録画をためている作品もいろいろあるが、それでも特別に紹介したいエピソードはいくつもある。
「話数単位で選ぶ、2015年TVアニメ10選」参加サイト一覧: 新米小僧の見習日記
ルールは下記のとおり。
・2015年1月1日〜12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。
昨年はアップロードが1秒遅れのためか計測からもれてしまったこともあり、今年は少し早く参加。
話数単位で選ぶ、2014年TVアニメ10選 - 法華狼の日記
計測しやすいよう、まず各話を先にまとめて、細かい感想は後で。
『ドラえもん』のび太のダンボール宇宙ステーション(たかはしあつし脚本、高橋敦史コンテ演出、田中薫作画監督)
『デス・パレード』#6 クロス・ハート・アタック(立川譲脚本、宍戸淳コンテ演出、東亮太/Eum Ik-hyun/栗田新一作画監督)
『怪盗ジョーカー』第20話 トラベリング・ジョーカーズ(佐藤大脚本、山下明彦コンテ演出、鈴木伸一作画監督)
『聖剣使いの禁呪詠唱<ワールドブレイク>』4話 白騎士強襲-The Silver Knight-(井上美緒脚本、平田智浩コンテ、のりみそのみ演出、安達祐輔/武本大介/興石暁作画監督)
『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEレボリューションズ』Op.13 マジLOVEレボリューションズ(金春智子脚本、福田道生コンテ、嵯峨敏演出、森光恵/藤岡真紀/蘇武裕子/落合瞳総作画監督、神本兼利/松本文子/高田晃/福世真奈美作画監督)
『Charlotte』第一話 我他人を思う(麻枝准脚本、浅井義之コンテ演出、中村深雪/杉光登作画監督)
『血界戦線』#終 Hello,world!(古家和尚脚本、松本理恵コンテ演出、数井浩子/佐藤育郎/向井雅浩/ヤマトナオミチ演出協力、杉浦幸次/長谷部敦志/林宏一/佐藤千春/長谷川ひとみ/川元利浩作画監督、橋本敬史エフェクト作画監督)
『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』第9話 果てしなき家族の果て(辻真先脚本、吉田徹コンテ、孫承希演出、稲留和美作画監督)
『新妹魔王の契約者 BURST』第09話 見果てぬ夢のその先に(植竹須美男脚本、池端隆史コンテ演出、油井徹太郎/わたなべよしひろ総作画監督、合田浩章作画監督)
『学戦都市アスタリスク』第12話 グラヴィシーズ(菅原雪絵脚本、小野学コンテ、嵯峨敏演出、川上哲也総作画監督、針場裕子/石川洋一/橋口隼人作画監督)
例年のように、全体をとおして平均的に素晴らしい作品よりも、これだけでも見てほしいエピソードを選んだ。
『ドラえもん』のび太のダンボール宇宙ステーション(たかはしあつし脚本、高橋敦史コンテ演出、田中薫作画監督)
高橋敦史監督が初脚本もつとめたアニメオリジナルの宇宙SF。現代の宇宙技術を子供たちが手づくりするという趣向をつらぬき、軌道力学の緻密な考証が救出劇のサスペンス性を高めるという、設定と映像と物語の理想的な協力関係があった。
『ドラえもん』のび太のダンボール宇宙ステーション - 法華狼の日記
宇宙ステーションを手づくりしていく光景や、ステーション内の無重量描写、ステーションの回頭するていねいな作画なども緻密で楽しい。舞台を制限しているからこそ、宇宙空間にまつわる描写を濃密につめこんでも散漫にならない。
一方、同じ高橋敦史コンテ演出の誕生日SPは、当然のように映像はすばらしかったし、列車の緻密な描写にも感心したが、各要素のむすびつきが弱かった。
『ドラえもん』のび太特急と謎のトレインハンター - 法華狼の日記
他に良かったのは5月22日と11月27日。オリジナル性の高いエピソードをならべつつ、きちんと原作の味わいを現代アニメに移しかえていて、すべてに見どころがあった。
『ドラえもん』ラッキーやかん/なんでもぬいぐるみに…/大人になりたい - 法華狼の日記
『ドラえもん』のび泥棒をタイホせよ!/あの子を笑わせろ! - 法華狼の日記
『デス・パレード』#6 クロス・ハート・アタック(立川譲脚本、宍戸淳コンテ演出、東亮太/Eum Ik-hyun/栗田新一作画監督)
