法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『NHKスペシャル』忘れられゆく戦場〜ミャンマー 泥沼の内戦〜

ミャンマーの軍事クーデターから約1年後、4月17日に初回放送された番組を深夜の再放送で視聴した。
www.nhk.jp
私個人の興味関心でいえば、ウクライナ侵攻を想起させると評判の子供向けアニメ映画が、どちらかといえばミャンマークーデターに近いという印象を、より強める内容だった。
hokke-ookami.hatenablog.com


現在のミャンマーは軍部が首都圏を掌握し、市街地には平和な光景がもどり、3月から外国人の渡航も可能となった。しかし弾圧された若者たちの平和的だったデモは、地方の少数民族武装勢力に合流し、武装闘争へ移行している。各地の軍事衝突は3100回を超え、山岳地帯の美しい街は焼きはらわれていった。
戦場が発展途上国だからこそ、ウクライナ侵攻よりも戦争と報道における時代の変化を実感した。日本に30年以上在住するミャンマー人が祖国の若者に支援物資をおくり、SNSを通じて会話をする光景。住民がドローンで空撮した廃墟化した街並みや、ミャンマー軍に抵抗する武装勢力が自ら撮影した映像。NHKも外国の団体と協力して、ミャンマー軍の進攻にあわせて各地が焼かれていった時系列を検証する……
自国民を殺すことに葛藤をおぼえてインドへ亡命した大尉や、デモを取材するなかで自身も抵抗勢力に身を投じた元ジャーナリスト。軍に友人が性的暴行を受けて抵抗勢力に参加する元事務職の女性。20代のころに自身も民主化をもとめて抵抗運動をおこなっていた在日ミャンマー人は、支援をおくりつづけた後に*1、本当は若者たちは学校へ行って国づくりに参加するべきなのだと涙を見せる。固有の顔を持つ人々が軍事独裁に抵抗する姿をとおして、問題の全貌を浮かびあがらせようとする……


ロシアによるウクライナ侵攻によって世界から忘れられつつある戦場を、ミャンマーが新たにつかっている兵器の供給源がロシアと検証して、逆にミャンマーウクライナ侵攻を支持した事実とむすびつけ、密接な問題として把握しようとする構成も良かった。
しかし、ロシアや中国が国連における対ミャンマー非難を棄権したといった外国の問題だけでなく、日本もまた現在のミャンマーとの軍事交流をつづけている事実は指摘するべきではなかったか。日本も一面では加担している事実を報道しないことと、内戦を他人事として忘却していくことは、表裏一体の問題ではないのか。
www.asahi.com
また、軍事政権が武力をもって国内の抵抗を排除していくミャンマーの姿は、ウクライナ侵攻を軍事力の増大に直結させたがる人々が目をそむけたがる現実でもあろう。もともと非武装であったわけでもないウクライナの現状をもって憲法9条の無効性が証明されたという主張は、そもそもミャンマーのような国家の現状を直視すれば印象論としてすら成立すまい。
念のため、一時間枠のドキュメンタリとしては内容が充実していたことは間違いない。個々人の姿をとおして問題の大きさを実感させつつ、公共放送ならではのリソースで収集した映像を俯瞰的に検証した。日本に在住する隣人の姿をとおして、身近に感じさせる工夫もできていた。その上で、けして遠い場所の違う国の問題にとどまらないと注意する部分は欲しかった。

*1:編集により番組の終盤に配置されただけで、実際に葛藤を見せた時系列は不明。今回の番組では言及のなかったアウンサンスーチーが、肖像画として背景に映りこんでいたことが印象的。