法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

話数単位で選ぶ、2017年TVアニメ10選

昨年*1よりも年末作品を溜めてしまったし、いつも以上に意外性のない内容になった。
「話数単位で選ぶ、2017年TVアニメ10選」参加サイト一覧: 新米小僧の見習日記
計測しやすいよう、まず各話を先にまとめて、細かい感想は後で。

ドラえもん』天井うらの宇宙戦争(伊藤公志脚本、山口晋コンテ演出、田中薫作画監督、鈴木勤メカ作画監督
僕のヒーローアカデミア(第2期)』第23話 轟焦凍:オリジン(黒田洋介脚本、サトウシンジコンテ、堂川セツム演出、馬越嘉彦作画監督
タイガーマスクW』第24話 再びの猛虎激突!(米村正二脚本、鎌谷悠演出、渡邊巧大/こかいゆうじ/羽山淳一作画監督
血界戦線 & BEYOND』第2話 幻界病棟ライゼズ(加茂靖子脚本、高柳滋仁コンテ、大矢雄嗣演出、稲留和美作画監督、横屋健太作画監督補佐、楡木哲郎アクション作画監督
フレームアームズ・ガール』第4話 迅雷参上!/お部屋づくりは楽しいな(南々井梢脚本、川畑えるきんコンテ演出作画監督
ノラと皇女と野良猫ハート』第10話 先生は、犯人捜しをするつもりはありません(はと脚本、磐田きりんコンテ演出)
18if』第7話 ソシテ ダレモ イナイ…(千明孝一脚本コンテ演出)
タイムボカン 逆襲の三悪人』第9話 水戸黄門日本テレビ水卜アナのビックリドッキリな関係とは!?(永野たかひろ脚本、稲垣隆行コンテ、徐恵眞演出、西村彩/前田亜紀作画監督、城前龍治/川原智弘メカ作画監督
アイカツスターズ!』第84話 夢は一緒に(森江美咲脚本、山地光人コンテ演出、三橋桜子作画監督
3月のライオン』第26話 Chapter.52 てんとう虫の木(2)/Chapter.53 てんとう虫の木(3)/Chapter.54 想い(木澤行人脚本、黒沢守コンテ、岡田堅二朗演出、野道佳代/馬場一樹/西川千尋/松浦力/浅井昭人/藤本真由作画監督

全体をとおして平均的に素晴らしい作品よりも、これだけでも見てほしいエピソードを優先的に選ぼうとしたが、今年は同じ作品でも同じくらい良い話数が多かった。

ドラえもん』天井うらの宇宙戦争(伊藤公志脚本、山口晋コンテ演出、田中薫作画監督、鈴木勤メカ作画監督

リニューアル第2弾のサプライズとして、『機動戦士ガンダムAGE』の山口晋監督が登板。アイデアたっぷりの戦闘と、圧倒的な手描きメカ作画アクションで楽しませてくれた。
『ドラえもん』天井うらの宇宙戦争 - 法華狼の日記
それにしても、よりによってディズニー資本で『スターウォーズ』の新シリーズが再開している時期に、著作権がアレだった原作の3倍増しでパロディを追加しているのが本当にオッカナい。
もちろんリニューアル第1弾も、インターネットの反発をふくめて、あえて現在にアニメ化する意義がある物語と思えたし、映像化としてもよくできていた。
『ドラえもん』ぼくミニドラえもん/ぞうとおじさん - 法華狼の日記
リニューアル直前の、前体制最後の話数も、いつもと変わらない雰囲気でいて、しっかりスペシャルな映像になって楽しませてくれた。
『ドラえもん』ルームスイマー/深夜の町は海の底 - 法華狼の日記
原作でも珍しい成長劇を、より児童文学らしい作品としてブラッシュアップし、冒険要素もボリュームアップしたエピソードも良かった。
『ドラえもん』のび太とアリの女王 - 法華狼の日記

僕のヒーローアカデミア(第2期)』第23話 轟焦凍:オリジン(黒田洋介脚本、サトウシンジコンテ、堂川セツム演出、馬越嘉彦作画監督

2期になって作品のヒーロー像に疑問をおぼえることが増えたが、このエピソードはその疑問点をライバルの基盤に位置づけて、再起の物語として昇華してみせた。
2017年夏TVアニメ各作品について簡単な感想 - 法華狼の日記

概念としてのヒーローを目指すことしかモチベーションがない主人公も空虚だ。ただ、そのような空虚なヒーロー像だからこそ、ライバルと主人公が自己の存在をかけて戦った第23話は、魂がゆさぶられた。

概念としてのヒーローを目指しているだけの主人公が、概念としてのヒーローを見失ったライバルを叱咤する。ライバルは、父を投影して嫌悪してきた自身の肉体を、きちんと自己の肉体として認めることで、いったん父親との決別を完遂する。
そこから始まる決戦と、たがいの承認を描くにあたって、さらに凄味を増した中村豊作画を投入。定番となった氷結エフェクト作画から、高速背景動画に残像表現まで、スピードたっぷりに表現。そこに近年に完成した色面積の変化表現が加わり*2、画面にふたりの激情を映しだした。

