学校で乙骨憂太をいじめていた少年たちが無残な姿で発見される。幼少期に乙骨と結婚の約束をしながら交通事故死した祈本里香が怨霊となり、過剰な反撃をしたらしい。
特級とされる過剰な呪力を制御するため、乙骨は呪術高専に転入することに。そこで乙骨は3人の学友と競い、怨霊との戦いの経験をかさねていくが……
人気漫画の前日譚パートを独立してアニメ映画化。公開は劇中の東京と京都で大事件が起こされる2021年12月24日。監督はTVアニメ1期を担当した朴性厚が続投し、共同で絵コンテや原画にも入った。
アスペクト比は最近はアニメ映画でもよく見かけるようになったシネマスコープサイズ。どっしりFIXで止めたカメラワークで、精緻な背景美術に孤立する子供たちをとらえていく。
最近のアニメ映画としては絵柄の違いが許容され、撮影効果も手描きの味わいを消さず、作画アニメとして楽しい。メタモルフォーゼする怨霊はアニメーションとして魅力的で、飛び道具より格闘戦を重視する戦いで映像が単調にならない。最近は珍しくなった手描き背景動画もあるし、残像を手描きした表現もある。3DCGも動く背景の一部やレイアウトにつかっているくらいで、映像の生々しさを阻害しない。
乙骨を演じるのが緒方恵美という先入観を超えて『新世紀エヴァンゲリオン』っぽさを感じたことも楽しかった。怨霊化した祈本は巨大で目がなく、むきだしの歯がならんでいて、乙骨を保護するように暴走するように戦う……これは偶然の箇条書きマジックだとは思うが、どうしてもエヴァンゲリオンの設定とかさねあわせてしまう。
ただ、前日譚らしく独立して完結する物語を期待していたのに、意外とダイジェスト感が強かったことが残念だった。場面転換が早いのでTVアニメでは感じられたホラー感が少ない。
作品について何も知らない観客を想定してか設定の説明台詞が多いし、登場人物のモノローグも多い。教師の五条悟と敵の夏油傑の対立理由など、主人公と独立したドラマも呪術師の位置づけから乙骨の存在理由を展開するにあたって必要だが、だからこそもっと断片的な描写にとどめてほしい。その意味では、意味のある言葉を発さない狗巻棘とのドラマはきちんと映像の流れで心情を説明しつつ、気のきいた作戦もわかりやすく映像だけで見せられていて良かったのだが。
虎杖たち本編の主人公トリオをいっさい見せない判断はできているのに、教師陣は台詞や描写も多いし、クライマックスの「百鬼夜行」では他校生にもファンサービス的な出番があり、予想よりもオールスター感が強い。娯楽作品として「百鬼夜行」を見せ場にしたいことは理解するが、独立した物語にするならば派手な前線から遠くはなれた校舎で何もわからず不安にさいなまれている乙骨視点のドラマにするべきところだろう。
TVアニメを見ていても感じられた作品の根幹的な倫理観の高さなども良かったし、期待しすぎなければひとりの少年が居場所をつくるドラマとして完結しているのだが、あくまで映画というよりTVアニメに付随する劇場版と考えるべきだった。