対象は呉座氏個人ではなく、その差別を育てた文化であることが下記のように宣言されている。

 私たちは、呉座氏のおこなってきた数々の中傷と差別的発言について当然ながら大変悪質なものであると考えますが、同時に、この問題の原因は呉座氏個人の資質に帰せられるべきものではないとも考えています。

ちなみに呉座氏の被害者は現在もさまざまな人々から誹謗中傷を受けつづけている。新世紀ユニオンの主張にしたがえば、それに重なる団体交渉は愚劣きわまることになりかねない。
なお、男女平等のため家事や育児や介護を社会化するべき、という理屈は理解できなくもない。しかし資本主義社会でも違法に退職をせまる会社と争うことはできるはずだし、新世紀ユニオンもそれを支援しているはずだ。


次に2月19日のエントリも読み、やはり事態の矮小化をはかっているのではないか、という印象をもたざるをえなかった。
解雇は差別発言を口実にしたパワハラではないか? - 委員長の日記

団体交渉で、機構側から渡された女性に対する差別発言の資料を読むと1番に挙げられた発言「この前、ベトナム国家大学ハノイ人文社会科学大学に行ってきたんですが、学生は9割女性でした。両家の子女の花嫁修業って感じなんですかね。」

このネット上のつぶやきが、1か月の停職処分や期限の定めのない雇用の解雇(あるいは「本採用拒否」)にあたるのか私には理解できない。(すでに民事上の和解が成立している問題には触れない)

これらの発言には思想的に女性へのべっ視があるかもしれない、という程度の発言で、なぜ多くの大学の先生たちが大騒ぎし、解雇を雇い主に求める圧力の電話をかけたのか?不可解だ。

団体交渉で根拠として示されたのは不特定の女性差別だけだとすると、謝罪して和解した被害者以外への誹謗中傷が新たな処分の理由になったという一部の憶測は外れていたのだろうか。
しかし実際には根拠が複数あったことは「これらの発言」という記述からうかがえる。また、研究者として雇用するなら他人の研究動機を差別的に憶測した公言は、それなりに重い問題だろう。
「すでに民事上の和解が成立している問題には触れない」というが、そもそも「大騒ぎ」になったのはその和解にいたった問題が注目されたからだ。首をかしげながらつづきを読むと、やはり謝罪を無にするような記述があった。

脅迫メールまで何回も送り付けている。この殺すぞとの脅迫で謝罪文を強要され、遺憾なことに、この謝罪文が解雇などの処分の理由とされた。(謝罪と解決金を含む和解でなぜ済ませられなかったのか?不可解である。)

謝罪文は強要されたというが、直後に謝罪と解決金ですむ問題だったような認識を示している。ここでは解決金で和解することを示唆しているが、3月31日には慰謝料は請求できないと主張する。
いったい呉座氏はどうすれば良かったのか。新世紀ユニオンの助言にしたがおうにも、一貫性が感じられない。


委員長のブログから、参考になりそうな見解がないかといくつか読んでいったところ、3月7日のエントリにつきあたった。
男性と女性は思考方法が違うことについて - 委員長の日記
社会ダーウィニズムを思わせる男女論を長々と語ってから、差別発言で批判された政治家の内心を憶測する。

以前「女性を入れると話が長くなる」と言って世間の批判を浴びた政治家がいたが、この政治家はその発言が女性差別だとは少しも考えてもいないのである。おそらく自分の経験から事実を述べただけなのだ。女性の思考が現象を大事にするので話が長くなる。これは育児の過程で形成された思考方法ではないかと私は感じている。

もし五輪にまつわる森喜朗氏の失言のひとつだとすると、そもそも事実誤認している。森氏は女性がひとりひとり発言しようとするから会議が長くなる、それは競争意識によるものだと主張していた*5
つづけるように、おそらく呉座氏による誹謗中傷と、それへの批判についても、男女の思考方法の違いとして説明しようとしていた。

ある男性の先生の差別的ともとれる「つぶやき」を、多くの女性の先生たちが、オープンレターを発表して、排斥運動を行い、これを受けた雇い主が懲戒解雇処分を行った事案は、私はこの男性と女性の思考方法の違いが表面化したものではないかと考えている。

男性から見るとこの先生の「つぶやき」は差別発言は何もなく、男社会の反映でしかないと思うのだが、日ごろから男社会で差別され続けてきた女性には、この「つぶやき」が女性蔑視に基づく女性への攻撃と受け取るのである。

とうとう「差別発言は何もなく」という委員長の認識が明らかにされた*6。ついでに津田大介氏が女性になってしまった*7

*1:どちらがどのくらい妥当性があるかは、雇用側と呉座氏の双方がつまびらかに情報を出しているわけもなく、とても素人には判断などできないが。

*2:女性差別的な文化を脱するために

*3:「オープンレターと称する実名を出した個人攻撃の署名運動」というエントリの記述から、そもそも「オープンレター」が署名の形式ということすら理解されていない気がする。その形式であれば、署名活動の正当性には関係なく「オープンレター」になる。

*4:引用時、リンクを排した。新世紀ユニオンのエントリは、URLの記載と文章のリンクが混在している上、無関係な文章にまでリンクされている部分があり、主張をたどりづらい。2月19日のエントリにはリンクもなければURLの記載もない。

*5:新型コロナ禍で大変な今、ぐだぐだ会食をやめられない政治家って男ばかりでは? - 法華狼の日記

*6:筆致からしても新世紀ユニオン委員長の角野守氏は男性を自認して発言しているだろう。

*7:発起人にいる男性でおそらく最も知られていることから名前をあげさせてもらった。他意はない。