法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 Season19』第18話 選ばれし者

魔銃による私刑を煽るような小説に出てくる拳銃で、複数の殺人事件が起きる。最初の被害者は数ヶ月前に収賄疑惑のあった政治家で、次は小説家本人だった。
線条痕から同一の拳銃が凶器と鑑定されたが、しかし最初の事件で拳銃は科捜研に保管されたままだった。銃犯罪が少ない日本だが、闇で流通している銃は多い……


今期第9話*1で初参加した杉山嘉一が二度目の脚本。漫画『デスノート』等を思わせる私刑フィクションと銃犯罪をモチーフに、科捜研を舞台としたドラマが展開される。
科捜研の女』パロディが登場するかと思ったが、そちらは熱心に見ていないので気づかなかった。俳優や撮影セットを共有したりすればおもしろかったと思うのだが。
残念ながらミステリとして出来が悪くて、犯人が無駄に愚かな行動をとるので、思想犯的なおもしろさも欠落していた。


まず、線条痕が同じトリックは先例があるのに、まともに仮説を検討しないまま不可能犯罪のようにあつかわれることに違和感があった。
簡単なトリックとしては、数ヶ月前の事件で押収される前に水中などに弾丸を撃って回収し、その線条痕がついた弾丸を別の方法で人体に打ちこむ……といった方法がすぐ考えつく。
一応、今回のトリックなら日本の警察関係でギリギリありえそうな不祥事だし、同時に間違いなく同一の線条痕をもつ銃で射殺されたと鑑定はされるだろう。
だからこそ、既存のトリックを杉下や冠城がならべたてて、すげなく科捜研が鑑定結果から否定していく……という段取りをいれることは難しくないはずだ。


何より首をかしげたのが、そもそも不可能犯罪にすることに合理性がまったくないこと。
杉下は捜査を混乱させるためとだけ解決で説明したが、単純に似たデザインの銃をばらまけば同じような思想犯をずっと大規模に、かつ黒幕に司直の手がおよばないようにできたはず。
トリックをつかえた人間は限定されるので真犯人はあっさり判明したし、たとえトリックが解けなくても管理されていた拳銃に近い人物として真犯人は疑われる立場になったはずだ。
不可能に見える状況をつくるのはいいが、それで容疑者がせばまって真犯人がそのひとりになる、最もダメなパターンのミステリだ。
こういうトリックをつかいたいなら、小説家の生み出した情景を再現するためにリスクをおかさざるをえなかったとか、犯人が望まず行動した結果として不可能状況になったと設定するべきだろう。