エピソード6の結末から30年後。勢力を増している帝国軍残党「ファースト・オーダー」に対して、老いたレイアは軍事組織「レジスタンス」*1を結成して戦っていた。
「ファースト・オーダー」のストームトルーパー部隊は、ルークの居場所を示す地図をさがして、惑星ジャクーの村を襲撃した。そこで宇宙一のパイロットのポーを拘束するが、地図データをもったドロイド「BB-8」には逃げられてしまう。さらに初の実戦に葛藤したストームトルーパーの一員「FN-2187」が、ポーと協力して脱走してしまう。
一方、惑星ジャクーで廃品回収業をしているレイは、人々からねらわれていた「BB-8」を助けてやり、ポーを失ってフィンと名乗るようになった「FN-2187」と出会う。地図データをレジスタンスへ届けることになったレイとフィンは、さまざまな人々と出会い助けられながら、戦いのなかで自分自身を見つめていく……
J・J・エイブラムス監督による2015年のシリーズ最新作。ルーカスフィルムからディズニーにシリーズ版権が移り、新三部作の第一弾として公開された。
スター・ウォーズ/フォースの覚醒|映画/ブルーレイ・デジタル配信|スター・ウォーズ|STAR WARS|
まず、ルークの地図という争奪対象がはっきりしているのがいい。新旧のキャラクターがいれかわりたちかわり登場しながら、それぞれの目的がわからなくなるところがない。
宇宙戦闘はもちろん、惑星ジャクーの砂漠、惑星タコダナの深緑、スターキラー基地の雪原と、旧作を思わせる舞台をわたりあるいて見せ場をつくりながら、物語としてまとまりがあった。
VFXには新鮮味こそないが、どれも無駄なく手堅く使われていた。過剰な3DCGにたよらず、適度にアナログな手法を使っていて、息がつまらない。
キャラクターとしては、とにかくフィンが好みだった。子供のころに無理やりさらわれて兵士となり、初めての実戦で虐殺と仲間の死に衝撃をおぼえ、脱走兵となる。アフリカ系の容姿から現代の少年兵を想起させるし、ベトナム戦争で懲役拒否した伝説のボクサーにも重なる*2。
元世界ヘビー級王者モハメド・アリ氏が死去、74歳 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
1964年にはイスラム教に改宗し、モハメド・アリに改名。ベトナム戦争での兵役拒否により数年間出場を禁止されたが、その後1971年に最高裁判所が無罪判決を言い渡した。
改宗に加え、ベトナム戦争や公民権運動に対しての率直な物言いで一部から批判の声も上がったが、アリ氏はその信念を貫き、最終的には活動家として称賛された。
それでいてフィンは英雄的な性格というわけではなく、あくまで戦場から逃げたいだけで、レイと出会った時も姑息な嘘をついてしまう。どこまでも末端の兵士のひとりで、さほど強いわけでもない。しかし旅をつづけるにつれて嘘が真へ変わっていき、かつての仲間との因縁をとおして、顔のない無機的な兵士にも個々の人格があることを描いていく。
わりをくったのがポーで、もともとは序盤で戦死したまま退場するはずだったが、後づけで生存していた展開に変えたためか合流する場面があっさりしすぎていた。英雄としての魂をフィンにたくして退場する初期案か、それとも華々しく再登場することでフィンが英雄になる必要性を問いなおすか、どちらか両極にふれば印象が強くなったろう。
重要人物らしいレイは、いかにも現代的な女性キャラクターで、原則として性的なアピールをしない。過去と能力を隠しつつ、人格は完成されている。だからフィンとの旅で停滞する場面がなく、冒険行を邪魔する湿っぽさもない。シリーズ原作者であるジョージ・ルーカス監督のような辛気臭さや説教臭さが薄かったのは、このレイのキャラクターのおかげかもしれない。
ハン・ソロは老いた英雄として、若者を軽快に導いていくために、衰えた肉体に鞭打っていく。おかげで宇宙船内で怪物から逃げまどうサスペンスがもりあがった。レイアやルークも短い出番ながら、威厳をまとわせて存在感のある姿を見せてくれた。
カイロレンという今回の敵が、祖父にあこがれるだけの小人物なのも興味深かった。主人公側ともども戦いのスケールを適度に縮めて、136分という時間でも物語をきっちり終わらせられたし、ストームトルーパーにあきれられるほど言動が幼すぎるという一種の魅力があった。戦うことに葛藤して、ひとつのキャラクターとして完成してくドラマという意味ではフィンの鏡像でもあった。