法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 Season20』第6話 マイルール

人気ミステリ作家が、好評連載中の作品で最終回だけを残して殺害された。現金主義で大金を身に着けていると公言していたことから強盗殺人と考えられた。
しかし作家はパワハラや遊び好きで知られていたが、それは真面目な素顔を隠すためだったらしい。さらに連載作品が過去の悲劇にもとづいているとわかり……


このシリーズでは「うさぎとかめ」等を手がけた森下直の脚本で、さまざまな「ルール」に翻弄される人間模様が描かれた。
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まず作家に対するファンの熱狂ぶりの説明として、物語のモデルとなった場所への来訪を「聖地巡礼」と呼ぶ近年の文化が描写された。もちろん、もともとの宗教的な意味から類推しやすいだろうし、細かく説明しなくても比喩表現として理解されるだろうが。
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そして観光地でもなければトラブルにもなりやすい聖地巡礼を作者がコントロールして、人々を誘導しようとしていたという真相も現代的な面白さがある。フィクションにおりまぜた情報で何かを指弾することは虚構でも現実でもよくあるが、そこで悪人の名前と居場所が周知されるアイデアとして、名前のマイルールから関連性を出すという情報の距離感に適度な歯ごたえがある。悪人視点で考えると、連載が進むにつれて開示される情報が自分に近づいてくる恐怖が生まれるだろう。
そうして応報感情に身をゆだねることが社会復帰をさまたげ、新たな犯罪を生みだしかねないという問題提起もきちんとしている。中盤で過去の少年犯罪者が判明して自白したことで真犯人が別にいることはわかるが、その時系列をうまく隠していてミステリとして楽しめたし、その真犯人の愚行ぶりも応報感情に影響されたものという構図がテーマにそっていて完成度が高い。
復讐心は作家個人の内面問題に処理して何が正しいかの結論を出さず、そのような復讐心に安易に加担する人間の利己的な愚かさを描いたことも良かった。復讐そのものは否定しないまま、復讐を社会が肯定することへの批判と皮肉を感じさせる。


しかし作中の連載作品の初期構想について考えると、最終回に解明される真犯人の名前が最終回になってはじめて登場する構成は、謎解きで楽しませるミステリとしてどうなのだろう。一応、そこまでに登場した名もなき登場人物が真犯人とわかる伏線が充分にあれば、名前だけが解決編で初めて語られても本格推理として成立するとは思うが……
さすがに連載を進めるにつれて初期構想とは異なる最終回になったことも語られるが、そこで出力された作品が杉下の説明や劇中イメージ映像を見る限り『20世紀少年』的な観念ぶりで、これはこれでどうなのだろう。一応、角田課長がツッコミを入れることで普通に考えれば肩透かしな結末というエクスキューズにはなっているが……