法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『メアリと魔女の花』

田舎に越してきたメアリは、山で不思議な花を見つける。その花は夜間飛行といい、魔法を助ける特別な力があった。その力で空を飛んだメアリは魔法大学にたどりつき、優秀な魔女とかんちがいされたが……


スタジオジブリの流れをくむスタジオポノックの初長編作品。米林宏昌監督の映画3作目として2017年に公開。すでに2018年に地上波放映されたが、DVDで視聴した。

メアリと魔女の花 [DVD]

メアリと魔女の花 [DVD]

  • 発売日: 2018/03/20
  • メディア: DVD

1作目『借りぐらしのアリエッティ*1はシチュエーションだけ濃密に映像化してストーリーが弱すぎたが、2作目『思い出のマーニー*2スタジオジブリには珍しい方向性のリリカルさとシンプルな謎解きドラマのバランスが良かった。
そこで3作目には少し期待していたのだが、今度はシチュエーションを楽しむ前に場面がうつりかわる。かといってドラマもつみかさねが足りず説得力がなかった。


さすがにスタジオジブリ関係のスタッフが多く参加しているだけあって、映像の見映えはいい。魔法大学の狂乱ぶりや、夜間飛行などの魔法発動はビジュアルとして楽しい。特に作画の見どころとして、実験動物が脱走する場面が良かった*3
クライマックスに入ると、主人公が追いこまれていくドラマを絵がうまく支えている場面も多い。孤立した一軒家に逃げこみ、魔法で通信につかった鏡がひびわれていく演出などは印象的だった。
一見すると魅力的にさまざまなものを生み出す魔法大学が、無能の排除と生命の犠牲で成り立っていると明かされる展開も、ブラック企業としてのスタジオジブリを隠喩しているような興味深さがあった。
よく批判されるように全体に既視感があって、宮崎駿作品を連想させる場面は多い。しかしそれは後年の宮崎作品自体がそうだから目をつぶれる。


とにかく問題なのは、本題に入るまでの前半のもたつきと、そこで登場した要素が多すぎて個々に重みがないこと*4
そもそもメアリが田舎に来たばかりという背景からして意味がない。人間界のメアリが魔法大学と行き来して、その社会との対立で物語が動いていくのだから、人間界においても来訪者と設定しても段取りが増えるだけ。『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』の序盤を手癖で真似したようにしか感じない。
メアリが田舎生活をはじめたばかりなことに意味がないだけでなく、日常生活のトラブルが伏線として効果をあげない。描写をつみかさねて観客に理解させていくつくりではないから、説明口調のモノローグが多用されて不自然になる。日常描写に時間をさいたため、魔法大学の魅力を描写する時間が足りなくなる。魔法大学の暗部が明らかになっても、愛着をもてていないため驚きも悲しみもない。
せっかく終盤に主人公が追いこまれて娯楽らしいサスペンスが生まれても、少年ピーターの存在感の弱さが足をひっぱる。魔法大学の人質にされても、どうしてもメアリが助けたくなるような関係性を感じない。前半の日常で少し会話しただけの脇役くらいの印象しかないのだ。
ピーターと比べると、前半の日常で出会っただけでなく、使い魔とかんちがいされてメアリとずっと同行した猫のティブのほうが、ずっとメアリの感情を動かす存在感がある。事実として、ティブと仲良しの猫ギブが実験のため拉致された局面は、様子がおかしいティブをいぶかしがるメアリの視点で描くことで、物語の流れに乗りやすかった。


1クールのTVアニメにするならば、同じ構成でも問題にはならないだろう。まずピーターとメアリの関係を数話かけて描いて、次に魔法大学の良さも数話かけて描けば、それが人質になったり敵対したりするメアリの苦しみに共感しやすくなるはずだ。
しかし2時間に満たない映画なのだから、もっと無駄を省いて整理するべきだった。たとえばメアリは最初から田舎に住んでいて、冒頭すぐ傷つけてしまった花のかわりに夜間飛行を見つけ、そこから猫とともに魔法大学へ行って優等生あつかいされる快感をたっぷり描いて、魔法大学と対立する転換点から猫二匹を争奪するアクションに移行していく……などの展開が考えられる。

*1:『借りぐらしのアリエッティ』 - 法華狼の日記

*2:『思い出のマーニー』 - 法華狼の日記

*3:大平晋也担当らしい。

*4:原作のイギリス児童小説は未読なので、小説そのものにあった問題か、媒体の変化にあわせたアレンジが足りなかったのか、アニメオリジナル描写に問題があるのかは、判断できない。