法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』未来の迷宮(ラビリンス) おかし城(キャッスル)/謎のピラミッド!?エジプト大冒険

「お引越し記念! ドラえもん誕生日スペシャル」と題し、中編2作を合わせた2時間SP。
ただし後半の中編「謎のピラミッド!?エジプト大冒険」は2年前の誕生日SPの再放送。
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金曜レギュラー最後の放送ではあるが、新作SPが期待よりおとなしい内容だったこともあり、ちょっとさびしさを感じた。
枠移動後の新展開告知ショートアニメは、ギャグがキレキレで楽しかったが、それもどこかカラ元気な印象があった。


「未来の迷宮(ラビリンス) おかし城(キャッスル)」は、のび太がスイーツ工房の1日1組の限定チケットを、誕生日のドラえもんのために入手してやる。
音符とマカロンが合体した形のタイムマシンに乗って、テーマパークのような巨大工房に向かう5人。しかし工房で歓待を受けながら、少しずつ異変が起きていく……


コンテ演出は誕生日SPで初の堂山卓見。「温泉旅行」のアニメ化*1等で、日常と異なる情景描写が印象深い演出家だ。
オートメーション工場をポップに巨大化したような「おかし城」の美術デザインは平凡だが、実在感や巨大感をていねいに描写しているので成立している。ベルトコンベアが動きつづける風景に、豆粒のようなキャラクターをロングショットで入れこむ。
舞台の全容をわかりやすく描いているから、一転してホラー演出が始まった時に状況の全体を見せないコンテが不安感を増す。わずかな回想シーンも情感たっぷり。
お菓子にも独立した設定や作画監督を立てて、ちゃんと菓子が目に楽しく美味しそう。同じキャラクターをモチーフとした等身大の菓子を、色設定や描線でちゃんと材質ごとに差別化できているのも良い。
ただ作画は過去の誕生日SPの水準と比べて落ちていて、通常エピソードより少し安定して動くくらい。アクションで目を引いたのはタケコプターで空から攻撃しはじめるシーン他わずかで、期待と比べて少なかった。


脚本は2017年のリニューアルから重要回を担当してきた鈴木洋平
ラップ調のポップな言動で製菓にすべてをささげるパティシエのミスターマキャロンと、気弱な猫型ロボットの助手キャンディの愛憎いりまじる師弟関係のドラマを描く。
どんな動物でも投げられたら食べる秘密道具「桃太郎印のきびだんご」を、黄緑のライオン「モンブラン」が食べなかったことでサスペンスがつづく展開が印象的。原作設定を壊す描写かと思いきや、工房に隠れ住んで菓子ばかり食べていたため虫歯だらけで人を食えないという描写が直後にあり、なぜ秘密道具を食べなかったのか台詞で説明されなくても理解できる。
キャンディが一度も誕生日を祝ってもらえなかったという事件の背景も、謎めいたミスターマキャロンが実際は善良な職人という中盤の展開と齟齬があるかと思いきや、ゴミ捨て場でキャンディを拾った回想ひとつで「誕生日」という認識がなかったことを暗示する。おまけでモンブランの来歴と、キャンディの負い目にも説明がつく。
今回はドラマのテンションこそ低めだが、こうした台詞にたよらない謎解きが多く、ていねいに違和感をつぶしていたのは好みだった。