「話数単位で選ぶ、2019年TVアニメ10選」参加サイト一覧: 新米小僧の見習日記
まず各話を先にまとめて、細かい感想は後で。
『ドラえもん』大パニック!のび太のヒマワリ日記/けん銃王コンテスト(伊藤公志脚本、パクキョンスンコンテ、腰繁男演出、中本和樹/吉田誠作画監督/清水東脚本、山口晋コンテ、大島克也演出、丸山宏一/吉田誠作画監督)
『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』第28話 今にも落ちて来そうな空の下で(小林靖子脚本、髙橋秀弥コンテ演出、石本峻一/田中春香総作画監督、岩崎安利アクションディレクター、石本峻一/田中春香/津曲大介/横山謙次/森田莉奈作画監督)
『私に天使が舞い降りた!』第12話 天使のまなざし(山田由香/平牧大輔脚本、平牧大輔コンテ演出、中川洋未/菊永千里/菊池政芳/海保仁美総作画監督、山野雅明/松浦麻衣/渥美智也/中島大智/武藤 幹/小田景門/市原圭子/板倉 健/矢野桃子/中野裕紀/山崎 淳/Seo Seung Hye/Lee Juhyeou作画監督)
『可愛ければ変態でも好きになってくれますか? ショートアニメ「変好き▽」 』8話(いまざきいつき脚本コンテ演出作画)
『ひもてはうす』7話 祈りのように続く旅(曽我勇志脚本、湊未来コンテ演出)
『コップクラフト』#7 GIRLS ON ICE(賀東招二脚本、板垣伸コンテ、播摩優演出、内田利明/小林大地/吉田智裕作画監督)
『ありふれた職業で世界最強』Episode.10 女神の剣(佐藤勝一/𠮷本欣司脚本、友田政晴コンテ、土屋浩幸演出、臼田美夫/田仲マイケル作画監督)
『炎炎ノ消防隊』第参話 消防官新人大会(冨田頼子/蓜島岳斗脚本、寺東克己コンテ、伊藤秀弥演出、高橋敦子/馬場一樹/藤本真由/本多弘幸作画監督)
『ぬるぺた』第6話 お姉ちゃんかき氷のシロップなに派?(はと脚本、能田健太コンテ演出、薮本陽輔作画監督)
『兄に付ける薬はない!3-快把我哥帯走3-』EPISODE10 班長的資格(ラレコ脚本監督)
埋もれたエピソードをほりおこすという企画の理念にそって、1作品1話数というかたちで選出。
『ドラえもん』大パニック!のび太のヒマワリ日記/けん銃王コンテスト(伊藤公志脚本、パクキョンスンコンテ、腰繁男演出、中本和樹/吉田誠作画監督/清水東脚本、山口晋コンテ、大島克也演出、丸山宏一/吉田誠作画監督)
植物を育てるオリジナルストーリーで感動展開かと思わせてからのパニックが始まる前編。アクション性の高い初期原作を見事な作画技術で映像化しつつ、後に完成した設定とすりあわせた後編。
『ドラえもん』大パニック!のび太のヒマワリ日記/けん銃王コンテスト - 法華狼の日記
どちらも文句なく完成度が高く、かつ異なるエピソードを放映するTVアニメならではのジャンルの幅があった。ベテラン演出家がデジタル撮影技術を活用した演出の妙と、アニメーター出身演出家のカット割りの巧さなどの対比も楽しめる。
ちなみに例年はハイレベルな作画演出をくりだしていた誕生日SPだが、今年は背景美術こそ印象的で全編よく動いてはいたものの、通常回と比べての飛躍が期待より低かった。
『ドラえもん』未来の迷宮(ラビリンス) おかし城(キャッスル)/謎のピラミッド!?エジプト大冒険 - 法華狼の日記
『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』第28話 今にも落ちて来そうな空の下で(小林靖子脚本、髙橋秀弥コンテ演出、石本峻一/田中春香総作画監督、岩崎安利アクションディレクター、石本峻一/田中春香/津曲大介/横山謙次/森田莉奈作画監督)
田中宏紀作画監督による敵側頂上決戦の第27話を受けて、謎めいたラスボスの正体に主人公陣営が肉迫するエピソード。過程をとばして都合の良い結果だけを求めるマフィアボスの能力に、過去を再現する能力をもった主人公陣営の元警官が近づくという対比がいい。
基本的にはアレンジの少ないアニメ化だが、頁数が少なくて運命に押し流されるように駆け足気味だった原作と比べて、やや時間経過がていねいなところが印象的。物語がひとつの「終わり」に向かう緊迫感を増すと同時に、過程を踏む大切さというテーマを原作よりも明確に強調した。
ここで描かれたのは自己犠牲の美しさではない。地道に調べることの大切さ、かすかな手がかりを守ることを賞賛して、弱者を踏みつける邪悪はそうした路傍の石につまづくという信念を描いたのだ。
