法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『未来惑星ザルドス』

2293年という遠い未来、獣人とされて半裸で生活している人々がいた。獣人は巨大な顔面岩を信仰し、それが吐き出す銃火器をうけとり、その武力で外界の秩序を制御していた。
しかしある日、飛行する顔面岩にもぐりこんだ獣人のひとりが、顔面岩を操縦していた怪しげな男をつきおとし、小さな村へたどりつく。そこには不老不死者エターナルが住んでいた……


童話のようなディストピアを描いた1976年の米国映画。ジョン・ブアマン監督が製作や脚本も兼任し、先日に亡くなったショーン・コネリー*1が主役の獣人を演じた。

未来惑星ザルドス [DVD]

未来惑星ザルドス [DVD]

  • 発売日: 2005/06/24
  • メディア: DVD

獣人に共通する赤いフンドシ姿のショーン・コネリーという、珍奇なビジュアルで知られる珍品SF。

ショーン・コネリー未来惑星ザルドス互角の色Barechested 8×10 HDアルミウォールアート

監督のオーディオコメンタリーによると、そんな安い服飾ですら遠景のエキストラはボディペイントですまさざるをえないくらい、制作費100万ドルほどの低予算作品だったという。
オーディオコメンタリーで監督はショーン・コネリーだから成立する服飾だと語っているが、たしかに似あわなければ滑稽なビジュアルだが、似あってもそれはそれで滑稽に思える。
合作したアイルランドでロケーション撮影した風景は広大で、当時の先端技術プラスチックを普通の農村に後づけした不老不死者の街はテリー・ギリアム作品のようで魅力的だが、その他のビジュアルはあまり感心できなかった。
いくら低予算とはいえ、当時の東映特撮TV番組『仮面ライダー』と大差ない特撮*2とアクションがつづくのは厳しすぎる……


野卑な野性的な男が声に導かれて書籍を手にし、少しずつ知識をたくわえて支配者への反抗をたくらむまでは、けっこう普遍的な反逆劇の良さはあった。
その反抗を誘導するエターナルのひとりの怪しさと、意外とあっさりした退場も味わいがある。たったひとりの反乱劇ではなく、協力者がいたのも良い。


しかしセクシーな美女を野生的な反逆者が征服していく構図は、ショーン・コネリー代表作の『007』シリーズのような古臭さを感じた。悪い意味で。
また、説明不足をさけるため冒頭に顔面岩の黒幕を登場させ、観客に説明する場面を追加したというが、そのため説明過剰な童話っぽさが強まった。そこで映画のモチーフである『オズの魔法使い』も早々に連想してしまい、中盤のどんでん返しの驚きもなくなってしまった。『2001年宇宙の旅』のようにとはいわないが、もう少し観客を信じて雰囲気をつくっても良かったのではないか。
DVD裏パッケージの作品説明では理想郷がディストピアとなる斬新さをうたっているが、その数年前には悲観的な未来を雰囲気たっぷりに描いた映画『ソイレント・グリーン』*3があったし、同年に人口抑制ディストピアを描いた『2300年未来への旅』も公開されている。日本では数年後に機械化人の永遠の命を求める『銀河鉄道999』が大ヒットした。ユートピアの実態がディストピアという構図も物語の定番だ。設定そのものは当時でも目新しくなさそうだが、観客はどう思っていたのだろうか。

*1:www.afpbb.com

*2:合成ではなく投影技術をつかった立体映像描写だけは今見ても良い。

*3:永遠な社会から退場していく者がいる構図も少し似ているか。 hokke-ookami.hatenablog.com