タイガーマスクW』第24話 再びの猛虎激突!(米村正二脚本、鎌谷悠演出、渡邊巧大/こかいゆうじ/羽山淳一作画監督

いろいろな意味で面白いエピソードの多いアニメではあったが、素直に全編で高レベルのアクションが楽しめた話数を選んだ。
ベテランレスラーとラスボスの実力的な決戦で前半を楽しませ、ダブル主人公の激突で後半を楽しませる。なぜか『トリコ』につづいて東映本気のアクション作画が見られた。
あと、このエピソードまでのケビンは、悪の組織にいながらも善良で誠実な友人に見えた。以降のケビンのありようも、あれはあれで悪くはないのだが……

血界戦線 & BEYOND』第2話 幻界病棟ライゼズ(加茂靖子脚本、高柳滋仁コンテ、大矢雄嗣演出、稲留和美作画監督、横屋健太作画監督補佐、楡木哲郎アクション作画監督

最終2話は、あまりにも力強いヒーロー譚を正面から描ききった豪腕に感嘆するしかなかった。しかし前後編なので、どちらも入れられないなら落とすしかない。
直前まで選ぼうかと思った第10話も、硬軟あわせもつ素晴らしい完成度だった。母親視点の物語を、高畑勲事務所の女性アニメーター*3がコンテ演出し、考えがおよばない他者の存在を認める結論を静かに語った。雰囲気を台無しにするかのようなオチも、親の見ないところでも子は生きているということの証明だ。
そして第2話は、解決に向けて歩みつづける者にとって、時間は敵ではなく味方だという信念を描いた。他の話数と違っているのは、物語の多くをしめる回想をシネマスコープサイズで見せた演出。もはや変えられないはずの伝説的な物語が、視界を広げることで現在の物語となり、尾を引く問題も解決できる課題へと変わる。絶望する必要はないというメッセージが、アニメならではの表現で提示された。

フレームアームズ・ガール』第4話 迅雷参上!/お部屋づくりは楽しいな(南々井梢脚本、川畑えるきんコンテ演出作画監督

ミリタリ趣味との距離感もふくめて、良い意味で全体をとおして気楽なアニメ。
この回はとにかく一人原画だけでなく一部の動画まで担当するという物珍しさと、それでいて作家性が強すぎず気楽なままの内容が心地よかった。

ノラと皇女と野良猫ハート』第10話 先生は、犯人捜しをするつもりはありません(はと脚本、磐田きりんコンテ演出)

第6話の実写ヤギも唖然としたが、ADVのゲーム画面をそのまま再現したような第10話もすごかった。ほとんど静止画の切り替えでしかない安っぽさが、これはこれでひとつの趣向として楽しめる*4
選択肢を総当たりすることはミステリの楽しみといえるか?という問いをふくんだ途中の失敗も良かったし、最終的な真相もけっこうミステリらしい作りになっていて、パロディであるがゆえメタミステリな観点からも満足できる。けっこう真面目な話。

18if』第7話 ソシテ ダレモ イナイ…(千明孝一脚本コンテ演出)

エピソードごとに監督が交代する趣向とはいえ、ほぼ全編が3DCGの話数が飛び出るとは思わなかった。
残った部分的な作画も千明孝一監督が担当。趣向の挑戦に比べて映像リソースが足りないシリーズを、きちんと単独で見られる作品として引きあげた。
その絵本のように柔らかくも実感あるビジュアルで、ひとつの寓話が描かれる。子供たちの思いが少しずつ社会の壁に折れて歪んでいき、独裁の恐怖が広がっていく。為政者に責任があることは忘れずに、個人の悪意ではなく体制の問題として圧政を描いてみせた。
なお、ネーミングの引用元は、すでに滅びた体制であり、日本の政治体制から考えても危険性は少ないだろう。どちらかといえば、展開や寓意をわかりやすく暗示する位置づけであり、視聴者に気づかれないと困るたぐいの設定だと感じた。

タイムボカン 逆襲の三悪人』第9話 水戸黄門日本テレビ水卜アナのビックリドッキリな関係とは!?(永野たかひろ脚本、稲垣隆行コンテ、徐恵眞演出、西村彩/前田亜紀作画監督、城前龍治/川原智弘メカ作画監督

前シリーズは、教科書にはのらない面白い真歴史を見せるといいながら、否定対象の歴史知識が古くて誤りも多く、想像力の飛躍というよりも歴史モチーフの無意味さを感じさせるだけだった*5
対する今シリーズは、意外な歴史の豆知識を知りながら悪玉と善玉がバカバカしい対決をする構図となり、ぐっと歴史モチーフの重要性と実在感が強まり、それを崩すギャグにも必然性*6が生まれた。
そしてこの第9話は、悪玉と善玉の対決に日本テレビの関係者が乱入。さらに現代にもどって実写のラーメン店を舞台として戦いが始まるという超展開。TVアニメに実写を混ぜる異化効果の前例は多数あるが、実写背景をアニメのキャラクターが歩いたかと思えば、ラーメンを持つ手元を実写で見せたりと、複数の手法を使うことで生まれる違和感がすごかった。

