面白いオーディオコメンタリーをつのる匿名記事が話題になっていた。
面白いオーディオコメンタリー教えて
解説としての情報量が少なかった悪例として、細田守作品のオーディオコメンタリーがあげられていた。
細田守作品→若い役者たちとおじさん監督がきゃっきゃしている→解説が中途半端になり、互いに気をつかっているので悪ノリとしても中途半端に
たしかに、スタッフの内輪しか考えていないかのようなコメンタリーは、よほどスタッフが好きでないとつらいだろう。
スタッフのひとりの地位が高くて、周囲が誉めるだけで情報を引き出さないパターンもつらい。
しかしそれよりも、まず聞いても面白さを期待できないパターンとして、声優だけのコメンタリーがある。
声優の声さえ聞ければいいというファンのは良いかもしれないが、作品のくわしい情報は期待できない*1。そもそも声優はそういう職種なのだから。
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声優はキャラクターの印象を決定づける重要な仕事でありつつ、実写作品の俳優と比べても最後のしあげだけ担当する部署。声優しか参加していないオーディオコメンタリーを聞くと、作品について語れることがなくなって声優個人の雑談になってしまうことがよくある。
基本的に完成した絵に声をのせていく仕事なので、実写映画と違って、他スタッフの仕事を見聞する機会が少ない。作品について語れる情報をもっていない。アドリブにも限度があるので、声優個人の仕事が反映される余地も少ない。
作品の設定や原作との差異なども考察して演技に反映させるようなタイプの声優もいるが、たとえ主人公であってもその声優の演技がいつまでもつづくはずもなく、どうしてもコメンタリーでは語ることがつきてしまう。
やはりスタッフ自身の語りがうまいことに加えて、そのスタッフが作品の全体を知っているコメンタリーが望ましい。
『化物語』以降は完全に台本を用意して声優にキャラクターを演じさせる手法も出てきたが、それが面白いとしても本来のオーディオコメンタリーとは違う役割りだろう。
ただ、実際は既存のオーディオコメンタリーにも進行台本のようなものは用意されているらしい。たとえば『劇場版 HUNTER×HUNTER―The LAST MISSION―』*2でコメンタリーの進行と台本がずれてしまったことに出演者が言及する場面があった。
ギャグアニメなどであれば画面に声優がツッコミを入れることで場がもつかと思えば、そうではない。
どんなギャグアニメでも、コメンタリーでたえまなくツッコミを入れつづけられるような作品は少ないし、ただツッコミを入れればそれで視聴者が楽しめるかというと難しいところだ。
たとえばTVアニメ『神無月の巫女』のコメンタリーを聞いたところ、たしかに明確なボケにはツッコミを入れるのだが、そこから話をふくらませることをせず、全体として雑談の域を出ていなかった。
最後に、はてなブックマークであがっていない範囲で、興味深かったコメンタリーをいくつかあげておく。
コメンタリーはかけあいするものだけでなく、監督が一人語りをするタイプのものもある。最近では『シャーロット・グレイ』*3という作品で、釈明まじりに制作意図を語る内容が興味深かった。
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それほど映画そのものは面白くなかったのだが、監督の説明とてらしあわせることで、どのような妥協によって映画ができあがっていったのかを知り、いくらか許容できるようになった。
また、史実を題材にして実際の史跡で撮影した作品だったので、映画から離れた小さな村の記憶すべき史実の記録として、独立して聞きごたえがあったのも収穫だった。
邦画であれば、本編とVFXの両方を山崎貴監督が手がけているからこそ、両方について語ることができた初監督作品『ジュブナイル』が印象深い。
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邦画としては先端的なVFXを使いつつ、アナログな特撮技術も併用しているので、メイキングエピソードを聞くだけで楽しい。本編も現代を舞台にしつつ当時としては意欲的な撮影をしていて、意外なこだわりを知る楽しさがあった。
オリジナルストーリーなので、さまざまな原作を感動的に実写化しようとする後年の作品群と違って、物語における試行錯誤なども素直に興味深く聞いていられた。
かなり古い映画であれば、映画のコメンタリーとしての面白味はそこそこだが、監督自身の半生と重ねあわせて楽しめる『連合艦隊』のようなコメンタリーもある。
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松林宗恵監督自身が元海軍士官であり、映画に対するコメントとは別個に、実体験の証言もいくつかあった。コメンタリーの性格上、その証言のすべてが裏づけられているとは考えにくいが、ひとつの情報として興味深く聞けたことはたしかだった。
そうでなくても、半世紀近く昔の作品コメンタリーになると、くわしい作品の情報を出演者が忘れているかわりに、当時の雰囲気を回想する証言録として興味深くなっていくパターンがある。
*1:声優自身が作品のファンとして感情移入するように語るコメンタリーは、いわゆる応援上映のような楽しみはできるかもしれない。