法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドキュメンタリードラマ「あんとき、」』

東京で音楽活動をしていた青年トシが、長崎へ戻ってきた。父ジロウが東日本大災害で行方不明になり、スランプになったためだった。
トシは故郷をさまよい歩くようにして、いろいろな人々と出会い、話を聞いて、しずかに父の記憶をたどっていく……


8月9日の深夜早朝にNHKで放映されたドキュメンタリードラマ。架空の被爆二世を主軸として、実在の長崎市民を登場させながら、記憶の継承を描いていく。
NHKドキュメンタリー
脚本と演出は渡辺考が担当。2013年の『NHKスペシャル』において、従軍作家が記した中国への加害を特集した回のスタッフだ。
『NHKスペシャル』従軍作家たちの戦争 - 法華狼の日記
今回のドラマでも、劇中上映された空襲記録映像にゲルニカ重慶爆撃を挿入。長期間にわたる無差別爆撃を日本軍がおこなっていたことを明示していた。


ドラマそのものは、本筋というほどはっきりしたストーリーはない。さまざまな記憶を映像に乗せ、あらためて記録することを優先している。
実在する語り部の老人による、同じ話をくりかえすことに飽きているという言葉と、それでも受けた傷を伝えるために風呂へ入る時にさらした肉体。資料映像にカラーで残された、赤く剥けた背中の肌。それらを描く土台となるのは、表現することに挫折した若者の再起。
現代の長崎を現地ロケしただけあって、先日に言及した映画*1より地域の固有性もわかりやすい。再開発でとりこわされる小さな市場での、満州から引き揚げた記憶をもつ女性の姿など、日本社会が歴史を忘れようとしている現状を正面から描いていた。
東日本大震災を父の死因としているのは、福島原発事故による被災者差別と、原爆被爆者差別を重ねるためのギミック。放射能がうつるといってイジメられた被爆二世の記憶や、結婚のためには被爆を隠すしかなかったという女性の証言には、フィクションを超えたリアルの重みが感じられる。消防隊を同じように顕彰するだけだった2014年の『NHKスペシャル*2よりずっといい。ついでに補助金を受け取ることへの蔑視もおりこめていたなら、より普遍的なテーマにつながったと思うが、そこまでは踏みこまず残念。