公的支援の若手アニメーター育成プロジェクト「アニメミライ」で映像化された『デス・ビリヤード』をもとにしたオリジナルTVアニメシリーズの一本。
ふたりの死者にゲームをさせて、その結果で天国か地獄かの行き先を決めるのが作品のフォーマット。しかし裁定される側の視点だった『デス・ビリヤード』に対して、裁定する側の視点で描かれているため、全体として緊張感に欠けていた。裁定側の設定を明かしているため、『デス・ビリヤード』のリドルストーリーとしての魅力まで失われてしまった。
しかしこの第6話は、アイドルとギャルという関係から、意外なコメディ展開を見せていく。あまりにもバイタリティあるギャルの行動が、裁定する側と視聴者の予測を超えつづける。シリアスぶった悪趣味な作品フォーマットを、自己批判的に笑い飛ばす良さがあった。
『怪盗ジョーカー』第20話 トラベリング・ジョーカーズ(佐藤大脚本、山下明彦コンテ演出、鈴木伸一作画監督)
『ジャイアントロボ THE ANIMATION〜地球が静止する日〜』のメインアイテム「シズマドライブ」そっくりな「シグマドライブ」を争奪する物語。それで時空を飛ばされた江戸時代でニンジャと戦い、腕のデザインなどがそっくりな巨大ロボットと決戦もする。
http://s.mxtv.jp/joker/episode.php?epi_num=20
もともと原作にあるエピソードなのだが、だからといって『ジャイアントロボ』キャラクターデザインの山下明彦をコンテ演出に呼ぶわ*1、ほとんどの第一原画を描かせるわ*2、安直すぎるスタッフワークが頭悪くて笑うしかない。それで完成したエピソードそのものの出来が文句のつけようがないのだから笑うしかない。
アクションは細かく動きつづけ、ロボットの巨大感と重量感も充分。さらに印象的なのはカレイの煮つけの柔らかさと、残された骨の正しさ。そこでのニンジャのやりとりが、後日のエピソードで伏線として回収される。原作の前半を省略しているらしいが、おかげで冒頭から盗みが成功した上でライバルとの対決がすぐはじまるという導入もスピーディ。独立したストーリーとしての完成度も高い。
それにしても、同じ寺本幸代監督とシンエイ動画制作によるアニメオリジナルストーリー映画『ドラえもん のび太のひみつ道具博物館(ミュージアム)』*3も『ジャアントロボ』に似ていたが、つづけてパロディとしかいいようのない物語をアニメ化することになるとは。
『聖剣使いの禁呪詠唱<ワールドブレイク>』4話 白騎士強襲-The Silver Knight-(井上美緒脚本、平田智浩コンテ、のりみそのみ演出、安達祐輔/武本大介/興石暁作画監督)
2014年の話数単位で選んだ『幕末Rock』にまさるともおとらないバカアニメ。なかでも2015年にもっとも笑いつつ納得できた「僕は不死身さ!」「不死身なら転生してんじゃねえ!」のかけあいがある第4話を選んだ。
1話で演舞する教師キャラクターの動きが最も作画がマシなくらい、映像は終始ひどいというか制作リソースの注ぎどころがおかしいのだが、「綴る!」「思い……出した!」「思い……出せない」「我ら、救世の剣なり!(以下省略)」等々のメイ台詞を連発した勢いで最終回まで駆け抜けていった。次から次へバラエティあるネタをぶっこんできて飽きることがない。そのくせ細かいところにまで愛情がそそがれている。特に前世が妹のキャラクターが、あまりにバカっぽくて色気のかけらもなく、よくある妹キャラクターより妹っぽかったことが印象深い。
『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEレボリューションズ』Op.13 マジLOVEレボリューションズ(金春智子脚本、福田道生コンテ、嵯峨敏演出、森光恵/藤岡真紀/蘇武裕子/落合瞳総作画監督、神本兼利/松本文子/高田晃/福世真奈美作画監督)
TVアニメ『うたプリ』シリーズも3期に入り、先輩後輩のやりとりで芸能界物らしい展開を見せていく。しかしシリーズ1期で衝撃をあたえたダンスシーンが精彩を欠いていたり、真面目なテーマで比べると同期の『少年ハリウッド-HOLLY STAGE FOR 50-』に見おとりしてしまう。
