法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』ハリ千本ノマス/のび太シンデレラ

「ハリ千本ノマス」は、エイプリルフールに今年こそはだまされないと決意し、のび太が人間不信におちいっていく。そこでのび太をぬかよろこびさようとする嘘を、秘密道具で現実化するが……
記憶では2005年以降で初のアニメ化。それでも四月馬鹿エピソードは何度かあった気がするが、そういえば「帰ってきたドラえもん」をスペシャル番組でアニメ化していたか*1
アニメオリジナル描写として、安雄とはる夫も登場してのび太に第三者を巻きこむ嘘をいう。そこで今回の秘密道具「ハリ千本バッジ」が約束を履行させる設定であって嘘を現実化する設定ではないことを明確化。弟にいいところを見せてやろうと約束したアニメオリジナルの野球少年が、本人の信念によって実際に活躍することをドラマチックに描いた。原作のドライで無駄のない展開が好みだが、これはこれで悪くないアレンジだと思う。
最後にしずちゃんが放火する原作オチが、なぜか泥棒に入るオチに改変されたかと思ったら、ドラえもんが「噓つきは泥棒のはじまり」という台詞で納得。これはこれでシャレたオチだ。


のび太シンデレラ」は、浦島太郎が老人になった後が気になるのび太のため、絵本に入りこめる秘密道具が登場。そこで絶望して入水しようとする浦島太郎を止めて、他の絵本も……
2005年リニューアル以降で初のアニメ化だが、同じ秘密道具「絵本入りこみぐつ」が出てくる2009年にアニメ化された短編「幸せな人魚姫」*2の要素も入っているかな。
『人魚姫』については秘密道具でテレパシーをつかわずとも、声が出せないだけなら筆談でいいのでは?という疑問を感じてしまった*3。童話が書かれた当時の識字率が反映されているのかもしれないし、意思疎通ができないことにメッセージを読みこむ批評を見かけたおぼえもあるが内容は記憶していない。
しかし、『赤ずきん』や『白雪姫』あたりから、絵本ではハッピーエンドが定番の物語まで介入して、秘密道具ですぐ救う展開は予想外。物語のトラブルを即解決する二次創作ギャグとして、ここまで来ると安易さが逆に楽しい。白雪姫が救い主が王子ではないことを意外がり、しかし迷惑がらない態度が興味深かった。死んだと思われる女性に意思を確認せずキスをする展開が、現代では善行になりえないことが反映された描写……とまではいわないが。
オチは原作どおり、シンデレラの靴をこわしてしまって、残された秘密道具の靴にあうのび太が王子と結婚する。原作では過程をショートカットして結末をドラえもんが目撃するよう構成していたが、今回のアニメでは関係者が靴にあう人をさがす信念を強化して、のび太と結婚式をあげる描写でも王子が困り顔をすることがない。相手が同性でも良いというオチは男色的だが、時代にあわせた変化でもあるか。
映像面では、キャラ設定と作監が小西富洋ひとりなのは過去にもあったし、むしろ違うスタッフが担当するようになったのは近年から。しかし番組枠半分をつかったエピソードの一人原画は、記憶ではリニューアル後で初めてだ。実力あるベテランの大武正枝一人原画なので見ごたえあった。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:中編にふくらませ、成功も失敗もふくめて興味深いアレンジが多いアニメ化だった。 hokke-ookami.hatenablog.com

*3:先述の「幸せな人魚姫」では、声を奪われないようドラえもんが助力したのに、人魚姫が弱気になって王子を救ったことを言い出せない描写が入っている。