法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世界まる見え!テレビ特捜部』ドキドキもハラハラも止まらない危険な旅SP

最初に紹介されるのは『世界の果ての通学路』のダイジェストで、象をさけながら通学するケニア、兄が車椅子を弟に押してもらうインド、高山を馬で進むアルゼンチンの兄弟たちを見せる。

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残念ながら、ひさびさにこの種のドキュメンタリを見ていて作為が鼻についた。危険な動物から隠れる時、そして物陰から頭を出す子供を正面からとらえる時、カメラマンは何をしているのか。
車椅子の少年が学校にたどりついた時にクラスメイトがいっせいに歓迎しにくる場面も、くりかえされる日常の一コマとしては不自然だ。やらせではないにしても、そこにカメラがあることで派手な行動をさせてしまっていないか。
Amazonレビューを見ても、星3つ以下は演出の多さを具体的に指摘しており、全長版を見ても印象は変わらなさそうだ。


国境警備隊は南米各地から。ボリビアの記憶力のいい男がスタジオで最初に宣伝されたが、パスポートを他人につかわせていた女性に気づいただけ。
他は大金をもちこんだり、巨大な鉄の歯車の内部にコカインが隠されていたり、この種の番組で珍しくない光景がつづく。
ひとつ目を引いたのがチリの国境で、夜間に3人の国境移動者を発見。逮捕した2人を調べると、チリへ出稼ぎへきて帰れなくなった男たちで、強制送還してほしいとうったえる。密入国したため出国もできなくなったという珍しいパターンであり、移民が出稼ぎで苦しむエピソードも珍しい。また、逃げた1人を2時間かけてさがしたが逃がしてしまった一因に、1970年代の軍事独裁時代にうめられた地雷原があるため、というところも固有の歴史性があった。


最後は国連が認めた世界で最も新しい国、南スーダン。2011年に独立したが2018年まで内戦がつづき、さらに洪水がつづいて土地の半分が水没してしまっている。
草がおいしげる湖に、草葺きの屋根だけが水上へ顔を出している。まだ新しい巨大なトラックやトラクターが美しい水面につかっている。モーターをつけた木製の細い船に人々が満載され、水草にからまり渋滞しながら首都を目指す。川の途中で放棄された漁業者休憩用の人工島で停泊する……
まるでディザスター映画のようで、グレタ・トゥーンベリ氏への的外れな批判*1を思い出す光景であり、『天気の子』の結末の能天気さ*2に懸念をもつ感想にも理解できる情景だった。
他は内戦つづきのため未舗装の道路をトラックで苦労しながら荷物を運ぶ光景は他の国のドキュメンタリでもよく見るが、洪水で減った草原をもとめて牛とともに放牧する人々の暮らしは珍しい。
殺菌できると信じて牛の尿で洗髪や洗顔をおこなうし、高熱の子供を3時間かけてつれていった診療所の医師は祈祷師文化がまだ残っていることを懸念する。思えば川を移動する船もコップですくった生水をそのまま飲んでいた。衛生観念はかなりの問題を残していそうだ……