法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』のび太の流れ星/オーバーオーバー

アニメオリジナルの前半と、後期原作をアニメ化した後半と。


のび太の流れ星」は、出木杉がさそった流星群の観察が曇天で失敗。のび太は対抗して秘密道具で流星をつくり、それを商売にすることを思いつくが……
「いきものおりがみ」*1は良かったが、「いろいろソーダセット」*2は悪かった伊藤公志によるアニメオリジナルストーリー。今回も現実から取材した部分は良いのだが、それを起伏ある物語へしたてる工夫が足りない。
アニメオリジナル秘密道具「宇宙遊覧気球」で宇宙にまで上昇し、「流れ星の素」を大気圏に投下して実際に流れ星を作る。その知識の説明として、先に出木杉の失敗を描いておく。理科的な知識を語るだけで、嫌味なく説明能力が高いという出木杉の出来過ぎ感がないのはアニメオリジナル恒例の欠点。
ドラマの本題はのび太の流星作りで、宇宙と地上の隔絶で物語を動かしていくのに、どこでもドアのたぐいを使わない理由が説明されないのが難。連絡用にスマートフォン型の秘密道具を出すのも、そこは糸なし糸電話を出すところだろうと思ったし、その秘密道具できちんと連絡をとらないのも物語の都合が見えて不自然。
実際に流れ星を手作りする面白味を描こうとしているのに、あまり大気圏外のディテールがリアルでないのも難。なんといっても満月が大きすぎる。上昇時に飛行機と接触しかけるトラブルや、答案用紙が落ちて流星になっていくあたりの作画は良かったが。
ドラえもんが間をもたせようと芸を必死で見せる描写や、0点の答案が流星になるという皮肉を誰も知らない結末や、その終盤で流れるのび太のテーマソングなど、楽しめるところも少なくない。しかしそれをひとつの物語として流れを整えきっていなかった、といったところ。


「オーバーオーバー」は、のび太に外出させるため、日常を冒険のように楽しめる秘密道具をドラえもんが出す。認識に作用するその秘密道具で、のび太しずちゃんと冒険を始めるが……
2006年に寺本幸代コンテ演出でアニメ化した短編を、腰繁男コンテ演出でリメイク。シュールさを強調しつつ原作に忠実だった2006年版と比べて、独自性の高いアレンジが多いのだが悪くない。
まるで遊園地のライド感覚で、笑顔で怖がるしずちゃんの描写が好ましい。正体に見当をつけつつ楽しもうとする姿勢が原作よりも強調されていて、少女キャラクターとしての現代性がうまく原作から抽出されている。十円玉を取り戻そうとするジャイアンスネ夫に、神成さんのカミナリ化という第三勢力を足すことで、ぐっと展開もドラマチックに。しずちゃんが脱ぐところまでオーバーに感じてしまうオチは、のび太視点をのび太の体で隠すことで、うまく自主規制しつつ原作を完全に再現。
さらに今回のアニメでは、ドラえもんをオーバーオーバーに巻きこむ多段オチを追加。まずドラえもんに意図せず驚かされたのび太が驚かせ返そうとして失敗し、誰も意図せぬ驚きで終わる。秘密道具の機能を逆転した顛末は、予想はできるのだが設定的に自然で、原作と違和感なくつながっている。良いアニメオリジナルだった。