デビュー作「トクシーヌ」をふくむ4編からなる、人形へのフェチズムに満ちたSF短編集。1991年に邦訳出版された。
- 作者: リチャードコールダー,浅倉久志
- 出版社/メーカー: トレヴィル
- 発売日: 1991/12
- メディア: 単行本
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巻末によるとサイバーパンク分野で期待されていたようだが、名前を聞いたことがなかった。
調べてみると、その後の長編SFの評価はかんばしくないようで、『デッド』3部作も途中で邦訳が止まっている。
現在の主な創作活動はファンタジー小説に移行しているらしい。
「トクシーヌ」は、機械仕掛けの人形を少年時代から偏愛することになった少年の行きつく果て。『シドニアの騎士』で使われている仇名の元ネタだろうか。
良くも悪くもSFというよりサイコサスペンスとして楽しめた。もともとの人形の仕掛けはSF的だが、狂的な主人公の視点で説明されているし、稼働するにはいたらないので、全てが妄想に感じられる。人間を人形化する手法も、ある程度まで現実でも可能そう。
「モスキート」は、退廃的な東南アジアの娼年が、先進国の陰謀を結果的に止めるサスペンス。SFガジェットを使ったスパイ作品のようで、わかりやすい娯楽活劇。主人公の男性が、男性の理想とする美女に自身を改造したサイボーグであることも、日本のサブカルチャーでおなじみなので、とっつきやすい。
「リリム」は、人造人間の美少女に思いをよせた父子家庭の少年の物語。童話のような語り口で、人形世界に導かれていく情景はよく描けている。
「アルーア」は、とにかく生きている服というSF設定の、生き生きとした描写が印象的。ショーウインドウのガラスを破って美しい衣服が走りだしていく場面の鮮烈さは忘れがたい。
そうしたSF的な衣服を着けるモデルやデザイナーの人種設定で、肌の色で人々を分断しようとする社会の問題にも目配せもしている。だが、そこは本題ではないかな。