しかし最終回、最後の最後で決着をつけようとした瞬間、3期のメインストーリーをちゃぶ台返し。バカアニメとしての本性をあらわして逃げきってしまった。それでいて少年漫画的なパターンとしても成立していて、意外と男性アイドル対決物という構図が崩れていない。このエピソードだけでも楽しいし、1期からつづく壮大なサーガの一幕としても印象深い、真面目な話。
『Charlotte』第一話 我他人を思う(麻枝准脚本、浅井義之コンテ演出、中村深雪/杉光登作画監督)
エピソードをかさねるにつれて世界観も倫理観も崩壊していった作品だが*4、だからこそ独立して視聴するエピソードとして初回のすばらしさがきわだつ。
2015年夏TVアニメ各作品の序盤について簡単な感想 - 法華狼の日記
ちょっとした超能力を完全に私利私欲のため主人公が活用する第1話は、能力の応用と失敗にバラエティがあって楽しいし、ダメなことをちゃんとダメと描いているから楽しめた。しかし2話になってシリアス描写が多くなると、ギャグ描写との整合性が気になるばかり。シリアスを構成する作品世界を守りながらギャグを展開することができないのか。
スコシフシギな日常SFとして、せせこましいピカレスク物として、初回だけは本当に楽しいものだったのだ。
『血界戦線』#終 Hello,world!(古家和尚脚本、松本理恵コンテ演出、数井浩子/佐藤育郎/向井雅浩/ヤマトナオミチ演出協力、杉浦幸次/長谷部敦志/林宏一/佐藤千春/長谷川ひとみ/川元利浩作画監督、橋本敬史エフェクト作画監督)
1時間枠に拡大した最終回。特別編などをはさんで本放送では間にあわなかったが、待たされた不満をふきとばす充実の最終回だった。
『血界戦線』#終 Hello,world! - 法華狼の日記
ボンズ制作だけあって映像は高位安定していたが、負けないくらい会話劇がすばらしい。アニメオリジナルの最終回だが、まったく違和感なく響いた。
たとえば、ふたりの「Z」が主人公にかける言葉が、その表層は正反対のようでいて主人公の精神への評価は共通しているところ。最も身近な先輩という立場、主人公より新入りな後輩という立場、だからこそかけることのできる言葉。
あるいは、絶望王の言葉を主人公が行動で乗りこえるところ。英雄性を認めて形だけ慰める敵の言葉に、諦める必要などないのだと反論する。そう語る言葉そのものが、すでに先達から英雄性をうけついでいるという証明。
『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』第9話 果てしなき家族の果て(辻真先脚本、吉田徹コンテ、孫承希演出、稲留和美作画監督)
不死身の家族の物語を、不死身のように現役なままの作家*5に担当させるという安直すぎるスタッフワーク。それでつくられたストーリーの完成度がしっかり高いのだからたまらない。
『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』第9話 果てしなき家族の果て - 法華狼の日記
いつも以上に歴史事件をモデルとしてとりこみつつ、不死身の家族のパロディに、同じく戦後日本にそびえる別作品のパロディをつなぎ、融合させた。それでいて独立したエピソードとして完結している。真珠湾攻撃が重要なモチーフだったが、計算されたように放映時期もぴったり。
この作品では第3話も作品コンセプトを活用して最後の対決に収束する展開と、その対決のアニメーションが印象深い。選ばなかったのは前後との連続性が高いのと、ミスディレクションが弱かったため。
『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』第3話 鉄骨のひと - 法華狼の日記
『新妹魔王の契約者 BURST』第09話 見果てぬ夢のその先に(植竹須美男脚本、池端隆史コンテ演出、油井徹太郎/わたなべよしひろ総作画監督、合田浩章作画監督)
とにかく合田浩章作画監督による整った作画につきる。大城勉の降臨だけが映像面での救いだった『ISUCA-イスカ』ほどではないが、全体として作画がヘタレているTVシリーズ。その最終回1話前に、いつもより少なくクレジットされた作画スタッフで、高度に統一された絵を見せてくれた。迷いのない描線に、瞳の絶妙な立体感と、正面から映した時に鼻筋を描かずに穴ふたつで表現していたのがポイント。
STORY S2 | 新妹魔王の契約者
