『ルパン三世』で知られるモンキーパンチによるコミカライズ。1998年から1999年にかけて男性ファッション誌で連載され、2004年に単行本にまとめられた。
- 作者:モンキー・パンチ
- メディア: コミック
シェラザード*1が残酷な王に物語を教えつづける原典に対して、この漫画は前日譚にあたる。描かれるのは王が女性不信になる経緯からシェラザードが嫁ぐまで。
まず王の弟が正妻に浮気されて自分だけが不幸と思いこみ、しかし兄王も浮気されていることに気づいて心が軽くなる展開で、良くも悪くも男のダメさが見事に描かれている。浮気する男の怪物性*2は物語にかかわりなく、基本的に浮気する女の狡猾さばかり重視され、王兄弟は女性への劣等感ばかり育てていく。
物語内で物語を語るという枠形式は、王を止めるため嫁ごうとするシェラザードに父が語る寓話だけ。その寓話も暴走する妻を夫が暴力的に躾けることで助かるという、ちょっとミソジニーがきつい内容。もちろんシェラザードの決意はゆるがず、ミソジニーをくつがえす展開を予感させて終わるのだが、残念ながら続編は描かれないまま作者が亡くなった。
しかし漫画としてはそれなり以上に楽しめた。
表紙の彩色などグラデーションはさすがに古いが、初期からデジタル作画を研究していた漫画家の実作という意味で面白い。
音響を表現する描き文字において笑い声などはフォントを変形し*3、手描きの擬音語や擬態語*4と区別している。
緻密な一枚絵を拡大縮小して違うコマにわけて、カメラワークを表現する手法も面白い*5。
現在も冨樫義博『HUNTER×HUNTER』などで見かける手法だし、そもそも複製と拡大縮小を活用した省力はコピー機が実用化された時代からあった。
しかし手抜きという印象は少ない。もとの一枚絵が緻密なので、構築した広い世界をどう切りとるかという演出として楽しめる。