法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』

皇帝パルパティーンが復活した。ただのガラクタ集めの子供だったはずのレイは、やがて対立する存在としてパルパティーンに捨てられた娘だった。
一方、ひびわれた心をおぎなうように修復したマスクをつけたカイロ・レンは周囲に距離をとられながら、レイとの対決に執着していたが……


ジョージ・ルーカスが離れたシリーズ新三部作で、2019年に公開された完結編。金曜ロードショーの地上波初放送で視聴した。
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しかし本編ノーカットとは思えないほどストーリーがぶつぎりで、少ないCMを録画で飛ばしながら見ても、まったく内容に没入することができなかった。
よく指摘されるように、エピソード8の不評におそれをなして、ファンに媚びようと修正しすぎて新味がなくなったのが原因だろう。しかも軌道修正のためコンセプトの一貫性も壊れてしまった。
破綻寸前に個性たっぷりな途中の展開を、ただ無駄な脇道として切り捨てたあげく、出発点よりも後退してかたちだけまとめる……これはリレー小説で一番つまらないパターンだ。


エピソード7はドラマとしてシリーズの定番をまとめつつ、全体の人物設定を現代的にして、そこでカイロ・レンという面白キャラクターも生みだした。
hokke-ookami.hatenablog.com
エピソード8は7の延長として出自に関係なく行動できる人々を描き、英雄的な決断よりも耐えることで活路を見いだそうとするコンセプトに一貫性があった。
hokke-ookami.hatenablog.com
エピソード9には明確なコンセプトがない。群像劇というにも個々の思想と行動が分裂しすぎていて、ひとつひとつのドラマを広げないまますぐ終わる。


まず、7から8までひょうひょうとしていたレイなのに、混迷するドラマにのれなかった。誰ともつながらない自問自答を幻影にさとされて解決する展開も、いくら超常設定の作品だとしても説得力がない。
特別な出自もなく超常能力をもったレイの血統について、悪の皇帝という意外性のない真相を後づけしたのも残念。同じ超常の血統でも良き面と悪しき面が出ることは旧シリーズのダースベイダーで描ききっている。
たとえば最終決戦に大挙して登場する名も無き民間人のなかにレイの両親の知人がいて、普通で平凡でしかし善良な人だったとつたえる……みたいな展開で良かったのに。
最初にレイを捨てようとしたり、都合良く跡継ぎにしようとしたり、自分が復活する糧として消費したりと、パルパティーンの多重な毒親ぶりだけは少し良かったが……


レイの葛藤に尺をとられたため、冒険に同行するフィンやポーの物語も薄くなった。レイの悩みを描くにしても、今となりにいる仲間にも目をむけさせるべきだったのではないか。
女性陣はもっとひどくて、ローズはほぼ完全な脇役になり、ポーと旧知の運び屋ゾーリは類型的なツンデレを一歩も出ない。女性脱走兵ジャナも戦闘で活躍するが戦友くらいの位置づけ。
レイアの途中退場だけは俳優の死去を思えばしかたないが、加点にはならない。そもそも世代交代を描くなら、せっかく死なせた前世代ジェダイをドラマの要点に出すべきではない。結末にレイが自分の名字を選ぶ場面にいたっては、『ゴジラVSビオランテ』の沢口靖子かと思った。
良かったのは、マスクをひび割れた姿でつかうほど中二病が悪化したカイロ・レンくらい。しかし中途退場してしまい、個性的な暗殺集団との戦いも省略気味ですまされた*1。敵組織にカイロ・レンを邪魔する幹部を出すなら、カイロ・レンの坊ちゃんぶりにほだされて後半に組織を抜ける部下が出ても良かったと思う。


映像作品としてビジュアルの面白味が感じられないところも痛い。さすがにVFXはそつなくハイクオリティだが、どこかで見たような映像ばかりつづき、そのひとつひとつが短い。
特にひどいのが敵のスケール感。その不明確さはずっと新三部作に感じていたが、物理的な巨大兵器をいきなり多数登場させられると、脅威よりも設定への疑問ばかり気にかかる。
その活躍も、ただ量産されて登場して倒されるだけでは、設定倒れの背景でしかない。最終決戦でパルパティーンという個人の超常能力が戦場全体におよぶ情景も、スケールを小さく感じさせた。
その巨大戦艦上を生身の馬で駆けぬけたり、縦に墜落する巨大戦艦から逃れる場面は良かったが、短く終わるので楽しめない。しかも大量生産された兵器を攻略するには見るからに非効率で無力だ。


せめて宗教的な敵本拠地の設定を拡張して、物理的な攻撃手段ではなく、精神攻撃を増大させる装置にすればどうだったろう*2
全宇宙のフォースをもつ者を暗黒面へひきずりこもうとするパルパティーンと、あらゆる者が帝国の尖兵になりかねない実例の一般人レイ、そして誘惑を身近で受けながら良心を捨てきれなかったカイロ・レン……という構図の最終決戦になる。
これならば、宇宙全体の多様な民間人がパルパティーンのもとに集まって、しかし抵抗をはじめるクライマックスも、より感動的になるのではないか。
敵本拠地を守る巨大戦艦ひとつが相手なら、魅力的な騎馬戦もたっぷり描けるだろうし、墜落場所が無人か気にかかることもない。


あと、新型コロナ禍がなければ、今ごろオマージュ作品『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』のリメイク映画が公開されて見比べることができただろうに、という残念さがあった。こればかりは映画関係者の責任ではないが*3

*1:活躍しそうな敵をあっさり倒して終わるのはシリーズの通例だとは思うが。

*2:機動戦士Vガンダム』等の先例があるが、ひとつふたつではないので盗作とはなるまい。

*3:集中的な対応をした国家のいくつかは、再感染の予兆がないかぎりは普通に国内の経済活動をできているところを見ると、誰の責任でもないという表現はつかいづらい。そもそも政府は原則として天災もふくめてあらゆる責任を負うべき立場であるし。