ストーリーも案外と良い。場面が多いわりに主人公がいあわせないため、あまり他の回では機能しなかった性的サービスシーン。それを思いきり少なくして、ライバルとのホモソーシャルな対決に注力。ずっと全力の激闘を描いた上で、ヒロインの「新妹魔王」としての出番をクライマックスに配置するという構成がシンプルで美しい。
『学戦都市アスタリスク』第12話 グラヴィシーズ(菅原雪絵脚本、小野学コンテ、嵯峨敏演出、川上哲也総作画監督、針場裕子/石川洋一/橋口隼人作画監督)
序盤が『落第騎士の英雄譚 A TALE OF WORST ONE』と似ている似ていないで話題になっていたらしい作品*6。比べるとビジュアルもストーリーも淡白で、分割2クール作品らしいのでトーナメントの途中で終わってしまったが、最終回のクライマックスに崎山北斗作画をもってくるというサプライズで大笑い*7。
まず、自分のもつ武器に視線をやり、確信をもって敵に向かう主人公……
手描きタッチ演出までなら珍しくはないが、刀をふりあげた場面の短足ぶり……
真面目な顔をして刀をふるう。たしかに表情は鬼気迫っているが……
刀のふりおろしを完璧な陰影で作画した技術力……最高すぎる……
『STAR DRIVER 輝きのタクト』最終回は、統一のため原画を修正する仕事のメカ作画監督が、あがってきた原画をチェックしても爆笑して素通しするだけだったという。それほど実力あるアニメーターがつどい、自由に個性を発揮していた。それでも崎山北斗作画は大きく修正されてしまったという*8。その伝説を思い出させる素晴らしさだった。
2015年は良い作品は平均して全てのエピソードが絵も話も安定しているか、前後との連続性が強すぎて、突出した印象がないものばかりだった。そのため全体として好みの作品だった『夜ノヤッターマン』『少年ハリウッド-HOLLY STAGE FOR 50-』『ノラガミARAGOTO』等から1話だけ選ぶことが難しかった。
それでも話数単位で他に印象深かったものは他にもある。戦にこがれる地方領主視点で新王の内政と戦略を印象づけた『暁のヨナ』第十六話に、中世の集団戦闘をTVアニメで描ききりつつ主人公の一矢にすべてを収束させた第二十二話。インフェルノコップ調ではなく水墨画調で決めた『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』第5話に、原作調の止め絵とアニメをスムースに移行した最終話。多対多の戦闘の決着に厚みのある背景動画をもってきた『ワールドトリガー』第三十四話*9。作家性を出すのではなくローテーションを救うためでもなく通常通りの高密度の画面を一人原画でつくった『ハイキュー!! セカンドシーズン』第4話。もちろん物語も良かったが、どれも映像面で頭ひとつぬきでていた。
*1:『怪盗ジョーカー』キャラクターデザインの下笠美穂とは夫婦。
*2:元情報のツイートは消えているが、作画@wikiに情報が掲載されている。山下明彦 - 作画@wiki - アットウィキ
*3:こちらのエントリとコメント欄で細かく言及。『ドラえもん クレヨンしんちゃん 春だ!映画だ!3時間アニメ祭り』消費税が上がるゾ/アイドル先輩が来たゾ/チョコビアイスが食べたいゾ/2013年春公開「映画ドラえもん のび太のひみつ道具博物館(ミュージアム)」 - 法華狼の日記
*4:『Charlotte』の底抜け倫理観に腰が抜けた - 法華狼の日記
*5:2015年には『名探偵コナン』にも登板し、ミステリ作家らしい大トリックを展開した。たぶん偶然だろうが、原画にボンズが入っていた。『名探偵コナン』File.768 灰原哀監禁事件 - 法華狼の日記
*6:『アニメスタイル』の2015年ニュースでもとりあげられているほど。ニュースで振り返る2015年アニメ界節目を感じさせる象徴的な出来事が相次ぐ | WEBアニメスタイル
*7:それぞれ映像がはじまって13分31〜34秒、13分43〜47秒、14分6〜7秒、14分7秒からキャプチャ。配信終了してしまったが、映像はGYAO!から。http://gyao.yahoo.co.jp/p/00548/v12180/
*8:20110724ロフトアニメスタイル『STAR DRIVER』最終回・作画コメンタリー - Togetterにアニメスタイルイベントのレポートがまとまっている。