今年は映画の消化を優先したため録画をためている作品が昨年以上に多く、せまい視聴範囲から選んだことを最初に断わっておく。
「話数単位で選ぶ、2018年TVアニメ10選」参加サイト一覧: 新米小僧の見習日記
まず各話を先にまとめて、細かい感想は後で。
『ドラえもん』クジラとまぼろしのパイプ島(福島直浩脚本、山口晋コンテ演出、田中薫/三輪修/志村隆行/桝田浩史作画監督)
『ゾンビランドサガ』第2話 I♡HIPHOP SAGA(村越繁脚本、石田貴史コンテ演出、崔ふみひで総作画監督)
『ゲゲゲの鬼太郎』第15話 ずんべら霊形手術(井上亜樹子脚本、角銅博之演出、小泉昇作画監督)
『ルパン三世 PART5』第24話 ルパン三世は永遠に(大河内一楼脚本、矢野雄一郎コンテ演出、酒向大輔総作画監督)
『りゅうおうのおしごと!』第七局 十才のわたしへ(志茂文彦脚本、朝倉カイトコンテ演出、矢野茜総作画監督)
『ダーリン・イン・ザ・フランキス』13話 まものと王子様(林直孝脚本、高雄統子コンテ、岡本学演出、田村里美/川妻智美/小林由美/杉薗朗子/竹田直樹/野々下いおり/宮崎詩織/西位輝実作画監督)
『HUGっと!プリキュア』第16話 みんなのカリスマ!?ほまれ師匠はつらいよ(村山功脚本、渡邊巧大コンテ作画監督、川崎弘二演出)
『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』第七話 大場なな(樋口達人脚本、古川知宏コンテ、塚本あかね演出)
『アニマエール!』#3 チア同好会、恋の応援(志茂文彦脚本、荒井省吾コンテ演出、山本恭平/渡辺舞/小倉寛之作画監督)
『グランクレスト戦記』第24話 皇帝聖印(中本宗応脚本、畠山守コンテ演出、木村延景演出、矢向宏志/徳田大貴/野間聡司/山田俊太郎/佐藤 好/ぐんそう/斉藤準一/木藤貴之/石川洋一/川村夏生/米澤 優/井元一彰/川粼玲奈)
埋もれたエピソードをほりおこすという企画の理念にそって、1作品1話数というかたちで選出したが、今回は例年よりもメジャーな作品ばかりとなった。
『ドラえもん』クジラとまぼろしのパイプ島(福島直浩脚本、山口晋コンテ演出、田中薫/三輪修/志村隆行/桝田浩史作画監督)
山口晋コンテ演出によるアニメオリジナルストーリーの誕生日スペシャル。これまで以上に素晴らしいアニメーションで、異物を包摂する社会を力強く描いた。
『ドラえもん』クジラとまぼろしのパイプ島 - 法華狼の日記
見事な構成と作画で設定を説明しきっているからこそ、ひとつだけ設定が不明瞭なことが意図的だとわかる。下手に敵を出さず、ディザスタームービーに徹したのも良かった。
山口晋回では、のび太がヒーローとなる西部劇へのオマージュ短編に、銃火器のディテールを細かく足しつつ、ヒーローに依存する西部劇への批判をおりこんだアレンジ回も良かった。
『ドラえもん』ガンファイターのび太 - 法華狼の日記
福島直浩脚本のアニメオリジナルストーリーとしては、ぶんぶく茶釜をパロディしたエピソードも印象深い。短い時間に、SF時代劇ミステリの妙味が凝縮されていた。
『ドラえもん』ぶんぶくドラ釜/一生に一度は百点を… - 法華狼の日記
『ゾンビランドサガ』第2話 I♡HIPHOP SAGA(村越繁脚本、石田貴史コンテ演出、崔ふみひで総作画監督)
ホラーからコメディへの転調といったサプライズに満ちた第1話の後で、戦隊パロディとキッチュをくみあわせたOPの絶大なインパクト。
前回のようなサプライズで話を転がすことはできないのに、ちゃんと笑えるテンポをたもったまま、違ったかたちのライブを成功させる説得力。
ゾンビ少女の過去をとおして物語を進めていく3話以降のフォーマットも良いのだが、第2話は他のエピソードにない魅力がある。
『ゲゲゲの鬼太郎』第15話 ずんべら霊形手術(井上亜樹子脚本、角銅博之演出、小泉昇作画監督)
幸福はどこまでも自分自身のものだという結論がすごかったし、過去のアニメ化より美麗なキャラクターデザインと作画が物語の説得力を絵で支えていた。
『アニメージュ』の特集インタビューによると、やはり脚本家が主導したエピソードだという。もともと別の原作で描こうとした物語に、より適合する原作を提示されるという順序で作られたそうだ。
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もちろん、若手の女性脚本家ならではの視点を許して*1支えた他スタッフの仕事も素晴らしいものだ。
『ルパン三世 PART5』第24話 ルパン三世は永遠に(大河内一楼脚本、矢野雄一郎コンテ演出、酒向大輔総作画監督)
実は『ルパン三世』がくりかえしテーマにしている、現代社会における怪盗成立の困難性を、もともと原作にあるルパンのアイデンティティー描写で回答成立させたことに感心した。
他にも、PART5の序盤をひっぱりながら中盤で舞台をしりぞいたアニメオリジナルの少女アミを、たったひとことでPART5を象徴するキャラクターと示したギミックにも本気で驚かされた。
『りゅうおうのおしごと!』第七局 十才のわたしへ(志茂文彦脚本、朝倉カイトコンテ演出、矢野茜総作画監督)
天才少年の主人公が、より才気あふれる幼い少女を教えていく物語。その折り返しでこのエピソードをアニメ化したシリーズ構成がいい。
