法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『思い出のマーニー』

療養のため、海辺の村へ居候しにきた杏奈。都会では優しい養親との距離を感じていたが、村落でも周囲となじむことができずにいた。
ある日、浜辺の先に古い屋敷があることに杏奈は気づく。その屋敷の少女マーニーに杏奈は惹かれていくが、それは現実なのか幻想なのかわからない。


1967年に発表されたイギリスの児童文学を、2014年にスタジオジブリ米林宏昌監督がアニメ映画化した作品。金曜ロードSHOW!で視聴した。
映画『思い出のマーニー』公式サイト
原作は未読だが、舞台を日本へ移しかえたことは、違う世界への杏奈の憧憬を映像として強調しているわけだし、悪くないアレンジだと思う。外国人と日本人の関係になっていることが、オチの伏線となっていることも好みだった。
ただ、オチそのものも好みだったが、その凄さを番組があおっていたのは痛しかゆし。良くも悪くも『シックスセンス』的な驚かしに堕してしまった感もあった。


さて、「湿っ地の屋敷」は潮の干満で姿を変えていき、時刻によってはボートで行けるかどうかもあやうい。その不安感が、そのまま杏奈の不安感でもある。
よるべなき杏奈。養親にも村落にも屋敷にも落ちつくことができない。居候先の夫婦は器が大きく、村落でおせっかいを焼いてくる少女も大人物。公的支援を受けている養親*1もふくめて、誰もが客観的には優しく、おそらく杏奈もそれは認識できていて、だからこそ居場所がないことを表明することすら封じられてしまう。
それゆえ障害をこえて杏奈はマーニーと会いつづける。花売りに変装して社交場に入りこみ、月光をあびながら踊るふたり*2。しかしマーニーの側は自身に向けられている好意ほど杏奈を絶対視していない。嵐の廃サイロで、亀裂は決定的になる。
ここでマーニーが男性にたよったため、この映画はレズビアニズム作品ではないという感想もあるらしい。しかしマーニーがどのような女性よりも杏奈が好きといったことに対して、杏奈が誰もよりもマーニーを好きといった対比から、一方がヘテロセクシャルであったとしても、レズビアニズムを描いていないことの証明にはなるまい。むしろオチで明かされる関係までいたれば、レズビアニズム作品のひとつの類型といえる*3


後半に入って、マーニーをめぐる謎解きが始まる。映像的な前哨として、杏奈を謎解きにみちびく彩香は、まず「湿っ地屋敷」の裏側を見せる。それはたしかに歴史ある、しかし幻想的ではない現実にある洋館だった。
そして予想されたゴーストストーリーの変種として、あたかも杏奈が時間を超えたかのように過去がひもとかれていく。しかし最後のオチで、杏奈の内面でだけ時間を超えたことが示唆される。
このオチは、先述したようにレズビアニズム作品のひとつの類型であるし、超常現象がなくても心がつうじたかもしれないという結論でもある。マーニーを幻覚だと仮定しても、杏奈が知らないはずのことを知っていれば何らかの超常現象があったといえるが、オチの関係を考慮すると杏奈は知っていたことになる。むしろ超常的にならない範囲で幻覚を見ていたとすらいえる。
そうして二重三重に明かされていく真相で、因縁話としての厚みが充分にかたちづくられていた。米林宏昌監督の第1作『借りぐらしのアリエッティ*4が、後半ただのドタバタ劇になって、ドラマが収拾しないまま終わったことの反省もあるのだろうか。

*1:ここで公的支援を養親が受けていることにわだかまりをいだく養子の心情を描いて、なおかつ公的支援を受けることに負い目を感じる必要がないと物語をとおして結論づけたのは、本当に良かった。

*2:いかにもスタジオジブリらしく全体として作画が良かったが、あまり激しい動きのない作品ではあり、ここが対比的にアニメーションとして目を引いた。担当したのは近藤勝也叶 精二(Seiji Kanoh) on Twitter: "テラスに杏奈を誘うマーニー〜満月下の二人のダンス、近藤勝也さん(『魔女の宅急便』『ポニョ』作監『コクリコ坂』キャラデザイン)。"

*3:やはりヘテロセクシャルとかかわるため私が見ていた範囲では評価は良くなかったが、TVアニメ『ヤミと帽子と本の旅人』の最終回を連想した。

*4:簡単な感想はこちら。『借りぐらしのアリエッティ』 - 法華狼の日記