法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『るろうに剣心 最終章 The Final』

清国との緊張感が増しつつある明治日本。駅に停まった列車に警官隊が乗りこむ。そこにいたのは中国帰りの武器商人。その名は雪代縁といい、これまで緋村剣心と戦ってきた男たちに武器を売りつけていた……


明治初期を舞台にした少年漫画を実写化した、映画シリーズの二部作。前日譚より先に2021年に公開された完結編を、金曜ロードショーの地上波初放送で視聴した。

大友啓史監督がシリーズではじめて単独で脚本も担当。いかにもな説明台詞も一部あったが、原作要素の整理は実写シリーズで一番よくできていたと思う。
3作目とちがって、原作が長期連載でもつかいきれなかった敵幹部をざっくり整理して見やすい。雪代縁の復讐劇を単独行動として描いて娯楽としては見せ場が足りなくなったOVAるろうに剣心 星霜編』ともちがって、剣心たちが殺戮によってつくりあげた明治日本そのものも復讐の対象とすることで意味ある集団戦闘も展開できた。漫画とちがって子役では説得力ある活躍を描写できない明神弥彦も無力感をおぼえるドラマに配置して無理を感じさせない。気になったのは2作目*1と同じく中途半端な出番の四乃森蒼紫くらいだ*2
俳優陣もおおむね良かった。あたかも原作漫画が実写映画のコミカライズであるかのように、イメージを逆算したような配役や演技や服飾でまとめて、良い意味で再現を重視しすぎない。特に今回初登場で最大の敵となる縁は、ちゃんと体をつくっていて原作を思わせる筋肉ぶりでいて、サングラスと前髪で隠された太い眉毛や丸い輪郭が幼さを感じさせ、子供の精神のまま復讐鬼になったキャラクターにあっている。今回は悪目立ちする俳優もいない。


アクションも1作目*3からシリーズを重ねて精度と規模を向上させつつ、ただ派手で素早いだけではない、原作の現実的な再現にもとどまらない、多様でいて世界観をたもった描写にしあげている。
特に冒頭の列車からいったん駅にとびでてから車窓へとびこみなおすアクションにはじまり、戦闘にあわせて境界を破壊したり空間をくぐりぬけたりしながら移動しつづけるアクションが斬新。障子でくぎられた日本家屋ならではの演出として、建物が堅牢な文化ではつくれない情景の面白さがあるし、場面ごとに建物の内外が変わることで移動したことが視覚的にわかりやすい。
他に期待以上に良かったのが小坂一順がスーパーバイザーをつとめるVFX。冒頭の屋根がつらなる情景からクレーンダウンして駅に停まる蒸気機関車を映すカメラワークから、中盤の気球による夜間爆撃で俯瞰する街並み、海岸の崖から見下ろす遠景の艦船まで、どれも無理なく表現できている。質感や合成に気になるところもなく、爆撃で倒れる塔などは良い意味で巨大サイズのミニチュアかと思った。日常場面でも少し遠景の建物を合成することで、既存のオープンセットをつかった街並みでも空間の広がりを感じさせる。
操演の仕事だろう爆炎も古臭いセメントやガソリンのそれではなく、ちゃんと爆発らしいスピード感、派手さ、炎のディテールがあった。破壊されるセット類も周囲に他の家屋がきちんとあるので、壊し用にひとつだけ建てたような作り物感がない。


ただ、視聴してどうしても違和感があったのが、縁が復讐をはじめる発端の回想。OVAるろうに剣心 追憶編』で印象的だった雪代巴と剣心の物語が発端から作戦そして結果までが説明的なダイジェストで流れて、因果は理解できるものの感情が動かされることはない。
次週に放送される前日譚のネタバレにもなってしまっているだろうし、もっと観客や視聴者の想像にまかせるような描写にとどめるべきだったのではないか。やはり公開は前後しても前日譚を先に放映するべきではないかと思うのだが、見ると印象が変わるのだろうか。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:巻町操を演じる土屋太鳳のアクション能力により、最終決戦の役割が変更されたという話を見かけたが、そうだとすればいっそのこと蒼紫は今作に最初から登場させなくても良かったのでは、と思った。

*3:hokke-ookami.hatenablog.com