戦時中の日本は、京都大学の研究室で原子核爆弾を開発しようとしていた。そこで研究する石村修は核燃料をとりだす遠心分離機の開発に精力をかたむける。
しかし研究の道を進んだ兄のかわりに弟の裕之は戦死し、ウランの入手をたのんだ女性は大阪空襲で命を落とし、修は原爆開発にのめりこんでいく……
戦時中の日本核開発が挫折するまでを、1時間20分かけて描いたドラマ。8月15日のゴールデンタイム本放送は録画できず、19日から20日までまたぐ深夜再放送で視聴した。
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NHK生え抜き演出家の黒崎博がオリジナル脚本『神の火』を書き、NHKの国際的なシナリオコンペ賞をとおり、国際共同制作にいたった。視点を変えた映画版も作られる予定だという。
焼夷弾の延焼を抑えるため取り壊される冒頭の巨大オープンセットといい、ていねいに再現された研究室といい、8kを意識した映像のクオリティはさすがNHKだとは思った。
全体の印象としては、同じように『NHKスペシャル』で戦時中をドラマ化した『1942年のプレイボール』より、さらに宮崎駿監督の『風立ちぬ』を連想する作品だった。トンボ眼鏡を主人公に選んだことも同じだ。
『1942年のプレイボール』 - 法華狼の日記
研究室で学びあい、目標の回転速度に達する遠心分離機を作ろうと発奮する主人公。それは楽しく美しい青春の一瞬に見える。
しかし原爆で広大な廃墟となった広島を研究室で見に行くが、すさまじい光景*1に比して主人公らの感情はあまり動かず、原爆のもたらす結果に恐れをなしたりはしない。
原爆の開発を止めようとする研究室の仲間にしても、あくまで遅々とした開発にいらだったためであり、より確実性のある兵器を求めていただけ。
最終的に京都が新たな原爆の標的になると思った修は、母にだけ危機をつたえ、しかし確率が低いからと人々の惨禍は看過しようとし、被害を高見で観察するよう準備する……ある種類の専門家が現在でも見せる態度を思わせる。
もちろん主人公のふるまいに母はあきれるし、何より歴史の流れに裏切られていく。
陶工が染付のため持っていたウランをゆずってもらっていたが*2、根本的に不足をおぎなうにはいたらない。そもそも核燃料をとりだす回転速度に達する遠心分離機がつくれない。その間に米国は原爆を開発して実験して日本へ投下する。
けして日本は原爆開発を断念したわけでもなければ、加害をおこないたくなかったわけでもない。ただ能力がなかっただけだ。天皇が開発を断念させた伝説などなりたつはずがない。
出雲井晶←五島勉←河内正臣(←岩田幸雄←杉山元)。
— gallery (@gallerytondemo) 2020年8月10日
ちなみに河内正臣氏は超天皇主義者で、憲法9条を天皇が発案したと言ってる人。https://t.co/ozesAznR1jhttps://t.co/vYtK4meVoW
こちらの方https://t.co/WwBsfHUeI0
— 能川元一 (@nogawam) 2020年8月10日
もお書きのように更にネタ元はあるのですが(丸カッコ内は伝聞に過ぎない部分)、高田純やドクター中松のように最近言いだしているのは五島勉本を参照してますね。
世界唯一の被爆国として日本が被害をうったえている技術を、敗北を受けいれる瞬間まで日本も手段として追いもとめていた。それをあえて終戦記念日につきつけたことは印象深い。