京都を舞台に、男装で江戸前寿司を握る少女と、アルバイトとして転がりこんだ少年を描く料理漫画。2011年から2013年にかけて連載され、単行本にして全10巻で完結した。序章にあたる「第一貫」はWEBで無料配信中。
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料理漫画らしく、料理について何も知らない少年の視点で、珍しい料理で客を驚かせる展開から始まる。しかし連載が長引きそうになったころから、登場人物の裏事情で物語を引っぱりはじめ、それが料理の面白さと融合しないまま話数を重ねていった。
最終的に、料理漫画としても職人漫画としても中途半端なまま、それでも人間関係を整理して何とか完結した。
高級な京料理と大衆向けの寿司を対比させながら、それぞれの良いところを合わせていくという中盤からの基本構図は悪くない。どれだけ工夫や新規性を入れようとしても、江戸前寿司だけでは画面の変化に限界があろう*1。
しかし京料理と対決させるために、少年が料亭から逃げだした跡取り息子だったという裏事情を出すのは、伏線が足りない。第一貫を読み返しても、料理について何も知らなすぎる少年の人物像に違和感しかない。
しかも寿司職人の少女のライバルになるのは、少年へ近親愛的に依存する妹だ。少年自身が料理人にかかわる背景を持つ必要はない。終わってみれば跡取り息子という設定は流された。妹の依存も原因すら明確にならないまま解消された。少年は、ライバル少女の兄貴分だったと設定するくらいで充分だった。
いわゆる「ヤンデレ」な妹の刺激的な描写にたよったことで、中盤の対決において料理の印象が後退してしまったし、少女と妹の他には明確な対決をつくれなかった。
包丁をめぐる後半の物語は面白かったが、今度は勉強熱心な少女が無知な姿に違和感がつきまとう。寿司職人が京料理人より包丁にくわしくない背景は納得できたが、それでもここは無知な少年の視点で物語るべきだった。少年が実は料理関係者だったことが、ここでも視点のぶれをまねいた。
おまけに少女が男装していた理由にも、レイプ未遂という刺激的なトラウマを用意してしまう。職人の世界における女性への偏見や排外が言及されるが、その問題を重すぎる犯罪として表出させたため、きちんと過程をふんで解決させることができず、最終回で時間を飛ばして解決できたことにしてしまった。やんわりとした差別意識くらいの背景にしておけば、もっと普遍性をもった物語として昇華できたと思うのだが。
*1:スポ根物のように、新しい料理を出すのではなく、技術の研鑽という方向で物語をつづける方法もありうるが。