アイカツスターズ!』第84話 夢は一緒に(森江美咲脚本、山地光人コンテ演出、三橋桜子作画監督

2期になって強力な敵対勢力が登場し、アイドルの活動やパフォーマンスで競うことよりも、パフォーマンスの舞台で星のツバサなるものを発現させる争いが本筋になった。そのいかにもなアイテム争奪競争は、ゲームを遊ばない視聴者のひとりとして納得しづらかった。
しかし第84話は主人公と同じ立場にまで昇りながら、星のツバサとは無縁なままのアイドルのドラマ。あくまで観客のためにパフォーマンスをするという本道にたちかえり、尊敬する人物から認められなかった敵対勢力のアイドルを再起させる。
2期に対する違和感を解消しつつ、ふたりのアイドルが観客に向きあうよう変わり、そのためにパートナーたる相手へと近づいていく。たがいに贈る信頼と賞賛の言葉が、脳がしびれるほど濃厚で甘い。まっPのSS*7が電波に流れたのかと思った。

3月のライオン』第26話 Chapter.52 てんとう虫の木(2)/Chapter.53 てんとう虫の木(3)/Chapter.54 想い(木澤行人脚本、黒沢守コンテ、岡田堅二朗演出、野道佳代/馬場一樹/西川千尋/松浦力/浅井昭人/藤本真由作画監督

ほぼ原作通りで、逸脱はしていないし、描写の増減もほとんどない。だからこそ、できるだけ原作の良い部分を尊重したいのだろう、という印象を受けた。
シャープでソリッドなデザインが通例の新房昭之監督作品が、名倉靖博の参加によって柔らかさを獲得。その優しさが最も絵として活用されるのが、知人の受けたイジメを主人公が知る時。先にイジメられていた同級生も、背景世界に溶けていく。暖かく見える社会に逃げ場なく組みこまれる恐怖。
もちろん、柔らかく包みこむ社会にあらがおうとする動きもある。その動きを心の底から感謝しようとする主人公がいる。過去が現在に救われることで、現在が未来に救われる希望が生まれた。


全体として、その1話で作品全体やアニメ表現の枠組みを壊したり、懐疑するつくりのエピソードを選ぶこととなった。
悩みながら落とした話数として、ヒーローの継承がリアルへつながった『キラキラ☆プリキュアアラモード』第31話*8、後半でサブレギュラーの記憶を彫り描いた『うらら迷路帖』第7話、主人公がとにかく尖っていた『覆面系ノイズ』第1話、たぶん今年で最も笑った『徒然チルドレン』第8話、作中絵の説得力の高さが主人公のドラマを支えた『NEW GAME!!』第6話*9、1期のキレが少し戻った+百合の『おそ松さん』第12話なども良かった。
しかし今年は全話のコンセプトと完成度が統一されている作品が多くて、知られざる名エピソードだけでも紹介したいということが少なかった。ある意味で全話がすごくて選べなかった『ヘボット!』などが代表。ショートアニメも、枠組みは実験的でも『信長の忍び』や『まけるな!!あくのぐんだん!』のように、全体に見どころを散らした作品が多かった。

*1:話数単位で選ぶ、2016年TVアニメ10選 - 法華狼の日記

*2:『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜THE LAST SONG』第15話 宇宙を臨むもの - 法華狼の日記から印象に残り、2016年の話数単位ベストテンにも選んだ。

*3:叶 精二(Seiji Kanoh) on Twitter: "ナレーション〜竹を切る翁〜光る竹〜翁の掌の中の姫まで、冒頭32カットは佐々木美和さん。 佐々木さんは高畑勲監督の個人事務所「畑事務所」所属の唯一のアニメーター。スタジオジブリ出身でなく、大塚康生さんの推薦で専門学校から直接畑事務所に。"

*4:なお、別の話数単位ベストテンを読むと、今年はゲーム画面をそのまま放映しつづけた作品もあったらしい。話数単位で選ぶ、2017年TVアニメ10選 - ぬるヲタが斬る -

*5:『タイムボカン24』はシリーズ構成の脚本が最もダメな気がする。 - 法華狼の日記

*6:異世界シャワーをめぐる論争を見ていて、必然性や呼称の軽視にもやもやする - 法華狼の日記の文脈。

*7:アニメ公式ツイッターアカウントで展開された、賛否両論で空前絶後の広報手法。

*8:『キラキラ☆プリキュアアラモード』第31話 涙はガマン!いちか笑顔の理由! - 法華狼の日記

*9:『NEW GAME!!』のコンペで描かれたキービジュアルの説得力が素晴らしかった - 法華狼の日記