法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『グレムリン』

 ポンコツな発明ばかりしている中年男が、チャイナタウンで不思議な小動物モグワイを買いとる。モグワイを男はペットとして、若手銀行員の息子へプレゼントする。しかしモグワイを飼うには厳しい三つのルールがあった……


 1984年の米国映画。後に『グーニーズ』等の脚本を手がけるクリス・コロンバスが、デビュー前に各所へ送っていた脚本がスピルバーグの目に止まり、ホラーコメディとして映像化されたという。

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 監督をつとめたのはジョー・ダンテ*1。これまで都市部を舞台にした狂騒的な続編『グレムリン2』しか見たことがなく、十数年たってはじめて基礎となる1作目を視聴した。


 サイケデリックに小ネタをつめこんでメディア的な暴走からグチャドロエンドをむかえる2作目に対し、1作目はホラーコメディでありつつもクリスマスらしく端正な寓話のムードがある。
 SFクリーチャーとしては機序のはっきりしないモグワイのルールも*2、ファンタジーの小道具として主人公を失敗させる足枷と思えば理解しやすい。
 モグワイを買った男のポンコツな発明が事態の収拾に役立たず、いくつかの攻撃につかわれる場合も一般的な道具と大差ないところは、伏線として無意味だと思った。しかしオーディオコメンタリーを聞いて、いつまでもつづく失敗はモグワイの飼育に失敗することの伏線であり、文明の限界を風刺しているのだと理解できた。
 分裂して怪物化していくモグワイはたしかに恐ろしいし、冗談のように人間が殺されていくが、サイズが小さいままということもあって脅威度は低い。かわりに知能が高くて、人がつくった文明の利器を悪用していく。商店街や映画館で乱痴気さわぎする姿も、理解不能な異生物というより消費文明の戯画化だ。クリーチャーとしての弱さや、ショッピングモールを舞台にしたクライマックスで映画『ゾンビ』*3を思い出したが、そもそも風刺の構造が同じなのだ。
 日本の自動車産業に文句をつけていた男が比較して賞賛した米国のトラクターで被害にあう皮肉も、日本批判ではなく文明批判と解釈するべきだろう。チャイナタウンの中華系らしい老人も、自然を安易に利用することを導師のように戒めて、主人公の街から去っていく。オリエンタリズムに満ちた作品だが、けして排外主義的ではない。


 全体として作り物めいた映像も寓話らしいムードをささえる。モグワイはヌイグルミに毛が生えたようなキャラクターで、分裂した集団で道路をわたるモデルアニメーションも一瞬ですまされる。
 冒頭のチャイナタウンはメイキングを見るまでセットと確信できなかったが、本編のタイトルバックは明らかに常設セット*4とマットペイントのくみあわせ。超常が去りゆくラストカットにいたっては完全に絵本の世界だった。

*1:同時期にオムニバス映画『トワイライトゾーン/超次元の体験』の一編 「こどもの世界」を監督していたが、同映画でジョージ・ミラーが監督した「2万フィートの戦慄」がグレムリン伝説をシリアスに映像化している奇遇がおもしろい。

*2:たとえば真夜中の12時以降に食事をさせてはいけないというルールは、裏設定の宇宙生物だとすると、地球現地の太陽基準の時刻にあわせる意味がわからない。いつから普通に食事をさせていいかもはっきりしない。

*3:hokke-ookami.hatenablog.com

*4:日本の一般的な市街セットよりは広いが、カメラワークから片面だけ飾りこんでいることが明白で、舞台劇の書き割り感がある。ちなみに同時期の『バックトゥザフューチャー』と並行して撮影していたことがオーディオコメンタリーで語られている。