法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』

「ファースト・オーダー」の圧倒的な軍事力に対して、「レジスタンス」は命がけで抵抗をつづけていた。
空間をこえても追ってくる敵をふりきるため、フィンとローズは必要な人材を求めてカジノへ向かう。
一方、レイは伝説的なジェダイのルークに師事したが、彼方のカイロ・レンに影響され混迷していく……


エピソード7『スター・ウォーズ/フォースの覚醒*1の続編として、ライアン・ジョンソンが監督と脚本をつとめたエピソード8。金曜ロードショーの本編ノーカットで視聴した。
kinro.ntv.co.jp
シリーズを破壊するかのような内容で賛否両論らしいと聞いていたが、そう覚悟して観ると、意外なほどスペースオペラとして違和感なく楽しめてしまった。
物語は直接的な続編であるし*2、登場人物やメカニックにも新規はあっても大きな変更はない。良くも悪くもエピソード1ほどの目新しさはなかったと思う。


VFXはまずまずで、現代の大作SF映画としては充分な水準だろう。
良い具合にアナログな冒頭の爆弾投下から、ルークが隠遁する島の生物相、塩で覆われた小さな基地の籠城戦まで、ビジュアルはシリーズのイメージから外れない。
それでいて、その場ごとの敵味方の作戦目的がわかりやすく、攻防戦の位置関係も整理されている。場面ごとのスケールの規模感が適度で、大味に感じさせない。
あと、カジノ脱出あたりでアニメ映画『AKIRA』序盤のバイク抗争を連想した。調べてみると、実際に直前の監督作品『ルーパー』で大友克洋を参照したという。
超能力少年のモデルは大友克洋の「童夢」! 『LOOPER/ルーパー』の監督が公言 - シネマトゥデイ

監督・脚本のライアン・ジョンソンは、特典のコメンタリーの中で「シドの能力や表現は大友克洋の『童夢』をモデルにした」と語っている。


物語も、副題に恥じないジェダイの師弟関係の問題を描いていて、英雄に期待するべきではない時代のドラマとして成立していたと思う。
新キャラクターのローズにしても、容貌もふくめて不評と聞いていたが、小さな体で奮闘するチャーミングさがあった。イウォーク的といっていいかもしれない。ホルド提督も臆病な平和主義を揶揄するキャラクターかと思わせて、勇気をもって蛮勇をしりぞける人格は素直に感動したものだ。
しかしフィンの臆病風だけでなく自己犠牲まで止めるローズを代表として、エピソード7で活躍した英雄的なキャラクターを批判する新キャラクターが多いのは気になった。その批判がカタルシスにつながらないのも、娯楽として難ではある。一瞬カイロ・レンまで英雄になりかけながら、それは気の迷いにすぎず、同志をえられずに再び暗黒へ堕ちるあたり徹底している。
特にカジノ潜入が裏目に出る展開は、英雄の好戦性を徹底的に挫折させたまま、再起するフォローがない。もはや古典的な『賢者の贈り物』プロットだが、それは英雄であるべきポー*3が独断専行したため情報共有がなされなかった結果で、そこから反省して活躍する局面が来ない。ポーの決断を唯一の選択肢のように観客を騙しきったことは見事だが、それで組織が壊滅寸前に追いつめられて映画が終わるのは、厳しい反応もしかたないだろうとは思った。
そうした重苦しい展開を少しでも軽妙に見せるためか、細かいギャグが多すぎることも気になった。同じようにギャグ過多からバッドエンドになだれこんだ『ターミネーター3』もシリーズファンに不評だったことを思い出させる。すでにカイロ・レンという、活躍しても苦悩しても一挙手一投足が共感できつつ笑える最高のキャラクターがいるのだから、周囲や対立者まで間抜けに見せる必要はなかった。

*1:『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』 - 法華狼の日記

*2:ただ、反乱鎮圧軍だった「レジスタンス」が、名称の印象通りの弱小勢力になった過程は、もっと説明がほしかった。せめて最初のテロップでいいから。

*3:もっとも、エピソード7を観た時点の感想では、あまり印象に残っていない。当初の予定通りに戦死して、その英雄性はフィンが受けつぐのが良いと思ったくらい。