基本的に奇人変人超人ばかりの物語に、ずっと天井にぶつかってきた先輩弟子の女性のドラマを挿入。ぐっと勝負の世界の裾野が広がり、歴史の蓄積を裏打ちする。それが若き主人公たちの進んでいる地点のすごさを理解させる基準にもなる。人間としては善良で優しいが、棋士としては弱くて汚い女性の人物像も印象深い。
まるで幼女にしか興味がないかのように誤解されている主人公が、ちゃんと大人になりたい少年なのだと示したのも地味に安心感があって良かった。
『ダーリン・イン・ザ・フランキス』13話 まものと王子様(林直孝脚本、高雄統子コンテ、岡本学演出、田村里美/川妻智美/小林由美/杉薗朗子/竹田直樹/野々下いおり/宮崎詩織/西位輝実作画監督)
TRIGGERのシャラクサさとA-1 Picturesのウェルメイドさが不思議なマリアージュをかもしだしている、ディストピアジュブナイルロボットアニメ。
その前日譚にあたる第13話は、独立したボーイミーツガールとしても楽しめるし、それまでのヒロインの奇矯な言動の謎が解かれていくエピソードでもある。こういう前日譚を最後まで独立したかたちで描ききることは意外と珍しいので、そこを評価した。終盤で明かされた設定を考慮すると、初見と違った味わいが生まれるのも面白い。
あまりロボットアニメとしての魅力はないが、そこは作品全体もそうだから問題に感じなかった。
『HUGっと!プリキュア』第16話 みんなのカリスマ!?ほまれ師匠はつらいよ(村山功脚本、渡邊巧大コンテ作画監督、川崎弘二演出)
TVSP『ONE PIECE〝3D2Y〟』*2で存在を知った若手アニメーター、渡邊巧大のコンテ回。
『HUGっと!プリキュア』第16話 みんなのカリスマ!?ほまれ師匠はつらいよ - 法華狼の日記
サブスタッフによるサブキャラ主軸のストーリーだが、その構造が応援をテーマにした今作にぴったり合致している。
TVアニメでは難しいものの奇をてらいすぎないコンテで、ストーリーの良さを自然に味わえた。
『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』第七話 大場なな(樋口達人脚本、古川知宏コンテ、塚本あかね演出)
『輪るピングドラム』で脚本やコンテをつとめた古川知宏が監督で、『ユリ熊嵐』に参加した小出卓史が副監督と、幾原邦彦監督の影響を受けているだろうスタッフによるTVアニメ。
幾原邦彦作品や関係の深い榎戸洋司作品であれば大人と子供の世代対立で物語を進めそうなところ、この第7話で明かされた黒幕が同じ世代の子供だったのが興味深かった。子供を利用したい大人ではなく、子供でいたい大人でもなく、子供のままでいたいと子供の時点で願うということ。
同年の『HUGっと!プリキュア』と同じ未来モチーフで、黒幕のモチベーションが同じというシンクロニティも興味深い*3。さらに驚いたことに、上記の第16話でパートナー的キャラクターとなる眼鏡の委員長の名前が「十倉じゅんな」で、この第七話でパートナー的キャラクターとなる眼鏡の委員長の名前が「星見純那」と、偶然にしても一致しすぎている。
『アニマエール!』#3 チア同好会、恋の応援(志茂文彦脚本、荒井省吾コンテ演出、山本恭平/渡辺舞/小倉寛之作画監督)
4コマ漫画原作で、頭身が低めのキャラクターデザインながら、しっかり初心者なりのチアリーディングを描いているTVアニメ。そこであえて本道ではなく、同好会を周知するために何でも応援するエピソード。
少女の恋を応援する時に彼氏彼女の関係と主人公チームが語るが、実際の思慕の相手は女性だった。その行き違いが重いトラブルになりそうに見せて、そうならない。
まだ同性愛が無意識に除外されてしまう時代だが、偏見による蔑視や異端視は内面化されずに話がつづいていく。そんな境界線上の描写が、偏見を前提視するか全無視するかのどちらかになりがちなアニメでは珍しくて印象に残った。
『グランクレスト戦記』第24話 皇帝聖印(中本宗応脚本、畠山守コンテ演出、木村延景演出、矢向宏志/徳田大貴/野間聡司/山田俊太郎/佐藤 好/ぐんそう/斉藤準一/木藤貴之/石川洋一/川村夏生/米澤 優/井元一彰/川粼玲奈)
知らない世界の大河ドラマのような語り口で、ダイジェストのように淡々と命が安く散っていく作品。しかし第1話の崎山北斗原画を初め、田中宏紀原画回や徳田大貴コンテ回など、意外と作画アニメとして見どころが散らばっている。
その本筋の地域間対立がほとんど終わり、「戦記」という枠組みの外を主人公たちだけが知る最終話を選んだ。堅苦しいジャンルが壊されていく面白味と、そこで明かされる事実が主人公たちの達成に釘を刺す一抹の苦さ。国家間の戦争ではないため、ボーナストラックのように気楽にアクションを楽しめるエンタメとしての良さもある。
たぶんこの作品を話数単位に推す人は少ないだろうし、最終話を推す人はさらに少ないだろう。単独作画回としては『BORUTO -ボルト-』第65話や『ブラッククローバー』第63話などが有名だろうし、たぶん歴史的にも推すべきだろう。だからこそ作画アニメが好きならば一度は確認してほしいTVアニメとして、ここで選んだ。
*1:シリーズディレクターが若いこともあり、各話スタッフをやや放任しているため、社会派テーマを多くとりあつかったTVアニメにしては不安定という問題もあるが。