『私に天使が舞い降りた!』第12話 天使のまなざし(山田由香/平牧大輔脚本、平牧大輔コンテ演出、中川洋未/菊永千里/菊池政芳/海保仁美総作画監督、山野雅明/松浦麻衣/渥美智也/中島大智/武藤 幹/小田景門/市原圭子/板倉 健/矢野桃子/中野裕紀/山崎 淳/Seo Seung Hye/Lee Juhyeou作画監督)
本筋の年齢差百合は、あまりにも加害性や搾取性に無頓着で、同世代同士の関係しか安心できなかった。星野みやこの相手は松本香子がふさわしいと本気で思ったくらいである。
— TVアニメ「私に天使が舞い降りた!」公式 (@watatentv) 2019年3月12日
いやさすがに無理かな……
とはいえ、だからこそ子供たちのミュージカルでほぼ全編描き切った最終回は、期待しない角度で良かったし描かれるドラマに安心もできた。もちろん劇中劇そのものの完成度の高さあっての評価だが……
『可愛ければ変態でも好きになってくれますか? ショートアニメ「変好き▽」 』8話(いまざきいつき脚本コンテ演出作画)
日本の商業アニメ媒体で、変則的にとはいえカートゥーンらしいアニメーションを楽しめるとは思わなかったし、純粋に映像として楽しかった。
作中アニメを抜き出してショートアニメとして公開するという形態が、同じように制作素材を公式公開する流れにつながりそうな期待も持てた。
『ひもてはうす』7話 祈りのように続く旅(曽我勇志脚本、湊未来コンテ演出)
声優のアドリブを作品に反映する手法の3DCGアニメの最新版。
今回は劇中で遊んだ百合百合人生ゲームに意外な良さがあった。ゲームとしては単調なすごろくで、コマが進んだ場所ごとに百合作品のお約束を演じるだけなのだが、途中でヨーロッパに舞台を移すという選択肢を出したのが面白い。
セクシャルマイノリティの権利を広げていく社会を謳歌する組と、現代日本に残って偏見と差別に苦しむ組を、それぞれのイベントを淡々と描くだけで、対比ギャグが完成する。笑えて泣ける風刺として切れ味鋭く、かつ百合作品としての密度も濃い。
まさかこんな角度からマイノリティのリアルな苦しみを描いて、デモのような社会運動を楽しく肯定するアニメを成立させられるとは思わなかった。
『コップクラフト』#7 GIRLS ON ICE(賀東招二脚本、板垣伸コンテ、播摩優演出、内田利明/小林大地/吉田智裕作画監督)
原作者の脚本によるアニメオリジナルストーリー。異世界とつながった現代社会の刑事ドラマで、日常に生きる人々を写真に残す。
フェイクドキュメンタリーアニメ『FLAG』へのアンサーのようなエピソード。新興会社で映像リソースが足りないところ、物語の設定で自然に静止画をとりこんで、静と動のメリハリをつくりだした。おかげで作画枚数が少なくてもアクションシーンが成立し、精細でありつつ色数を抑えた背景美術でムードを盛りあげる。
現代社会の苦しみに、それぞれの妥協と信念でむかいあう異国の少女たちというドラマも印象的だった。作者が後に現実の異国の少女に向けたまなざしを思わずいられないが、だからこそ捨てられないところがある。
『ありふれた職業で世界最強』Episode.10 女神の剣(佐藤勝一/𠮷本欣司脚本、友田政晴コンテ、土屋浩幸演出、臼田美夫/田仲マイケル作画監督)
異世界召喚された多数の少年少女のなかでドロップアウトしたひとりを主人公にしたファンタジー。WEB小説ではすでに定着したジャンルであり、すでに『盾の勇者の成り上がり』がTVアニメ化もされている。
基本的には理想や建前を見くだして、冷徹で残酷な世界観をリアルとして描くようなジャンル。しかしこのエピソードは、少年少女を守るべき教職員が、無力さにうちのめされつつ理想を捨てない姿を肯定する。
あくまでアクセントではあるし、こうした教師像もアニメで定着したパターンではあるが*1、OPやEDでもポイントに配置したキャラクターのドラマとして重視されたことも間違いない。
『炎炎ノ消防隊』第参話 消防官新人大会(冨田頼子/蓜島岳斗脚本、寺東克己コンテ、伊藤秀弥演出、高橋敦子/馬場一樹/藤本真由/本多弘幸作画監督)
京都アニメーション放火事件で放送延期されたエピソード。被害者を追悼する冒頭のテロップを見て、一部変更されたOPを見ながら、苦しくとも放送する意義はあると思った。
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本編では明るい訓練のさなかに、暗がりから謎めいた敵が潜入し、若者が傷つけられていく。出崎統演出のような止め絵クローズアップで、にらみあう主人公と敵。動けなくとも一歩も退かない意地。そして戦いが終わり、照明が消され、燃えた建造物が闇に落ち、しかし星空が輝く。主人公は自分たちが組織のなかでも孤立しながら、それでもなお歩んでいくべきと知る。
