法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

庵野秀明監督が実写版『キューティーハニー』を撮っていたころ、山賀博之監督は『まほろまてぃっく』を作っていた

一時代を築いたスタッフが抜けてカラーやトリガーといった新会社をつくり、のれんをわけるようにガイナックスの名前をつかう小さな会社も乱立して、数年がたつ。
そして、ほとんど名前しか残っていないガイナックスの新社長に就任したばかりの男性が、今月頭に逮捕された。容疑段階とはいえ、ひどい性的加害と思わざるをえない内容*1が報じられている。
www.jiji.com
多くの報道でアニメ企画・制作会社と紹介されているものの、この新社長が就任してからは、まとまったアニメ作品は発表されていない。
それもあってか、会社が過去に手がけて最も有名だった作品名『新世紀エヴァンゲリオン』の名前が報道によく使われている。


そこで別会社をたちあげてシリーズ新作をつくっている庵野監督が、作品は現在のガイナックスと無関係と強調する文章を寄稿していた。
diamond.jp
新世紀エヴァンゲリオン』を中心に、もともと監督は他社で制作するつもりだったこと、監督にたのんで制作したガイナックスは出資はしていなかったこと、それでもTV版が大ヒットしたことで会社はたてなおせたものの放漫経営がつづいたことなど、庵野監督の視点で赤裸々につづられている。

経営が傾いて「来月にはショートする」と毎月のように言われるようになりました。2003年から2004年頃だったと思います。そうなってはじめて僕も取締役らしいことをしようと社内状況を書類や数字で確認したのですが、その内容には大変驚きました。

何度目かの危機にあったガイナックスの経営は、取引先の大手企業2社からの増資と『エヴァ』のパチンコ化による収入で2004年に持ち直します。持ち直すとまた浪費癖が出てきます。経営陣は、将来性が見えない事業を始めたり、無理して継続させているような事業を凍結もせずに押し進めたりしていました。

ここで取締役としてさまざまな意見をあげたが聞き入れられず、2006年に新会社カラーをたちあげて『新劇場版ヱヴァンゲリヲン』シリーズの制作を始めたという。ガイナックスの内部事情として、興味深く重要な資料であることは間違いない。


ただ少し気になるのが、2003年ごろから2007年に退職するまで、庵野監督が何を作っていたのかということ。
思い出されるのが永井豪の漫画を実写映画化した『キューティーハニー』だ。主題歌をカバーした倖田來未こそブレイクしたが、数年かけて制作しながら興収はふるわず、製作会社のトワーニは倒産してしまった。

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同時にOVA『Re:キューティーハニー』の総監督もつとめたが、これはかつてTVアニメ化をおこなった東映との共同制作。どちらかといえば、後にトリガーをたちあげるガイナックス若手の仕事という印象が強かった。

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この時期の庵野監督は『トップをねらえ2!』の4話コンテで話題をさらったりしつつも、他社の『サブマリン707R』OP演出が止め絵の連続だったりして、まとまったアニメの仕事はしていない印象があった。


一方、寡作の脚本家状態だった山賀監督は、2001年に漫画『まほろまてぃっく』をTVアニメ化し、これが監督2作目となる。シリーズ構成も担当して、2期も作られるくらいヒットした。

2期は最終回こそインターネットで不評だったものの、その途中で全く別のオリジナルTVアニメも監督していた。それぞれに庵野監督もOPコンテなどで少し参加していた。

それからの山賀監督はスタッフとしてクレジットされる仕事は少なくなっていったが、2003年前後は収入が見こめるアニメに堅実にかかわっていた印象がある。
そして今年頭には、福島にのれんわけされた会社でTVアニメ『ピアノの森』の2期を監督した。作画は国外だよりで、3DCGの演奏と静止画の群集が目立つものの、情感のある良い作品だったと思う。


もちろん両監督ともに、おおやけにクレジットされていない仕事もある。念のため、ここで語っている仕事量は、あくまで視聴者視点の話にすぎない。
しかしガイナックスの一時期に社長だった経営責任はあるとして、山賀監督がクリエイターに寄生するだけの放漫経営者でしかないかのような反応には首をかしげる
いくら庵野監督が名指しで批判した数少ない人物で、その放漫経営ぶりが具体的に語られているとはいえ、とある漫画の印象に引きずられていやしないだろうか。

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*1:庵野監督の寄稿で、ちゃんと最初に被害者をいたわる言葉がつづられているのが、地味に良かった。