よく動くアクション作画で楽しませるアニメのようでいて*2、動かさない演出を重視したことが印象的。これも新たなTVアニメの方向性をさぐる動きと感じられた。
『ぬるぺた』第6話 お姉ちゃんかき氷のシロップなに派?(はと脚本、能田健太コンテ演出、薮本陽輔作画監督)
小さな世界で奇妙な関係の姉妹がおりなすSFショートアニメ。初めて外部の第三者に出会う良い話のように見せかけて、モブにノイズが走る不穏感。
話数から予想されたとおりにストーリーの転換点でありつつも、方向性を急変更することで意外性を出せていた。
『兄に付ける薬はない!3-快把我哥帯走3-』EPISODE10 班長的資格(ラレコ脚本監督)
事実上の一党独裁政権がつづく中国の漫画が原作で、子供向けアニメ*3のような生徒会選挙を展開したことが興味深い。
ショートギャグアニメだからこそ徹底的にポピュリズム選挙にはしる主人公が笑える。適当な演説においては熱狂されながら、生活保守的な投票をされて落選するあたり、自然で率直な風刺になっているし、もちろん学園ドラマとしても素直に楽しめる。
何より最後まで眼鏡を外さず、レンズから眼が透けることもない班長が最高。そして悪友たちの最後の会話……「夢見ちゃった奴が入れたんだろ?」……も、ポピュリズムを一部肯定する意外な選挙ネタであると同時に、ほのかな思いを感じさせて良い。
番外:『旗揚!けものみち』第2話 クエスト×魔獣殺し(待田堂子脚本、福元しんいちコンテ演出、栗原学コンテ作画監督、亀山千夏/槙麻里奈/増井良紀作画監督)
コメントされたように『ひもてはうす』が厳密には2018年末放送なので、あえて2019年から選ぶならこの話数。
物語のパターンが早々に固定化されてギャグが弱かった作品だが、2話までは主人公の方向性がさだまらずテンポも良かった。アニメオリジナルらしいオークキングが劇中で最も言葉がていねいなところが、声優の演技とあわさったアニメならではのギャグとして楽しい。
主人公とオークキングのプロレスバトルも、同時期の良好な作画アニメと比べて少し違った手法で激しく動いて、興味深く目を引いた。同様の作画演出が以降も多用されるかと期待したが、それがかなわなかったことで逆に話数単位で番外に選出しておきたい。
もちろん他にも、印象的な話数はあまたある。
たとえば、クラスメイトとその指導者コンビが敵コンビと戦う『僕のヒーローアカデミア』第72話。ちょっと主人公のキャラクターについていきづらくなっている作品だからこそ、目線を変えて素直に応援したくなる戦いが楽しめたし、中村豊が参加していないのに打撃表現が作画として面白かったのも印象深い。指導者の能力に隠されていた真価が発揮された反撃も、敵のひとりのバトルジャンキーな性格も、本筋のドラマの重苦しさをふりはらっていて良かった。ただクライマックスで敵コンビが吹き飛ばされるカットだけが迫力不足で、画竜点睛を欠くような印象で選べなかった。
『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』第10話は、このアニメのアクションの位置づけに感じていた不満がない、数少ない話数。普段はドラマやストーリーが進むのはキャラクターの会話によってで、アクションは長々と描写されても結果の勝敗しか物語にかかわらない。そのため良好なアクション作画はただ動いているだけになり、そもそも主人公本人が戦わない設定もその印象に拍車をかける。このドラマとアクションの分離は、ソーシャルゲームに忠実に映像化しようとしすぎた失敗だろう。しかしこの第10話だけは、乱暴に戦いをふっかけて去っていく敵の奇行で主人公陣営が悩まされるという、はげしいアクションを受けてドラマが動いていくかたちで分離が解消された。
*1:『コップクラフト』と同じ原作者の『フルメタル・パニック!』の最初のTVアニメ化の時点で存在したし、『機動戦士ガンダムUC』でも短い描写だが印象的だった。
*2:他のエピソードもふくめて、ロングショットでキャラクター作画を無理に描きこまないという方針をつらぬいているのも好感をもてた。拡大作画は適宜用いているとは思うが、きちんと引き算された画面は見やすさがある。
*3:『プリキュア』シリーズでは定期的に描かれ、作品ごとの違いが興味深い。『スター☆トゥインクルプリキュア』第35話 ひかるが生徒会長!?キラやば選挙バトル☆ - 法華狼の日記